福岡市地下鉄は、5月31日より交通系ICカードとVisaのタッチ決済の双方が利用できる一体型自動改札機の通過に関する実証実験を開始した。
実証実験の期間は5月31日から2023年2月28日までの予定で、福岡空港駅や博多駅など全7駅で実施する。現地で「電車をクレジットカードで乗る」体験してきた。
国内初の「一体型」自動改札機を設置
福岡市地下鉄の実証実験で利用される、交通系ICカードとVisaのタッチ決済一体型の自動改札機。
撮影:平澤寿康
今回の実証実験は、福岡市地下鉄、三井住友カード、ビザ・ワールドワイドジャパン、日本信号、QUADRACが共同で実施する。
具体的には、三井住友カードの決済プラットフォーム「stera」をベースとした公共交通機関向けソリューション「stera transit」と、QUADRACが提供する公共交通機関向けの決済や認証に関するSaaS型プラットフォーム「Q-move」を組み合わせた決済プラットフォームを利用する。
システムとしては、すでに京都丹後鉄道や南海電鉄(南海電気鉄道)をはじめ、鉄道やバスなど国内の複数の公共交通機関で採用されているものと同等だ。
ただ、今回の実証実験では、交通系ICカードとVisaのタッチ決済が一体型となった自動改札機を利用する点が国内初となる部分だ。
Visaのタッチ決済用カードリーダーは、磁気きっぷ挿入口の手前に設置している。
撮影:平澤寿康
南海電鉄の実証実験でもVisaのタッチ決済に対応する自動改札機を設置しているが、そちらはオフィスビルのエントランスなどに設置されるセキュリティゲートを応用したもので、交通系ICカードには対応していない。
それに対し、今回の福岡市地下鉄での実証実験では、交通事業社向けの自動改札機を開発している日本信号が、既存の自動改札機を拡張してVisaのタッチ決済に対応するカードリーダーを取り付けることで、交通系ICカードとVisaのタッチ決済の両対応を実現している。
また、今回設置された一体型自動改札機では、交通系ICカード用とVisaのタッチ決済用のカードリーダーを分けて搭載している。
これは、stera transit/Q-moveのプラットフォームでは、今回の実証実験だけでなく、他の事業社でも利用されている、決められたカードリーダーを使用する必要があるためだ。
一体型自動改札機のレーンには、床にVisaのタッチ決済が利用可能とわかるステッカーを貼ってアピール。
撮影:平澤寿康
Visaのタッチ決済用カードリーダーは、改札機入り口の磁気きっぷ挿入口の手前に設置。
カードリーダーの高さは、入場側が788mm、出場側が744mmと、交通系ICカード用カードリーダーの約903mmに比べてやや低い位置となっている。
加えて、入場側のリーダーは左側に、出場側のリーダーは手前側に、それぞれ角度が付けられている。今回は実証実験ということもあり、あえて入場側と出場側で取り付け角度などを変えることで、双方の使い勝手を検証したいという。
入場側のカードリーダーは、左側に傾けて設置。
撮影:平澤寿康
出場側のカードリーダーは、手前に傾けて設置し、双方の使い勝手を実証実験を通して検証する計画だ。
撮影:平澤寿康
なお、実際に一体型自動改札機が設置されるのは、福岡空港駅、博多駅、中洲川端駅、天神駅の4駅の全11レーンとなり、東比恵駅、祇園駅、呉服駅では有人窓口にカードリーダーを設置しての対応となる。
Q-moveのホームページで会員登録し、利用するクレジットカード番号を登録しておくと、乗車履歴や運賃を確認できる。
画像:筆者によるスクリーンショット
運賃の精算は、同じ決済プラットフォームを採用する公共交通機関と同様で、クレジットカードをタッチして記録された入出場の情報をもとに、1日分の運賃が深夜にまとめて精算される。
また、Q-moveのホームページで会員登録をして、利用するクレジットカード番号を登録しておくと、過去12カ月分の乗車履歴や運賃を確認できる。
交通系ICカードに比べると反応はやや遅い
Visaのタッチ決済で自動改札機を通過する様子。
撮影:平澤寿康
実際にクレジットカードを使って自動改札機を通過してみたが、交通系ICカードと比べて、読み取りにわずかだが待たされる印象だ。
カードリーダーの位置はやや低いと感じるが、使いづらいということはない。
撮影:平澤寿康
読み取り速度は、交通系ICカードよりわずかに遅い印象。カードリーダーにカードをタッチして一瞬静止するといった意識で利用しないと、読み取りに失敗することもありそうだ。
撮影:平澤寿康
交通系ICカードの場合は、歩きながらタッチしても問題なく読み取って通過できるが、Visaのタッチ決済では交通系ICカードと同じ感覚でタッチして通過しようとすると、読み取りに失敗する可能性もある。
そのため、実際に利用する時には、クレジットカードをリーダーにタッチし、一瞬静止する、といった意識で利用するとうまくいく。
カードをタッチして正常に読み取りが完了すると、読み取り音が鳴り、カードリーダーのランプが緑に点灯する。
撮影:平澤寿康
正常に読み取りが完了すると、カードリーダーの画面に「○PASS」と表示される。
撮影:平澤寿康
ちなみに、スマートフォンを利用する場合は、クレジットカードのように電磁誘導で電力を供給する必要がないため、読み取り速度が0.1秒ほど速くなるそうだ。
スマートフォンのほうが、読み取り速度が0.1秒ほど速いという。
撮影:平澤寿康
カードリーダーの位置については、初めて使う場面では交通系ICカードより低い位置にある点が気になることもありそうだが、特に使いづらいと感じることはなかった。
インバウンドや、きっぷを購入する人などの利用を想定
普段からきっぷで乗車している人の利用を想定し、実証実験対象駅の券売機にVisaのタッチ決済のステッカーを貼ってアピール。
撮影:平澤寿康
今回の実証実験は、交通系ICカードの置き換えを狙ったものではなく、決済手段を増やして、利用者の利便性を高めることを目的としている。
例えば、今後増加が予想される訪日外国人旅行者が、日本円を用意したり、券売機できっぷを購入することなく、普段使っているクレジットカードをかざして利用できるようになる。
また、現在でも1日あたり2万人ほどがきっぷを購入し利用しているそうで、そういった人たちの利用にも注目しているという。
さらに、福岡市地下鉄が発行しているICカード「はやかけん」は、オートチャージやオンラインチャージができず、駅券売機などで現金チャージするしかないため、そこが面倒と感じている人もいるそうだ。
それに対し、Visaのタッチ決済は残高を気にせず利用できるため、そういった人の利用も考えられる。
西日本鉄道の実証実験で使われる改札。こちらは福岡市地下鉄とは違い、「一体型」ではない。
出典:Visa
今後、7月15日からは西日本鉄道(西鉄)でも西鉄福岡(天神)駅や太宰府駅などの5駅に、Visaのタッチ決済に対応した改札機を導入した実証実験を開始する予定だ。
そちらが始まると、福岡市地下鉄と西鉄を利用し、福岡空港から太宰府や柳川などの観光地へ、Visaのタッチ決済だけで移動できるようになる。福岡を訪れる旅行者の利便性が高まりそうだ。