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高校生が直面する“選択肢のない就活”。5割以上が「就活で調べたのは1社だけ」という現実

街

高校生の就職活動は、ニュースでもあまり取り上げられない。

撮影:今村拓馬

「仲の良かった5人グループで、私を含め4人が半年以内に会社を辞めました。私のように後悔する子がいなくなってほしい」——。

高校を卒業後、大学への進学を選ばず就職する「高卒就職」。その選択を後悔していると語る人たちがいる。

今日6月1日は、2023年に大学を卒業する人たちの選考が解禁になる日だが、高卒就職を選んだ10代の若者の就活は、7月の求人情報の解禁から始まる。

大学生の就活は毎年注目を集めるが、一方で高校生の就活については、ニュースで取り上げられることも少なく、あまり知られていない。

2021年3月に大学(学部)を卒業し就職した人数は約43万人。一方で2022年3月に高卒で就職希望だったのは約15万人だった。ここ数年、高卒での就職者は20万人程度で推移しており、大卒に比べると人数は少ないものの、高卒での就職も決して少なくない数だ。

高校卒就職率の長期推移

高校卒業後の就職は、20万人前後で推移している。2022年はコロナの影響もあり、就職希望者は減った。

提供:リクルートワークス研究所・古屋星斗主任研究員

一方で、リクルートワークス研究所の調査によると、25~29歳時点で高校卒業直後に入った企業に継続勤務していたのは40.6%だけ。残りの6割は退職しており、そのうちの3人に1人が非正規雇用だった。

高卒の就職活動では、早期の離職と、結果的に望まない非正規雇用を生んでいる側面がある。

リクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員は「高卒就職では『ミスマッチ』という言葉以上の問題が起きているものの、課題が放置され続けている」と指摘する。

高卒就活の実態を、経験者が語った。

信頼していた先生から勧められ……

女性

ミカさん(仮名)は「高校生の就職の問題を知ってほしい」と取材に応じてくれた(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

18歳で就職したのですが、3カ月で離職して、自己肯定感はずたずたになりました

都内のIT企業に勤務するミカさん(仮名、25歳)は、そう話す。ミカさんと同じく高校卒業後に就職した友人のグループは、5人中4人が半年以内に離職し、今もアルバイトで働く友人もいる。

ミカさんは千葉県の県立高校を卒業後、地元のアパレル店に就職した。就職先を決めたのは、求人の中では給与が高かったことと、信頼していた進路指導の先生から勧められたからだった。他の企業との併願はせず、事前の職場見学の機会もなかったため、客としてそのアパレル店を見学し、志望先を決めたという。

ただ実際に働き始めてみると、求人票の内容と実際の仕事は大きく違っていた。求人票では、1日8時間勤務のシフト制となっていたが、実際には午前8時から午後11時まで勤務し、販売員として入社したものの、清掃などを任され接客はできなかった。

入社後3カ月でアパレル店を辞めたミカさんは、先輩の紹介で学習塾を運営する企業に転職し、その後、都内のIT企業で営業職についた。

今の職場では営業成績も順調で、興味があったウェブマーケティング業務にも携わり、今後のキャリアにつながる仕事ができている。

かなり遠回りしたという気がしています。今思えば、奨学金をもらってでも大学に行っておけばよかったとも思います。今の職場で高卒はわずか。営業成績では同期で入社した大卒の社員と同じでも評価されにくさを感じており、社員から『高卒だからね』と言われることもあります」

1人1社制「詐欺にあった気持ち」

高校生

高校生の就職活動では、多くの都道府県で「1日1社制」が存在する(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

ミカさんが高校生の就職で課題だと思うのが、選択肢の少なさだ。

高校生の就職活動では、多くの都道府県で「1人1社制」が続いている。この制度は都道府県や学校、企業が申し合わせて、最初に応募できる企業を1社に制限するもの。

内定後の辞退を減らし、競争を避けることで生徒が学業に集中できるメリットがある一方、就職先の選択肢が狭まるという課題もある。「1人1社制」を採用していないのは、全国で秋田県、大阪府、和歌山県、沖縄県だけ。厚生労働省などが全国の教育委員会に対し見直しを求めていたが、改善は進んでいない。

「1人1社のルールについても、当時はそういうものだと思っていました。でも今となっては詐欺にあったような気がします。

それ以上に当時の進路指導に疑問を感じます。学校はとにかく就職先を決めることを優先していたと思うし、そもそも先生たちは大卒で、高卒就職について理解していなかったのではないかと感じます」

