米電気自動車(EV)スタートアップで2021年7月に上場を果たしたルーシッド・グループ(Lucid Group)が生産品質の問題に苦しんでいる。画像は最上位モデル「エア・グランド・ツーリング」のダッシュボード。
Lucid Group
米電気自動車(EV)スタートアップのルーシッド・グループ(Lucid Group)は、増産に向けた足かせとなっている品質問題への対応を強化するため、経営幹部2人の配置転換を進めている模様だ。内情に詳しい関係者がInsiderに語った。
ルーシッドの生産担当バイスプレジデントで、独アウディ(Audi)で長年活躍し、その後米EV最大手テスラ(Tesla)でバイスプレジデントを務めたピーター・ホーホルディンガーは生産担当を離れる。
目下の混乱に対処するため、グローバル品質担当バイスプレジデントのニコラス・ミンビオールが生産からサプライチェーン、パッケージング(=車体骨格と内部レイアウト含む基礎構成)までの品質管理を担当する。本件を直接知る関係者3人が明らかにした。
テスラの直接の競合相手になるとみられるルーシッドは2022年内にフラッグシップモデルを数千台規模で出荷する計画だが、生産の進捗状況は予想より遅れており、今回の動きはその巻き返しを図るのが狙いとみられる。
従業員、元従業員ともに秘密保持契約(NDA)の縛りがあるため、あるいは社内の情報について公の場で発言する権限を持たないため、上記はすべて匿名の情報提供に基づくものだが、情報提供者の身元詳細はInsiderが把握している。
他の多くのEVスタートアップと同様、ルーシッドが抱える課題は生産工程にとどまらない。
同社は5月25日、スピードメーターなどを表示するディスプレイスクリーンの不具合を理由に、2021年10月末に納品を開始した2022年モデル1100台強をリコールすると発表。サスペンションの不具合で200台をリコールした2月に続き2度目だ。
ルーシッドの株価は2021年11月に最高値57.75ドルを記録したものの、その後下落を続け、5月27日時点では19ドル前後で推移している。
また、同社は2021年7月の特定買収目的会社(SPAC)との合併上場前に不適切な説明を行ったとして、複数の株主代表訴訟を起こされている。
そうしたさまざまな課題を抱えるルーシッドだが、最大の課題は品質だと情報筋はInsiderに語る。生産現場からは、フロントガラスの破損や部品の取り付け不良、組み立て時の支障など問題が相次いで報告されているという。
ルーシッドの広報担当はInsiderの取材に対し、以下のようにコメントしている。
「2022年末までの生産台数目標として掲げる1万2000台〜1万4000台を達成するため、安定的な高水準の品質管理を必ずや実現します」
生産現場の実情
米カリフォルニア州ニューアークに本拠を置くルーシッドは、2021年9月にラグジュアリーEVセダン「エア(Air)」の生産を開始。先述のように10月末に初号車を納品し、2022年第1四半期(1〜3月)終了までの納品合計は485台(第1四半期の生産台数は700台)。
当初は2021年末までの生産目標を520台としていたが未達に終わり、2022年の目標も当初の2万台から、すでに触れたように1万2000台〜1万4000台まで引き下げた。
Insiderは以前の記事(4月22日付)で、サプライチェーンの支障で部品が不足しアマゾン経由で購入したり、アリゾナ州カサグランデにある工場の応援部隊としてカリフォルニア本社から事務スタッフを派遣したり、ガラスの破損や部品の取り付け不良など最終の組み立て段階の品質確保に苦しんだり、購入者の自宅に開発者を派遣してソフトウェアの不具合に対処したり、ルーシッドの悪戦苦闘ぶりを報じている。
米投資銀行グッゲンハイム・セキュリティーズ(Guggenheim Securities)の自動車産業アナリスト、アリ・ファグリはInsiderの取材に対して5月前半にこう語った。
「ルーシッドの生産台数引き上げペースは依然として遅々としたものです。投資家は同社が設定した目標を計画通りのスケジュールに沿って達成するのが難しくなるのではないかと深く懸念しています」
ルーシッドの経営陣は決算発表の場で、生産が思うように進まない主な理由を自動車産業全体におよぶ供給制約のせいと説明してきた。
ピーター・ローリンソン最高経営責任者(CEO)は2022年3月、ガラスやフロアカーペット、外装品などの入手が困難になっていると発言。その後も半導体不足など懸念を表明している。
人材不足や供給制約、ウォール街からのネガティブな見通し評価は、実績のある自動車メーカーですら乗り切るのが厄介(やっかい)な問題だ。
ましてや、フラッグシップモデルで話題を呼ぼうという創業間もないEVスタートアップにとっては相当なプレッシャーになり得る。
しかも、アーリーアダプターにしっかり良い印象を残して次の顧客につなげたいと考えるそうしたスタートアップにとって、品質はますます重要になる。
ローリンソンCEOはこう強調する。
「残念ながら、目に見える部品が絶対完璧でなければ、クオリティカーは販売できません。十分な品質の部品を十分に確保でき次第、エア・ドリームエディションを納品する考えです」
しかし、内情に詳しい関係者のなかには、このスタンスがルーシッドの足かせになっていると指摘する声もある。同社でマネジャーを務めた人物はこう語る。
「高品質にこだわり抜くマインドセットそのものには何の問題もありません。ラグジュアリーEVに17万ドルも支払う購入者からすれば、製品は絶対完璧でなかったら納得いかないでしょう。
ただ、そのこだわりのレベルがベントレーやロールスロイスのような品質ではなく、レクサスくらいの品質だったなら、ルーシッドはもう少し早く生産を軌道に乗せられたのではないでしょうか」
(翻訳・編集:川村力)