創業からわずか7年で420億円を調達したスウェーデン発スタートアップの「すごさ」を聞いた。
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専用のスマートロッカーへの配送サービスを提供するスウェーデンのスタートアップ「Instabox(インスタボックス、2015年創業)」が大きな注目を集めている。2022年4月に1億9000万ドル(約240億円)を調達、評価額は10億ドル(約1270億円)に達し、ユニコーン企業となった。
同社は2015年に創業し、今までに累計で約3億3000万ドル(約420億円)を調達。すでにヨーロッパ5カ国でサービスを提供しており、H&Mをはじめとする大手企業との提携なども実現した。
同社のグローバル広報担当(Global head of PR & Communications)のヴィクター・メランダー(Victor Melander)氏に、「欧州でスマート宅配ロッカーが求められる理由」を聞いた。
H&Mなど数十の小売業者と提携
スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ドイツ、オランダの5カ国に約5000のスマートロッカーを設置している。
提供:Instabox
Instaboxが提供するスマートロッカーは、長さ最大10.1メートルで、345個の小包を同時に収納できる。消費者へ便利な小包の受け取り方法を提供することをコンセプトとしており、スーパーやキオスク(日本でいうコンビニ)、スポーツジムなど、日常生活でよく訪れるような場所に設置されているという。
その他、プライベートのスマートロッカーとして、企業のビル内や一般住宅に設置されているケースもある。
現状、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ドイツ、オランダの5カ国に約5000のスマートロッカーが設置されている。スウェーデンに至っては、国民の半分以上が同社のスマートロッカーを利用できるまでにサービス提供エリアが広がっている。
コロナ禍により、非接触でモノの受け渡しができる宅配ロッカーの市場は広がっている。
市場調査のグローバルインフォメーションが発表したデータによると、世界のスマート宅配ロッカーの市場は2021年の6億7760万ドル(約861億2000万円)から年平均成長率(CAGR)13.5%で成長し、2028年には16億4410万ドル(約2089億7000万円)に達すると予測されている。
こうした時代の後押しもあって、同社はH&Mをはじめとした数十の小売業者と提携する。
送料は主に小売業者が負担し、消費者は基本的にInstaboxのサービスを無料で利用できるが、小売業者によって手数料を徴収する場合や、国境を越えた配送における輸入関税がかかる場合があるそうだ。
ユーザーはInstaboxから送られてきた8桁のコードを利用して、小包を受け取る。
提供:Instabox
Instaboxの使い方はこうだ。
まず消費者は、各小売業者のオンラインショッピングをする際に、配送方法で「Instabox」を選ぶことでスマートロッカーが利用できる。
その後、小売業者が梱包した商品をInstaboxが受け取り、複数ある自社倉庫へと集めた後、各スマートロッカーへ配送する流れだ。利用者は、いつ、どのスマートロッカーで受け取るかを指定する。小包が発送されるとInstaboxから追跡リンクが送られる。受け取り可能になると8桁のコードが送られ、利用者はこのコードを利用して小包を受け取る。
小包は3日間(休日は半日としてカウント)取り置きされ、引き取られなかった場合は倉庫に戻る。利用者は、10日以内にいずれかのスマートロッカーへの再配達を指定しなければならないが、再配達は無料だ。
小売業者によっては、返品の際に手数料が徴収されることがある。
遅延は日常茶飯事、箱のつぶれも…ヨーロッパ宅配事情
世界的に物流クオリティが高い日本においては、そもそも宅配ロッカーにそれほどの需要があるのかと疑問に思うかもしれない。日本では、宅配ロッカーが設置されているマンションや戸建て住宅がめずらしくないうえに、コロナ禍で置き配という新たな選択肢も出てきた。
