アリババグループの2022年1-3月は大幅減益だったが、市場予想は上回った。
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中国メガIT「BAT」(アリババ、テンセント、バイドゥ)の2022年1-3月決算が出そろい、3社ともに大幅減益となった。中国IT株は1年半にわたって下落トレンドが続き、ソフトバンクグループの業績にも大きな圧力となっている。3月以降は新型コロナウイルス拡大と中国のゼロコロナ政策の影響も逆風として吹き付ける。ただ、好決算とは言えない内容にも、市場の反応は悪くない。なぜだろうか。
まず、各社の決算をレビューしたい。BATと言われながら、バイドゥは数年前から成長が鈍化し、中国のIT業界は実質的にアリババとテンセントの2社が抜きんでている。だが、バイドゥとアリババが同日に決算を発表したこともあり、今回は3社をまとめた。
アリババグループ:通期の増収率は上場以来最低
アリババグループはECプラットフォーム「天猫(Tmall)」などを運営する業界最大手で、フィンテック子会社アント・フィナンシャルをはじめ、物流、小売りなど幅広い事業を展開している。
2022年1-3月期の売上高は前年同期比9%増の2040億5200万元(約3兆8700億円、1元=19円換算)で、営業損益は167億1700万元の黒字(前年同期は76億元の赤字)。最終損益は162億元(約3000億円)の赤字だった。同社によると赤字の主因は、投資している上場企業の株価下落。
主力のECプラットフォーム「Tmall」と「淘宝(タオバオ)」のGMV(流通取引総額)は1-2月は安定していたが、3月はコロナ禍でサプライチェーンや物流が寸断されたほか、需要の減少で数パーセント落ちた。
アリババは22年3月期通期の決算も発表した。売上高は前期比19%増の8530億元(約16兆2000万円)で、通期の伸び率としては上場以来最低だった。純利益は59%減の619億元(約1兆1700億円)に落ち込んだ。
テンセント:広告不振で51%減益
テンセントは10億人超が利用するメッセージアプリ「WeChat」を運営するほか、世界最大のゲーム企業としても知られる。
2022年1-3月期の売上高は1354億7100万元(約2兆5700億円)で前年同期から横ばい。最終利益(国際会計基準)は前年同期比51%減の234億元(約4400億円)だった。国際会計基準での最終減益は10四半期ぶり。
大幅減益の最大の要因は広告事業の不振。同事業の売上高は前年同期比18%減少し180億元(約3400億円)だった。政府の規制が強化された教育やゲーム分野の広告収入が昨年後半から落ち込んでいるほか、テンセントは「新型コロナウイルスの流行による経済活動の制限が広告全体に打撃を与えた」と説明した。
ゲーム事業の国内売上高は同1%減少し330億元(約6300億円)。海外売上高は同4%増の106億元(約2000億円)だった。規制の影響が数字にも出ているが、国内外でリリースした新作タイトルが軒並み好調で、次期以降の業績への貢献が期待できるという。
近年力を入れているフィンテック・企業サービスが同10%増と最も伸び、売上高も428億元(約8100億円)とゲームを超えた。
バイドゥ:売上高1%増、オンライン広告不振
バイドゥは検索ポータル運営で有名だが、最近はAIに投資し、自動車製造にも進出した。
2022年1-3月期の売上高は同1%増の284億1100万元(約5400億円)。最終損益が8億8500万元(約170億円)の赤字だった(前年同期は256億5300万元の黒字)。赤字は2四半期ぶり。
中核事業の売上高は4%増の214億元(約4000億円)。うちオンラインマーケティング事業が4%減の157億元(約3000億円)だった。非オンラインマーケティング事業は、クラウド事業やAI事業が好調で、35%増の57億元(約1000億円)となった。
バイドゥの創業者でCEOの李彦宏氏は、「3月中旬以降のコロナ禍の影響を受けた」と述べた。ゼロコロナ政策による経済停滞で広告市場が縮小したほか、保有株式の価値も低下した。
アリババ決算は「想定以上」、株価急騰
ゼロコロナ政策の経済への負の影響は4-6月期により顕在化するとみられている。
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テンセントの決算が発表された翌日の5月17日、香港市場で同社株は6.5%下落した。売上高と純利益が市場予想を下回り、増収率も上場以来最低にとどまったことが嫌気された。アリババの株価もつられて7.4%下落した。
