楽天と西友、パナソニックの自動配送ロボットがつくば市で走る。
撮影:小林優多郎
街中で荷物を運ぶのは人からロボットになる。そんな未来の話がまた1歩近づいた。
楽天グループと西友、パナソニック、つくば市は、5月28日から自動配送ロボット(UGV)の公道走行による配送サービスを始めた。
自動配送ロボットがつくば市内を走る様子。
撮影:小林優多郎
7月30日までの毎週土曜日(計10日間)に実施され、茨城県内にあるつくばエクスプレスの終点であるつくば駅の周辺約1000地帯を対象に、「西友つくば竹園店」で取り扱う商品がロボットによって届けられる。
ネットスーパーのノウハウで生鮮食品・冷凍商品などに対応
専用の保冷ボックスで、一定の温度に保つ必要のある商品の配送にも対応した。
撮影:小林優多郎
楽天と西友、パナソニックは過去にも同様の実証実験を行っている。今回のつくば市での取り組みで新しくなった点は以下の通りだ。
- 注文から最短30分後に届ける「オンデマンド配送」に対応。
- 生鮮食品、冷蔵・冷凍商品、お弁当、お惣菜の配送に対応。
- 配送料として「110円(税込)」を設定。
- 遠隔管制拠点を「Panasonic Laboratory Tokyo」(東京都・銀座)に設置(従来はサービス提供地域の周辺に設置していた)。
- 初めて楽天モバイルの通信回線を活用(今回の実証実験では楽天モバイルを含め複数のモバイル回線を使い分けている)。
利用者目線で特に重要なアップデートは「生鮮食品、冷蔵・冷凍商品、お弁当、お惣菜の配送に対応」だろう。
ロボット自体はパナソニック製。安全自立走行プラットフォームの開発は同社が行っているが、ロボットの庫内は楽天グループによる開発。
撮影:小林優多郎
例えば、2021年3月23日から4月22日まで実施されていた実証実験では、これらの配送はできなかった。
今回、自動配送ロボット自体の機能や性能に大きな変更はないが、楽天と西友はロボット内に設置する専用の保冷ボックスを開発して対応した。
この保冷ボックスは1.5時間、商品の温度を一定基準内に保つことができ、楽天と西友が展開する「楽天西友ネットスーパー」で培ったノウハウで開発したという。
現実的な「30分のオンデマンド配送」「配送料110円」
目的地に向かって走るロボット。
撮影:小林優多郎
最短30分のオンデマンド配送も人間ではなくロボットでの配送が現実になる時に求められるサービスの1つだ。
実際、5月26日の報道関係者向けデモンストレーションで商品を購入した藤沢直子さん(40代・パート)も「ネット(スーパーの)注文だと時間がコントロールできない」「仕事と子育て、送迎の合間などに利用できる」と、オンデマンド配送の利便性を強調した。
注文者から見た利用の流れ。
撮影:小林優多郎
また、今回新たに設置された「110円」という配送料についても藤沢さんは「これだけで済むなら使うと思う」と語る。
前述の「楽天西友ネットスーパー」の場合、合計額5500円未満の場合の送料は、330円だ(いずれも税込)。確かに110円という価格は、実証実験中の「お試し価格」であるとはいえ、利用に躊躇しないリアルな金額に思える。
なお、今回の実証実験を担当する楽天グループのUGV事業課 シニアマネージャーの牛嶋裕之氏は、「110円の配送料」について「金額については今後も検討」と語る。
「運行のコストをどう考えていくかはまだ検討段階。(収益の方法は)配送料だけではなく、さまざまな方法があると考えている」(牛嶋氏)
運用面なども「実際のサービスに近づいた形」
楽天グループ コマースカンパニー ロジスティクス事業 ドローン・UGV事業部 ジェネラルマネージャーの向井秀明氏。
撮影:小林優多郎
筆者が見た26日のデモンストレーションの様子は、過去の実証実験と酷似しており、届けられるものが変わったこと以外は、大きな変化があるとは言い難かった。
いまだに、ロボットの配送時には担当者が1人後ろに付き、前述の銀座の遠隔管理拠点でも1台につき1名の担当者が常に運行状況を確認している。
しかし、楽天の事業責任者である向井秀明氏は今回の実証実験の内容を「実際のサービスに近づいた形」と意気込む。
運用ソリューションの実態も過去の実証実験から変化がある。
撮影:小林優多郎
利用者や取材時には見えない点ではあるが、監視拠点を遠隔にしたことは、今後さまざまな場所や規模のエリアでサービスを提供する際に必須となる。
さらに、現地での監視、商品のピックアップも楽天や西友、パナソニック自身ではなく、3社が委託するつくばまちなかデザイン社のスタッフが行う。
これは、ロボットや配送システムに対する専門知識が少なくとも、サービスを提供できるようになってきたということだ。
今回の実証実験では、保安上、監視員がつくが、将来的にはなくしていく方針。
撮影:小林優多郎
また、4月には道路交通法の改正案が参議院で可決された。
この改正法では、自動配送ロボットの安全基準や管理体制に関する記述がある。ロボットの存在が明文化されることで、今後、自動配送ロボットサービスの実現が加速していくことが期待される。
同改正案のうち、自動配送ロボットなどが該当する「遠隔操作型小型車※」については、「公布の日(編集注・2022年4月27日)から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とされている。
※遠隔操作型小型車とは:原動機を用いる小型の車であって遠隔操作により通行させることができるもののうち、車体の大きさ及び構造が一定の基準に該当するものであり、かつ、一定の基準に適合する非常停止装置を備えているもの(「道路交通法の一部を改正する法律案(閣法第五二号)(先議)要旨」より)
(文、撮影・小林優多郎)