ただ、そんな中でも、ヤマト運輸はPackcity Japan(パックシティジャパン)が運営するオープン型宅配便ロッカー(PUDOの名前で知られる)を、Amazonは自社開発の宅配ロッカー「Amazon Hub」をコンビニや薬局などに設置している。
地下鉄駅などへの設置も進んでいる、日本における街頭宅配ボックス「PUDO」。
出典:東京都交通局
一方、ヨーロッパにおける物流には多くの課題がある。
筆者自身、フィンランドで暮らしていた時、小包を受け取るのに非常に苦労した。
フィンランドでは国が所有する郵便事業会社のPostiが近隣の宅配ロッカーへ配送するのが一般的だが、配送予定日より遅れるのは日常茶飯事、時間指定も信頼できない。
小包の扱いもずさんで、時に箱がつぶれていたり、封筒が折れていたりする。
フィンランド在住時、イギリスから発送された荷物には角に歪みがあった。
撮影:小林香織
こういった物流の課題は、フィンランドのみならず、スウェーデンやその他ヨーロッパでもよく聞かれる。元々物流環境は日本と比較して良くなかったが、コロナ禍のEC需要増でさらに環境が悪化した。
そんな中、Instaboxが市場から求められるのは、「配送スピード」「カスタマイズ性」「信頼性」だとヴィクター氏は話す。同社は、89%の取引業者に週7日の即日配送を提供している。そのため、最短で当日、遅くとも翌日には配送が完了する。
さらに、20:15といったピンポイントの配送時間を定時でき、カスタマーサービスは約20秒で連絡が取れるような体制を整えているという。
「ヨーロッパの消費者は、スマートロッカーへの配送を強く望んでおり、私たちは常にサービスを改善しています。希望する場合は、電気自動車で自宅への配送も可能です」(ヴィクター氏)
InstaboxでGlobal head of PR & Communicationsを務める、ヴィクター・メランダー氏。
提供:Instabox
H&Mとの提携はこの5月にオランダにも拡大し、Instaboxがサービス提供する市場すべてにおいてパートナーシップを持つことになった。また、ノルウェー最大のオンライン薬局であるFarmasietとの提携も実現させた。
宅配事業者の買収実績もあり、2021年4月にオランダの「Red je Pakketje」、2022年1月にノルウェーの「Porterbuddy」を買収している。
97%の小型配達にバイオ燃料を使用
Instaboxのビジネスモデルは、物流業界の負担削減や効率性向上だけではなく、環境負荷の削減にもつながる、と同氏は説明する。
「物流・輸送は環境にもっとも悪影響を与える産業の一つですが、私たちはこれを真の変化を生み出すチャンスと捉えています。私たちは先立って変化し、他社の道筋を示したいと考えています」(ヴィクター氏)
環境先進国スウェーデンで誕生しただけあり、気候変動対策にも力を入れているという。
提供:Instabox
2020年2月には、サービスを提供するすべての市場で化石燃料を完全に排除する方針を決定した。
それ以降同社では、穀物から製造されるエタノールや菜種油、動物性油脂などから製造されるHVO(バイオ燃料)など、再生可能な燃料での配送への移行を進めてきた。
2020年には86%の小包配達にHVOを使用するところまで拡大し、2021年第1四半期にはそれを97%に向上させ、ほぼ化石フリーを達成しているそうだ。
これを実現するために、いくつかのターミナルに自社の燃料タンクを設置し、配送中に給油する際には、再生可能な燃料だけを使用するようにスタッフに指導しているという。
それでも、化石燃料を使用せざるを得ない場合や、再生可能な燃料の製造に化石燃料を使用する場合もある。そうした場合は、スイスを拠点とする環境コンサルタント会社「Southpole」からカーボンクレジットを購入し、CO2化石燃料の排出量を相殺している。
「現在は、電気自動車の保有台数を増やし、CO2排出量や燃料の消費量削減を意識した運転を指すエコドライブや再利用可能な梱包材など、新しいソリューションの開発に注力しています」(ヴィクター氏)
現状、日本を含むアジア進出の予定はないが、ヨーロッパ欧州においては拠点拡大を見込んでいる。