官僚によるピッチイベントに審査員として招かれた元行政改革担当相の河野太郎氏。
撮影:横山耕太郎
「『霞が関は地獄じゃない』。それを伝えたいと思ってこの場に来ました——」
2022年5月29日、霞が関で働く現役官僚が集まり、それぞれ省庁などが独自に取り組んできた働き方改革について発表するピッチイベント「“意外と変われる”霞が関大賞」が開催された。
イベントには農林水産省や環境省、経済産業省など6省庁と2つの任意団体が参加。審査員として、元行政改革担当相の河野太郎・自民党広報本部長らが出席し、取り組みを評価した。
イベント終了後にBusiness Insider Japanの取材に応じた河野氏は、「霞が関が機能しないと、国民生活に影響がでる。中途採用の年次で差をつけるなど、下らないルールをなくさないといけない」と話した。
グランプリは文部科学省有志
チャットツール導入の過程などが評価され、グランプリに選ばれた文科省の有志。
撮影:横山耕太郎
ピッチイベントでは、オフィスのフリーアドレス化や、中途採用の通年実施、外部の組織と連携した職員研修など、働き方などに関する取り組みを発表。
その中でグランプリを獲得したのは、文部科学省有志職員による発表だった。
文部科学省では、2022年1月にチャットツール・slackや、クラウドサービス・boxを導入。これらのツールを活用するため、有志の職員が部局を横断した「伝道師」役になり、効率的な使い方を広める活動を続けている事例を紹介した。
河野氏は選出理由について「省内のDXの遅れをどうするのかは難しいところだが、ツールをうまく使っている。自分たちの創意工夫が役所内で通るという環境を評価したい」と話した。
民間企業では導入が進んでいるチャットツールやクラウドサービスだが、霞が関ではセキュリティーなどの面から導入が遅れ、各省庁で対応にばらつきがある。河野氏はこうした霞が関の現状について、イベント後にこう指摘した。
「霞が関では業務を効率化するツールの導入が遅れている。霞が関ではセキュリティーの都合で、『あのサービスはだめ』というが、そのサービスがホワイトハウスや各国の軍でも使われているものもあり、ただ思考停止していることがある」
中途人材が感じる「虚しさ」
霞が関の中途採用では、年次の取り扱いが課題の一つとなっている。
出典:ソトナカプロジェクト提言資料
また審査員賞には、企業から霞が関への転職者らで作るプロジェクトチーム「ソトナカプロジェクト」が選ばれた。
ソトナカプロジェクトはプレゼンで、霞が関の中途採用の人数が全体の1%にすぎないと説明。
その上で、同プロジェクトが中途採用者約100人に実施したアンケートでは、社会人歴が10年目であったとしても、霞が関に転職した際の年次では10年目とは扱われないこともあるとして、「むなしさを感じている職員もいる」とした。今後は各省庁に中途採用の見直しを求めるほか、中途人材によるコミュニティを活性化させるという。
審査員で元厚労省官僚の千正康裕氏は「外から来た人たちが、やりがいがある仕事だと中から発信することは中途採用の活性化につながる」と評価した。
「60点主義」に高評価
もう一つの審査員賞には、統計データ利活用センター(総務省)が選ばれた。
同センターでは業務改善を目的に、プロトタイプでは完璧を目指さず、まずは6割の完成度を目指す「60点主義」や、勤務時間の管理における無駄な作業を削減し、効率化を進めた。
審査員を務めたワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏は、「残業をしないために効率化を徹底している。やりがいを持てる取り組みを業務に乗せていくという発想ではなく、今ある業務を削っていることが素晴らしい」とした。
河野氏が指摘する3つの課題
イベントには人事院総裁の川本裕子氏もオブザーバーとして参加した。
撮影:横山耕太郎
河野氏は2020年9月に組閣された菅内閣で、行政改革担当相に就任。就任後には、若手官僚の離職問題を提起したほか、脱ハンコの推進、霞が関の残業代の未払い問題に切り込むなど、働き方改革を進めた。しかし2021年10月には現在の岸内閣が発足。河野氏が大臣を離れたことで、霞が関の内部からは「発信力の大きい河野氏がいなくなったことで、霞が関の働き方改革が停滞している」との声も聞かれる。
河野氏は、霞が関の働き方改革の現状について、マッキンゼー出身の川本裕子氏が人事院総裁に就いていることを挙げ「人事院が変わりつつあり、働き方改革が着実に進んでいる」との認識を示した。
「今回の国家公務員試験の受験者も増えている。働き方改革が進んできているという認識が、大学生にも広がっているではないか」
また河野氏は行政改革担当相時代に、民間と霞が関を行き来できるキャリアの回転扉(リボルビングドア)の必要性を主張。霞が関のリボルビンドアの現状については、
「外から転職して来た場合に、年次の扱いに差がつけられる場合があるなど、くだらない勝手なルールは早くなくさないといけない。また中途採用が増えていけば、年次で人事を決めている霞が関のルールもどこかで外さないといけない」
とした。
一方で霞が関が抱える問題としては、「最大の課題である国会対応、そしてDXなど業務の効率化。3つ目は無駄な業務を削減すること。この3つに切り込まないといけない」と述べるに留めた。
(文・横山耕太郎)