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31年連続「世界最大の対外純資産国」はほぼ円安効果。経常黒字減でドイツと逆転の日が近づいて…

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財務省の発表によると、2021年末時点の日本の「対外純資産」は過去最大、31年連続で世界首位の座を守った。画像は岡山・倉敷の三菱自動車水島製作所内で組み立てられる電気自動車。

REUTERS/Satoshi Sugiyama

財務省が最新(2021年末現在)の「本邦対外資産負債残高の状況」を公表。NHKや日本経済新聞など代表的なメディアが、日本の「対外純資産」が400兆円を超えて過去最大になったと報じた。

対外純資産とは、日本国内の企業や個人、政府が海外に持つ資産額から負債額を引いたもの。巨大な対外純資産の存在は、国内への投資機会が乏しかった(あるいは魅力がなかった)ことの裏返しでもあり、過去最大を記録したからと言って必ずしも喜ばしい話ではない。

とは言え、日本政治・経済の弱体化が指摘される昨今、円の価値が底割れに至らないのはこの巨大な対外純資産のおかげというのも一面の真理だろう。

具体的な数字を見ると、対外純資産残高は前年比15.8%増の411.1兆円と2年ぶりに増加した。1年で56.1兆円という増加幅も過去最大。世界2位のドイツとの差は100兆円近くまでに開き、31年連続「世界最大の対外純資産国」のステータスを維持した。

しかし、56.1兆円という増加分の内訳をみると、若干の不安もよぎる。

「取引フロー」要因で増えたのは10.7兆円。あとは資産価格の変動によるもので、「為替相場変動」要因が62.2兆円の増加、「その他調整」要因が16.8兆円の減少だった。

要するに、2021年の対外純資産の増加分はほとんどが為替相場の変動、つまり円安に由来するものということだ。今回の財務省発表では、米ドル/円相場が11.4%上昇した設定(2021年末の数字を採用)になっている。

下の【図表1】をみると分かるように、2021年の経常黒字(15.5兆円)は東日本大震災後の落ち込みから回復した2015年以降の7年間で最小となり、対外純資産残高の著しい伸びとのかい離が際立つ。

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【図表1】対外純資産残高の増減と経常収支。

出所:財務省資料より筆者作成

経常収支の黒字を通じて外貨を稼いで積み上げる能力、言い換えれば「取引フロー」要因の対外純資産を増やす力は衰えてきていると言わざるを得ない。

「売られたまま戻ってこない円」

対外純資産残高を資産別に計算してみると、最も大きいのは直接投資(≒海外企業の買収)で45.8%。外貨準備が39.3%、証券投資が26.1%と続く。かつては証券投資が最大項目だったが、近年はすっかり様変わりした。

例えば、2012年から今回発表(2021年)までの10年平均でみると、証券投資の割合は30.8%だが、その前の2002年から2011年までの10年平均では41.4%だった。同時期、直接投資の割合は18%から39%へとおよそ2倍に膨らんでいる。

証券投資の割合も直接投資の割合も、10年平均と直近の数字のかい離が大きく、近年の変化が特に著しいことが分かる【図表2】。

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【図表2】本邦対外純資産に占める 直接投資および証券投資の割合。

出所:財務省資料より筆者作成

そのように対外純資産残高に占める割合が直接投資主体に変化したことで、いわゆる「リスクオフの円買い」の規模感やインパクトが徐々に失われてきていることを、1年前の寄稿(2021年5月27日付)でも指摘した。

リスク回避ムードが高まったとき、かつてのように流動性の高い海外有価証券(米国株や米国債など)を手放して円貨に換える(=円買いする)のは容易に想像できる流れだが、買収した海外企業を簡単に手放す展開はなかなか想像できない。

「リスクオフの円買い」の迫力が失われてきた背景には、このように「売られたまま戻ってこない円」が効いているのではないかと筆者は常々感じている。

誤解を恐れずに言えば、それは日本企業が「縮小し続ける国内市場に投資をするより、海外企業を買収したり出資したりするほうが中長期的な成長につながる」と判断した結果と言える。

その背景としては、法人税や電気料金の高さ、硬直的な雇用法制などが挙げられるが、究極的には少子高齢化により市場が縮小していることが決定的だろう。

新型コロナ感染拡大に苦しんだこの2年間を通じて明らかになったように、政治は人口動態上の強者である高齢者に寄り添う意思決定に注力しており、市場拡大に向けた取り組みがうねりとして起こる様子はみられない。

日本企業が国内への積極投資に転じるインセンティブもとくに見当たらない。

ドイツとの差は再び詰まっていく

2021年の円安局面は9月ごろから始まり、前年比で言えば10%程度の円安・ドル高だった。

2022年が現在の水準(128円前後、5月31日時点)で終わるとすれば、前年比では再び10%以上の円安・ドル高になり、対外純資産残高は「為替相場変動」要因だけでまたも60兆円近く増える可能性がある。

ただ、2022年は前年に比べると大きく異なる点が2つある。それは経常黒字と資産価格の動向だ。

例えば、第1四半期(1~3月)の経常黒字を比べると、2021年の5.8兆円に対して2022年は3.0兆円とおおよそ半減している。おそらく経常黒字による対外純資産残高の押し上げは2021年より限定されるだろう。

また、アメリカの金利上昇(=米国債価格の下落)と株式市場の低迷を受け、対外純資産のうち証券投資の残高が「その他調整」要因、つまり資産価格の変動により押し下げられる可能性がある。

総合的にみると、円安による対外純資産残高の押し上げは相変わらず大きいものの、2021年のような大幅増には至らないかもしれない。

30年以上の長期にわたって維持してきた「世界最大の対外純資産国」のステータスだからこそ、それが失われた場合、直情的な為替市場が騒ぎ出す展開が想像される。

その点、筆者は諸外国のなかでもドイツとの比較に注目してきた。

下の【図表3】に示すように、ドイツはユーロという「永遠の割安通貨」を武器に貿易黒字を荒稼ぎし続け、「世界最大の経常黒字国」としてのステータスを保持している。

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【図表3】対外純資産残高の推移(日本・ドイツ・中国の比較)。

出所:財務省資料より筆者作成

どんなに経常・貿易黒字を積み上げても、ユーロがドイツの競争力を貶(おとし)めるほど強くなることはないので、ドイツはこのペースで延々と対外純資産を積み上げていくだろう。

2020年末時点で日本とドイツの対外純資産の差は過去最小の34兆円まで縮まったが、極端な円安の結果、今回の財務省発表で示されたように、2021年末時点では100兆円近くまでその差が開いた。

日本がドイツにこれほど水をあけたのは、2014年(前年比78.7兆円増)以来。この年もドル・円相場は前年比13.7%上昇、2021年(11.4%上昇)以上の円安相場だった。

そのことを踏まえると、為替相場変動がなければ日本とドイツの対外純資産の差は詰まると考えるべきだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文:唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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