Slack
シリコンバレーの技術者たちのお気に入りツールであり、いまやセールスフォース(Salesforce)の傘下となったSlackは、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークが世の中の主流になる中、メッセージングアプリとしての世間の評価を変え、テック企業以外にもその魅力をアピールしようとしている。
この転換を押し進めるためSlackは、デリバリーのスタートアップ、デリバルー(Deliveroo)と、融資関連事業を行うNPOのキヴァ(Kiva)の事例を取り入れた新しいマーケティング・キャンペーンを始めた。
そのキャンペーン広告では、金融から物流に至るあらゆるチームで、複雑なプロジェクトを調整・推進するためにSlackをどう活用できるかが紹介されている。
Slack
同社は、ストリーミング、テレビ、ポッドキャスト、SNSで展開されるこのキャンペーン予算については公表していない。しかし、Slackのグローバルブランドマーケティングとクリエイティブ戦略担当バイスプレジデント、コリン・マクレー(Colin McRae)は、その額は「かなりの額」になるだろうと述べている。
公開企業として最後となった決算説明会で同社CFOが説明したところによると、Slackは2021年第1四半期の収益の47%、9500万ドル(約120億円、1ドル=127円換算)を営業とマーケティングに費やした。
マクレーは、企業がハイブリッドな働き方に順応していく際に、Slackがあらゆる職種のチーム、あらゆる規模の企業で有効に使えることを示すことが重要だったと言う。
「このキャンペーンは、我々が自社サービスの立ち位置を考えた上で、市場へのアプローチ方法をどう変化させていくかを表しています」とマクレーは言う。「これは組織としての大きな転換となります」
Slackはパンデミックの中、ハイブリッドワークの普及で飛躍を遂げたが、2021年、企業向けソフトウェア大手のセールスフォースに277億ドル(当時のレートで約2.9兆円)で買収された。セールスフォースは、Slackの売上高が2022年度の約11億ドル(約1390億円)から、2023年度には15億ドル(約1900億円)に拡大すると見込んでいる。
Slackは買収発表の中で、「既存のワークフローの中で、従業員、顧客、パートナーを相互につなぎ、また彼らが毎日使うアプリともつなぐための一つのプラットフォーム」を作り上げることを目指すと述べている。
「私は、ナイキ(Nike)がアスリートを見るように、顧客を見ています」とマクレーは語る。「私たちは、仕事の質を向上させるわけではありません。ただユーザーが素晴らしい仕事を成し遂げられるようにするだけです」
変化するビジネスツールに合わせた新しいマーケティング
Slackは、創業者のスチュワート・バターフィールド(Stewart Butterfield)が創業し、かつて存在したゲーム会社向けのメッセージングツールとして開発された。以来、ウーバー(Uber)、プライスウォーターハウスクーパース (PwC)、スカイニュース(Sky News)といった企業に広く使われてきた。ビデオ通話や音声メッセージなどの機能が追加され、Google Drive、Jira、セールスフォースのようなサードパーティアプリケーションとの幅広い統合も強みとしている。
マクレーは、かつて本社が「人々が集まり、会話と成果を生み出す場所」と見なされていたように、Slackも企業にとってのそんな存在になってほしいと考えている。
「私たちは、シンプルなメッセージングプラットフォームから、より強固なデジタル・ヘッドクオーター(本社)に変化したのです」とマクレーは語る。「これはまさに、私たちがブランドとして進化し、Slackの位置づけが変わったということなのです」
Slackは現在、オフィスで日常交わされている会話を再現する「ハドル(huddles)」や、プレゼンテーションなどが記録できる「クリップ(clips)」といった機能を搭載している。
「このような非同期的な働き方というコンセプトは、当社のプロダクトのポジショニングが根本的に変わったからこそです」とマクレーは言う。
ハイブリッド型の労働者に賭けるSlack
Slackは、実際の導入事例を通して、このプロダクトに込めたこだわりを多くの人に知ってもらいたいと考えている。
今回のSlackの新しい広告では、金融系NPOのキヴァが、Slackを使って世界中の部門横断チームがつながり、顧客に融資を行っていることを詳しく説明している。また別の広告では、イギリスのデリバリースタートアップ、デリバルーがパンデミックの中、Slackを使いイギリスの医師に100万枚のピザを送ったことを紹介している。
Slack
「私たちにとってこのデジタル・ヘッドクオーターという考え方は、非常に強力です。プロダクトのロードマップを見ながらこの先どう展開させるかを考える上でも、非常に持続性がある考え方だと思っています」とマクレーは話す。
「これですべてが分かったと言うつもりはありませんが、私たちはいま転換期にいて、自分たちが生きている世界はこんなふうになっているんだとおぼろげに理解しつつある最中です。私たちは、ハイブリッドワークの力になるのです」
Slackは企業向けメッセージングアプリの大手であり、マイクロソフトのTeamsと競合している。
シリコンバレーのスタートアップ企業の間ではその名が知らているが、現在は金融サービスやヘルスケアなど、テクノロジー以外の業界にも目を向けている。 「認知度調査から、Slackを知らない人がいることは分かっています。認知はしていても使い方は分からないという人もいるかもしれません」とマクレーは言う。
最近ハイテク企業の株価が急落しているが、Slackがあらゆる業界の企業にアピールするために転換したのは、株価の下落に反応した動きではないとマクレーは強調する。「(顧客の)ポートフォリオを多様化することは、企業の持続性を高めることにつながると言えるでしょう」
[原文:Slack is spending big on a 'massive' marketing pivot as it repositions its brand for hybrid work]
(編集・大門小百合)