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「宇宙実験を100万円で」東北大発の宇宙ベンチャー、20代CEOの挑戦

2021年は、民間企業による宇宙旅行が大きな話題となった。2020年代後半には、複数の民間宇宙ステーションの運用も始まろうとしている。

宇宙での生活が「当たり前」になる時代を前に、にわかに注目をされ始めている企業がある。手軽に宇宙空間で宇宙用の製品の実験や実証ができるプラットフォームの構築を目指す東北大発の宇宙ベンチャー・ElevationSpaceだ。

創業者でCEOを務める小林稜平さんは現在24歳。彼を惹きつけたのは、今から5年前、19歳のころ偶然見つけた「宇宙建築」だった。

「建築✕宇宙」で起業

小林稜平さんの写真

ElevationSpace創業者でCEOの小林稜平さん。

撮影:井上榛香

「ふとGoogleで『建築 宇宙』と検索してみたところ、『宇宙建築』という分野があることを知ったんです。それが私の人生を大きく変えるきっかけになりました」

宇宙建築とは、宇宙ステーションや月面基地など、人が宇宙で利用する建築物を指す。

もともと高専で建築を専攻していた小林さんは、大学でさらに建築を学ぼうと東北大学への編入試験に挑んでいた。宇宙建築を知ったのは、試験が終わり、大学で専門の建築学と組み合わせた何か新しいことを始めようと考えていたタイミングだったという。

世界中から観光客が集まるランドマークのように大きなプロジェクトに携わりたいと建築学を学んでいた小林さんは、宇宙建築の壮大さに魅了された。

月面都市のイメージ

小林さんらが考案した未来の月面都市。2018年に開催された第五回宇宙建築賞で最優秀賞を受賞した

提供:小林稜平

小林さんは、大学に編入する前から宇宙建築の勉強会を開催する学生団体に参加。2019年には、そこで知り合った学生とチームを組み、火星の建築物を設計する国際コンペティション「Mars City Design Challenges 2019」で2位に選ばれた。

「宇宙建築と出会ってからは、作品作りに熱中しました。気が付くと、宇宙建築を通じて人が当たり前に生活できる世界を作ることが私の一番やりたいことになっていました」

そこで出会ったのが、ElevationSpaceの共同創業者となる、東北大学の桒原聡文准教授だった。

桒原准教授は、「人工流れ星」で知られる宇宙ベンチャーのALEの衛星をはじめ、これまでに15機の人工衛星の開発と運用に携わった実績を持つ、衛星開発のプロフェッショナルだ。

学生団体の活動の中でさまざまな価値観を目の当たりにしたことで、自身のキャリアの選択肢として「起業」を視野に入れ始めていた小林さん。大学4年生の頃に、桒原准教授に衛星データを使ったビジネスを立ち上げる構想を相談すると、まだプレイヤーが少ない「宇宙建築」につながるビジネスに挑戦する方が「面白い」と意気投合したという。

その後、小林さんは2020年4月に東北大学大学院工学研究科に進学した。宇宙構造物を専門に研究を続ける傍ら、桒原准教授とともに事業のアイデアを練り、2021年2月にElevationSpaceを創業した。

宇宙を実験室にするための必須技術とは

ElevationSpaceのサービスについて説明した画像

ElevationSpaceのサービスの流れ。

出典:ElevationSpace

ElevationSpaceは、宇宙空間で生命科学の実験をしたり半導体などの材料を製造したりすることができる「人工衛星」の開発に取り組むベンチャーだ。宇宙空間に打ち上げた人工衛星内で実験・製造したサンプルや製品を、地上で「回収」するところまでを目指す。

従来、宇宙での実験は、国際宇宙ステーション(ISS)の実験設備を使って行われてきた。ただ、そのユーザーは研究機関が中心。ElevationSpaceでは、これから拡大する宇宙市場を見据えて、ビジネス目的の企業の研究開発やエンターテインメント、教育など幅広い用途での利用を見込んでいるという。

一見すると、小林さんが目指す宇宙ステーションや宇宙ホテルなどを建築する「宇宙建築」とはずいぶん事業の領域が異なるようにも思える。ただ、小林さんによると、この事業は宇宙建築事業と無関係ではない。

