左から伊藤忠エネルギー部門長の山田哲也氏、エディハト航空日本支社長の稲葉則夫氏、Nesteアジア太平洋地域SAF事業統括サミ・ヤゥヒアィネン氏。
撮影:三ツ村崇志
伊藤忠商事は、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)をUAEの国営航空会社であるエティハド航空に提供する販売契約を結んだことを5月27日の会見で発表した。提供する燃料は、フィンランドにあるSAF世界大手のNesteが製造する。日本の空港で海外の航空事業者にSAFを販売するのは今回の事例が初めて。エティハド航空へのSAFの供給は、2022年6月から成田国際空港で実施される予定だ。
伊藤忠はANA(全日本空輸)とフィンランドにある世界最大手のSAFメーカーNesteと協働して、2020年に日本初となる航空機の商用フライトでのSAF供給を実現。2022年2月には、Nesteと日本での独占販売契約も結んでいた。
SAFのサプライチェーン構築は喫緊の課題
Neste社のSAF。
撮影:三ツ村崇志
いまや世界のあらゆる産業に押し寄せている脱炭素化の波。
航空業界ではその対応として「SAF」の利用が推進されている。
SAFは、使用済み油などの廃棄物や藻類など、持続可能とされるさまざまな原料から製造された燃料だ。サプライチェーンを経由したライフサイクル全体での温室効果ガスの排出量は、既存の石油由来の燃料より最大で約80%ほど少なくなると試算されている。
国際航空運送協会(IATA)は、2021年12月に、2050年までに航空業界のカーボンニュートラルを実現すると発表。その65%をSAFの利用によって達成する計画だ。
日本でも、2021年12月に国土交通省から「2030年までに国内で使用している航空燃料の10%(約130万キロリットル)をSAFに置き換える」とする方針が示されると、この3月には民間企業によるSAFの供給に関する有志団体が発足。4月には、SAF供給に関する官民協議会も設立された。
伊藤忠商事の山田哲也エネルギー部門長は、記者会見で
「国際民間航空機関(ICAO)が提唱する国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム(CORSIA)により、各加盟国では規制の動きが始まっています。また、国内線においても、パリ協定遵守の観点から排出規制施策が政府レベルで検討されており、SAFの供給ネットワークの構築・拡充が急務となっている」
と国内外の状況が変わっていく中で、国内のSAFに関するサプライチェーンの構築を加速させる必要性を語った。
欧米では「飛び恥」に代表されるように、大量の化石資源由来の燃料を消費して移動する航空機を忌避する流れが起きている。この影響から、欧米の航空会社を中心に、続々とSAFを導入する機運が高まってきた。
当然、この流れに対して、日本も他人事ではいられない。
かなり極端に考えると、将来的に日本の空港でSAFの供給ができなければ、日本での離発着そのものを避けられてしまうリスクがある。
そのため、日本国内でSAFの生産体制を確立することはもちろんのこと、国内におけるSAFのサプライチェーンの構築・拡大は急務となっているわけだ。
世界最大手のSAFメーカーのアジア進出
Neste社のSAF供給体制。
提供:伊藤忠商事
伊藤忠を介してSAFを供給する世界最大のSAF製造メーカーのNesteは、原料である使用済み油などからSAFを製造し、既存の化石資源由来のジェット燃料と混ぜ合わせる工程※までを担当。伊藤忠は、Nesteが製造した燃料を一度自社の輸入タンクへ移送し、各空港への運搬・供給を担う。空港では既存のジェット燃料のサプライチェーンをそのまま利用することが可能だ。
※SAFは既存のジェット燃料と最大50%まで混合して使用される。
現在、NesteはシンガポールとオランダでSAFプラントの拡張・改修工事を進めており、2023年末までに生産量を年間150万トン(約1875万キロリットル)にまで増やす計画を進めている。
Neste社のSAF事業統括、ランゲ・トーステン副社長。
撮影:三ツ村崇志
NesteのSAF事業統括、ランゲ・トーステン副社長は、記者会見に寄せたビデオメッセージで
「そのうち、100万トンは2023年はじめにシンガポールの製油所から供給され、さらに50万トンがロッテルダム(オランダ)から供給される予定です」
と語った。
NesteのSAF供給先は、現状は大半が欧米諸国だ。ただ、大規模な生産拠点がシンガポールに位置することからも、NesteにとってまだSAFの供給網が確立していないアジア地域の役割はビジネス戦略上でもかなり重要になってくるはずだ。
また、シンガポールから記者会見に参加した、Nesteのアジア太平洋地域SAF事業統括、サミ・ヤゥヒアィネン氏は、記者会見の中で、
「SAFの導入に意欲的な航空会社の存在や、政府の導入目標・支援制度などのあり方などを考慮すると、今後アジア地域ではニュージーランドやオーストラリアなどへの展開も考えられる」
とも発言している。
(文・三ツ村崇志)