コインベースもバイナンスも現在は本社がない。
Steven Ferdman/Getty Images; Antonio Masiello/Getty Images; Insider
- 仮想通貨とリモートワークのブームが相まって、本社を持たないスタートアップが増えるかもしれない。
- コインベースとバイナンスは、すでこれを行っている仮想通貨業界のリーダーだ。
- 彼らはアップルやMetaが華やかな本拠を構えたシリコンバレーのWeb2時代とは一線を画している。
バイナンス(Binance)は、仮想通貨(暗号資産)分野で最も大きく、最大で3000億ドル(38兆4600億円)の価値があると推定される仮想通貨取引所だが、同社のユニークな点をご存知だろうか。バイナンスには物理的な本社がないのだ。
バイナンスは本社を持たないことで監視を難しくしていると規制当局から非難されている。しかし、本社はいらないと判断した仮想通貨企業は、バイナンスだけではない。最近はコインベース(Coinbase)もサンフランシスコの本社を廃止し、完全なリモートワークに移行することを選択した。
ここ数カ月、仮想通貨を扱う企業は、シリコンバレーの司令塔として広大で豪華な本社に巨額の資金を投じてきたアップル(Apple)、グーグル(Google)、Meta(メタ)などのWeb2企業から離れる道を歩み始めている。
Web3を担うものたちは、分散化のムーブメント「リモート・ファースト」の信条を受け継いでいる。そして、パンデミックでリモートワークが台頭し、その勢いは加速した。急成長するテック業界の物理的な道標として本社は常に機能してきたが、その終わりが訪れるかもしれない。
コインベース、バイナンス、クラーケンには本社がない
コインベースのサンフランシスコのオフィス(2018年)。
Christie Hemm Klok for The Washington Post via Getty Images
現在コインベースに本社はないが、かつては存在していた。同社は2014年からサンフランシスコの高層ビルを本社としていた。当時の会社のブログ投稿によると、「ゲームルーム、仮眠室、無料の食事、十分に在庫のある冷蔵庫」といったシリコンバレー風の特典を完備していたようだ。
しかし、パンデミックから1年ほど経った頃、コインベースは「リモート・ファースト」を目指し、サンフランシスコのオフィスを永久に閉鎖し、物理的な本社を持たないと発表した。さらに同社は、2021年4月の株式公開前のS-1(IPOに伴う証券登録届出書)でこの計画を改めて発表した。
「我々は本社を持たないことを約束してきた。そして、どの場所も他の場所よりも重要ではない(中略)ということを分散した社員たちに示すことが重要だ」と2021年5月にコインベースはツイートしている (同社はデラウェア州で法人化されている)。
コインベースはリモートファーストを徹底している。本社を持たないことを発表し、次のステップとして、2022年にサンフランシスコのオフィス(旧本社)を閉鎖する。
同じく仮想通貨取引所のクラーケン(Kraken)は、2022年4月に本社を閉鎖した。同社CEOのジェス・パウエル(Jesse Powell)は、特にサンフランシスコのオフィスに向かう途中で社員が犯罪に巻き込まれた事件を受けての措置だったと述べている。またパウエルは、クラーケンは「新たに正式なグローバル本社を設立する計画はない」とも述べている。
そして、バイナンスも同様だ。パンデミックのかなり前から、バイナンスはどこに拠点を置いているのかという質問をかわしてきている。
2020年に開催された会議では、「私がどこに座ろうと、そこはバイナンスのオフィスになる」と同社CEOのチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)は述べている。
ジャオは、中国やマルタの規制当局ともトラブルを起こしている。マルタの当局はバイナンスはマルタで事業を行うための適切なライセンスを持っていないという。これは、どこにも本社が登記されていないという事実に起因する規制上の問題の一部に過ぎない。
現在、バイナンスの親会社バイナンス・ホールディングス(Binance Holdings)はケイマン諸島で法人化されているようだが、ケイマンの当局はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、この取引所の運営登録はされていないと述べている。
ジャオは、バイナンスが世界の規制当局とうまくやっていこうとするならば、おそらく何らかの物理的な本拠地を設け、そこを中央集権的な存在にする必要があることを2021年9月に認めている。
「業界最大手として、この変化に対応する必要がある」と、ジャオは当時、サウスチャイナ・モーニングポスト(South China Morning Post)に語っている。「我々は、規制当局との連携を容易にするために変更しているところだ」。
ジャオは2022年4月、「バイナンスは "非常に近いうち"に真の本社の場所を発表する予定だ」と、フォーチュン(Fortune)に語っているが、彼はまだ場所を公表していない。
「暗号の精神」はデフォルトで「リモート・フレンドリー」
これは、主なWeb3プレイヤーは物理的な本社を持たないということではない。バハマに本拠を置く取引所のFTXは、シカゴに新しい本社を開設した。NFTのオンラインマーケットプレイスOpenSeaは、93人の社員のためにニューヨークを拠点にし、リップル(Ripple)はサンフランシスコに本社を置いている。
しかし、この業界の非中央集権的な精神と、ビジネス界全体を覆うリモートワークへの動きは、Web3プレイヤーにとって世界的な拠点を排除する絶好の機会となっている。
コインベースのCEO、ブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)によると、コインベースのようないくつかの企業では、本社という概念は「我々の文化に反していると感じる」のだという。
「正式な本社を持たないということは、分散化という本質的な利点の上に構築される仮想通貨の精神とより合致している」とアームストロングは2021年初めに述べている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)