将来的に宇宙建築事業に参入するために必要かつ初期段階の事業に活かせる技術を整理する中で出てきたのが、一度宇宙へと打ち上げたものを地上で回収する「大気圏再突入技術」だった。

国際宇宙ステーション。

国際宇宙ステーション。日本の実験棟「きぼう」では、さまざまな実験が行われてきた。

NASA/Roscosmos

宇宙ステーションを設計する上で、宇宙に人や物資を運ぶ宇宙船は欠かせない。ただ、他社の宇宙船を使うのでは、宇宙船の規格に縛られて思うように宇宙建築を進められない可能性もある。そのため、ElevationSpaceでは将来的に自社で有人宇宙船を開発する構想を抱いている。

そこで必要とされる技術が、何を隠そう大気圏再突入技術だ。

宇宙船や衛星の大気圏再突入は、高精度の姿勢制御や大きな推力、断熱材料、パラシュートの展開など多くの技術が求められるため難易度が高い。世界で大気圏再突入技術を持つ国は、アメリカとロシア、日本、中国などの限られた国だ。

民間ではイーロン・マスク氏がCEOを務めるSpaceXがクルードラゴン宇宙船で地上との往来を実現している。

ElevationSpaceのように、小型衛星を回収しようとする場合は、重量や大きさに制限がある小型衛星を安全に地上に帰還するために、一般的な小型衛星の数万倍の力を持つ高性能な推進機を搭載しなければならず、技術的な難易度は高い。

ただそれでも、小林さんはこの技術が宇宙建築事業に乗り出す上で必要不可欠だと考えた。

2021年12月には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で、ISSから物資を持ち帰る「HTV搭載小型回収カプセル」の開発を主導した実績を持つ愛知工業大学の渡邉泰秀教授が技術顧問として加入。小林さんはElevationSpaceの開発体制について「CTOの桒原准教授と技術顧問の渡邉教授の知見を組み合わせて利用できる、世界的に見てもあまりない立ち位置にいると思っています」と語った。

宇宙実験が「100万円」から可能に

実証機「ELS-R100」のイメージ画像

実証機「ELS-R100」のイメージ

出典:ElevationSpace

ElevationSpaceは、2022年3月にシードラウンドで約3.1億円を調達。2022年1月には1人もいなかったフルタイムで勤務する従業員は、今では10人を超えた。現在は2023年後半に予定している技術実証機の打ち上げに向けて研究開発と事業開発を進めている。

最初の実証機では、ユーグレナ社と協力して微細藻類のユーグレナ(ミドリムシ)を衛星内で培養する計画だ。宇宙環境がミドリムシに与えた影響を研究する。

これまで宇宙に生きた生物を送り回収する場合は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が主導せざるを得なかった。ElevationSpaceの試みがうまく行けば、日本の宇宙機による回収は初となる。実験の成果物を国内で回収できるようになれば、実験の依頼者の手元にサンプルが届くまでの時間が大幅に短縮できるなどのメリットもある。

2023年後半に打ち上げる実証機は、サービス機の約10分の1にあたる100kg規模。ユーグレナのように実験サンプルを地上に持ち帰れるプランと、持ち帰れないプランを想定しているというが、現状では「サンプルを地上で受け取りたい」という企業や研究者からの声がほとんどだという。

気になるのはサービスの価格帯だ。

ISSにある日本実験棟「きぼう」で科学実験を実施する際には、研究結果を公開するか否かなど、条件によって有償・無償に分かれている。

JAXAが個別に調整する「非定型サービス」の場合、地上での回収費用も含めると、1kgあたり約880万円。さらに宇宙飛行士の稼働費用が1時間あたり約550万円かかる。また、ISSは安全審査の基準が厳しく、試験を外部に委託すると合計で数千万円かかることもあるという。

これに対して、ElevationSpaceが提供する実験プラットフォームの利用価格はかなりリーズナブルだ。

「極端な事例かもしれませんが、あるユーザーの場合は私たちが提示した価格がほかから提示された見積もりの10分の1に近かったことがありました。ElevationSpaceは搭載物が小型であれば100万円程度から宇宙での実験環境を提供できる、そういう価格帯を狙っています」

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