一方、アリババとバイドゥの決算発表翌日の27日、香港市場のテック株は大幅続伸となった。
アリババの売上高の伸び率はテンセント同様に2014年の上場以来最低だったが、市場予想を上回ったことで安堵感が広がったようだ。アリババ株が12%高となり、テンセント、バイドゥ株も大幅続伸した。中国政府の規制という1年半続く地合いの悪さにウクライナ危機、コロナ禍とリスクが増大し、投資家の懸念が高まっていたが、アリババの底堅さが確認され、あく抜けにつながった。
ただ、底打ちしたと捉えるのは時期尚早かもしれない。上海だけでなく北京や大連など多くの都市で学校や出勤を停止されているが、中国は宅配物や配送員も感染拡大のリスク要因と見なされ、移動に制限がかけられているため、オフライン・オンラインともに消費が停滞している。
アリババの張勇(ダニエル・チャン)会長は4月のタオバオとTmallのGMVが10ポイント以上下がったと明かした。今後の消費の回復は、サプライチェーンと物流の回復にかかっているとの考えも述べた。
上海のロックダウンは3月末に始まり、今も行動制限が続く。中国政府は6月から段階的に経済を正常化させる方針だが、上海が元に戻るのはあと数カ月かかるとの声が多い。テンセントとバイドゥは広告事業が低迷するが、4-6月期はさらに業績が悪化する可能性が高い。
アリババの株価は1年半で7割下がり、他の中国IT企業も3~7年来の安値水準に沈んでいる。悪材料が出るたびに大きく下げた結果であり、市場の疑心暗鬼は今後も続くだろう。
成長分野のクラウド、米企業との競争も
アリババのクラウド事業はサービス開始以来初めて通年で黒字を達成した。
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ゼロコロナで消費者向け事業が不振に陥る中で、各社とも力を入れているのが企業向けサービスだ。
アリババの2022年通期のクラウド事業の売上高は1000億8000万元(約1兆9000億円)で、1000億元の大台を突破した。利益は11億4600万元(約220億円)で、2009年のサービス開始以来、初めて黒字化した。
バイドゥのクラウドスマート事業の売上高は同45%増の40億6000万元(約770億円)。テンセントも前述したようにクラウドを含むフィンテック・企業サービス事業が最大の収入源に成長した。
同分野は3社のほかファーウェイや中国の通信キャリア企業も有望分野として強化しているが、アマゾン、マイクロソフト、グーグルのアメリカ勢との差は大きい。
最大手のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は2022年1-3月期に同37%増の184億ドル(約2兆3300億円、1ドル=127円)、純利益は同57%増の65億2000万ドル(約8200億円)だった。アリババのクラウド事業の1-3月の増収率は過去最低の12%増にとどまっており、今後も競合大手との競争にさらされるだろう。
テック大手にとっての良いニュースは、ゼロコロナ政策で経済が失速したことを受け、政府がIT企業の規制緩和に動いていることだ。
5月17日に開かれた国政助言機関の人民政治協商会議(政協)では、「プラットフォーム経済や民間企業の持続的で健康な発展を支持する」と、IT企業の国内外での株式上場を促進する方針が示された。
テンセントが主戦場とするゲーム規制も、若干ではあるが締め付けが緩んでいる。中国当局は昨年8月以降、新作タイトルのリリースに必要なライセンスの審査を中断していたが、今年4月11日、8カ月ぶりに45作品のリリースを許可した。テンセントの作品は含まれていなかったが、劉熾平総裁は決算説明会で「最初に小さな会社に(ゲームリリースのための)ライセンスを渡すのは非常にいい方法。(資金力のある)テンセントは後回しでいい」と述べ、審査再開が業界全体に好影響をもたらすとの考えを示した。
ゼロコロナの爪痕は深く、BAT、IT業界に限らず中国経済の4-6月期のさらなる悪化はほぼ間違いない。ただ、経済回復を急ぐための手段として、IT企業を取り巻く環境は短期間ではあっても好転するシグナルが増えている。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。