ミカさんは、高卒の就活問題がもっと注目されてほしいと話す。

「最初のマッチングをいい体験にできるかどうかは、その後のキャリアも左右します。後悔する子がいなくなってほしいと思っています

大卒に比べて低い「仕事への満足度」

グラフ

高卒就職では1社目の勤務先への満足度が低い傾向がある。

出典:リクルートワークス研究所『高校生の就職とキャリア』

「高卒就活で一番問題なのは、複数の選択肢の中から自分で就職先を選ぶという経験ができないことです。キャリア選択は、自分で選んで初めて納得できるものですが、その機会が与えられていません」

前出の古屋氏はそう話す。

リクルートワークス研究所が高卒者を対象にした調査(2020年9月に実施。4068人が回答)では、高卒後1年の時点で働いていた会社について、友人や家族に勧めたいかどうかを「0点~10点」で採点してもらった。 その結果、4人に1人が最低評価の「0点」と回答。職場への満足度が低いことが分かった。

「生き生きと働いている」就業者の割合

大卒に比べ高卒での就職者は、「生き生きと働いている」割合が低かった

出典:リクルートワークス研究所『高校生の就職とキャリア』

また高校での就職活動では、高校生が得る情報が極端に少ないことも分かる。

同じ調査では、「就職活動で1社だけを調べて、1社を受け、1社に内定した人」は55.4%と半数以上にのぼった。就職活動の情報収集について、「不十分だった」とした合計は65.7%。また「十分だった」と答えた人よりも、3年以内の離職率も高かった。

「たとえ選考を受ける企業は1社に絞るにせよ、複数の求人票をみて、複数の職場見学をするべきです。情報収集をすることで、就職先への満足感が上がることもデータで示されている」(古屋氏)

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古屋氏は「就職支援は教員だけでは限界がある」とし、キャリアコンサルタントなど外部のサポートを使うべきだと話す。

古屋氏提供

一方で、高校生の就活については、複数の企業を併願することで「内定率が下がる可能性がある」などの批判もある。

だが古屋氏は「99%が内定を得ている。選択肢を与えない弊害が明らかに大きい」という。

高校生の就活の課題は、仕組みを変えればすぐに改善できる問題です。就職という最初の選択はその後のキャリアにも影響しており、今すぐに向き合わないといけない問題だと思っています」

高卒「コンプレックス」から「強みに」

村山智之さん

高校生の就職支援を行う企業で働く村山智之さん。

撮影:横山耕太郎

厳しい環境に置かれる高校生の就職活動だが、高卒を武器にしてキャリアを形成する人もいる。

村山智之さん(23)は現在、高卒採用の求人サイト「ジョブドラフト」を運営する企業・ジンジブで働いている。

村山さんは三重県内の県立高校卒業後、「なんとなく製造業を選んだ」ものの、2年で離職した。個人の成果が給与に反映される営業職への転職を希望していたが、求人サイトで検索すると、募集条件の多くが「大卒」だった。

その後上京した村山さんは、2019年10月にジンジブに入社し、高卒向け求人媒体の営業を担当することになった。ここ2年以上、毎月の営業目標を連続で達成している。

「高卒求人を考えている企業には、高校生には可能性を秘めていると伝えています。私自身の経験として、『営業未経験でも、大卒で同い年の子が入社するときには役職をもらえました』と説明しています。高卒はコンプレックスでしたが、今は強みになっています」

グラフ

高卒者の就職先は製造業に集中している。データは文部科学省「学校基本調査(2018年度)」より、農林業など一部を除いた業種の就職者比率を抜粋。

提供:リクルートワークス研究所・古屋星斗主任研究員

村山さんは2020年10月、新設された名古屋支店に配属になった。愛知県は自動車産業が盛んなことから、全国で最も高校生の就職内定者が多い都道府県だ。

名古屋支社への転勤は、自ら手を挙げて希望した。2022年5月には課長代理に昇進。入社時には大卒の社員と給与差があったものの、職位が上がったことで基本給の差はなくなったという。

ジンジブでは、高校でのキャリア教育事業や、高校生を対象にした合同企業説明会などのイベントも展開している。

高校生から就職相談を受けることもあるが、村山さんが高校を卒業した5年前と状況は変わっていないという。

「当時の私のように『何となく製造業』という高校生が多い。建設業や営業職、IT分野にだって挑戦できる。先生に言われただけで決めないでほしい。

高卒就職が多い愛知で、高校生の選択を広げる仕事に関わっていきたいと思っています」

(文・横山耕太郎

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