落日のシリコンバレーに“ウォール街の予言者”「多くの企業が姿を消す」。テック業界はどこで道を誤ったか

シリコンバレーのCEOたち

経済の風向きが変わった今、シリコンバレーの天才CEOたちは深刻な逆風の只中にいる。

Burhaan Kinu/Hindustan Times via Getty Images; Justin Sullivan/Getty Images; Johnny Nunez/WireImage; NDZ/Star Max/GC Images; Abdulhamid Hosbas/Anadolu Agency via Getty Images; Rebecca Zisser/Insider

我々はヒーローたちの淘汰を目撃しようとしている。

過去20年ほど、アメリカで最高の頭脳はシリコンバレーにアイデアを求めて西へ向かった。金持ちになるためではなく(と言っていた)、緊急の問題を解決し我々が使えるものをつくるために。

我々に必要なのは、適切な頭脳に十分な元手を提供し、適切なテクノロジーを開発してもらうことだけ。そうすれば、モビリティから気候変動、格差まで、あらゆる問題を解決できるはずだった。

この理想主義的なゴールドラッシュを通じて、投資家を魅了し、より良い未来を約束し大衆を夢中にさせる、新たな億万長者、つまりテックジャイアントが生み出された。

しかし現在、いささかもてはやされすぎたテック業界の天才たちは、経済の風向きの変化に直面し、自分たちの帝国が崩壊しようとする様を目の当たりにしている。金利は歴史的な低水準から上昇しつつあり、テック企業は多かれ少なかれ、低金利で調達できる資金がなければ生き残れないことが明らかになった。

シリコンバレーがこの必然的なシフトを乗り切ることができないのは、残念であると同時に不思議でもある。1990年代末から2000年代初頭にかけて我々はITバブルとその崩壊を経験したが、今回が当時と大きく違う点は、その後に残る破壊の規模の大きさだ。

キニコス・アソシエイツ(Kynikos Associates)創業者のジム・チャノス(Jim Chanos)は、前回のITバブルの行き過ぎを指摘したことで、自身の空売り会社を一躍有名にし、ウォール街における「予言者」の地位を確固たるものにした。そのチャノスいわく、今回はより規模が大きく、経済的影響がより大きい企業が潰れるおそれがあるという。

「2000年代初頭は、当社の典型的な空売り対象は20~30億ドル規模の低迷企業でした。今回はそれが200~300億ドル規模の企業になるでしょう。私が“パワーアップ版ドットコム時代”と呼んでいるのはそのためです。多くの企業が姿を消すでしょうね」

過去20年間、シリコンバレーの名士たちは、資金はイノベーションの燃料にすぎないと言っていた。かつては安泰だと思われた企業が陰りをみせるなか、今の市場が示しているのは、資金はエンジンでもあり、船長でもあり、目指す先でもあったということだ。

今後数年で、今回の市場サイクルにおける最もホットなハイテクイノベーションの多くがあっけなく消滅するだろう。これは絶滅レベルの出来事と考えたほうがいい。

すべてが追い風だった

今から10年前、2012年に思いを馳せてみよう。

当時はテック業界にとって素晴らしい時代だった。Facebook(現メタ〔Meta〕)は上場し、全世界のユーザー数が10億人に達した。FacebookとTwitterは、アラブの春において民主化を求めて闘う市民を支援する重要なツールになっていた。世界をつなげるというマーク・ザッカーバーグの約束は脅威と見なされてはいなかった。

イーロン・マスクがEV(電気自動車)革命を起こすために政府から多額の補助金を集めていたのも、UberとLyftの価格競争が始まったのもこの頃だ。暗号資産(仮想通貨)は趣味人の楽しいおもちゃといった感じだったし、セレブたちはランチに何を食べたかをツイートしていた。

この熱狂は全て、シリコンバレーの急成長企業を支援するために構築された経済システムを原動力にしていた。

2008年のリーマンショックは過去のものとなり、世界の中央銀行は十分な現金を流通させる政策をとり、企業が借入をしやすいようゼロ金利を維持した。資金は株式市場に流れ込み、シリコンバレーの約束は、リターンを求める投資家だけでなく、傷ついた経済から這い上がろうとしていた社会をも惹きつけた。

ザッカーバーグ

Facebookのザッカーバーグは、2019年10月23日に連邦議会で行われた公聴会において、米下院金融サービス委員会で証言した。

Liu Jie/Xinhua via Getty

だがあれから10年が経ち、世界は大きく変わった。我々はつながりすぎているのではないか——多くの人がそう思うようになった。

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