アメリカがウクライナへの供与を決めた「多連装ロケット砲システム(MLRS)」とは…ロシアは「一線を越えることになる」と非難

エストニアで行われた演習で、アメリカ軍が開発した多連装ロケットシステムの発射訓練が行われた。

エストニアで行われた演習で、発射訓練を行うアメリカ軍の多連装ロケットシステム。

U.S. Army

  • ウクライナは、ロシアから自国を守るには「多連装ロケットシステム(MLRS)」が必要だとして、その供与をアメリカに求めていた。
  • アメリカはMLRSの供与を決めたが、国境を超えて攻撃が行えるものではないとしている。
  • ロシアは、ウクライナへのMLRSの供与は、人道危機の悪化を招くと指摘している。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)大統領は、数週間前からアメリカに対して「多連装ロケット砲システム(MLRS)」の供与を求めており、この長距離砲があれば、ウクライナ軍はより離れた場所からでもロシア軍を攻撃することができ、ウクライナ東部での防衛力を高めることができると主張している。

ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は、より高度なロケットシステムと弾薬をウクライナに提供すると2022年5月31日にニューヨーク・タイムズ(NYT)に寄稿したが、「ロシアへの攻撃が可能となるロケットシステムをウクライナに送るつもりはない」と発言しており、状況が深刻化するリスクを懸念していると見られる。

ロシア国営放送の報道番組では、アメリカによるウクライナへのMLRSの供与は「一線を越える」ことになり、そうなると「ロシアは厳しい対応を取ることになるだろう」と、司会者が発言した。

ホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール(Karine Jean-Pierre)報道官は5月31日に「ウクライナが戦場を越えて使用するための長距離砲を送ることはない」と述べている。

サウスダコタ州陸軍州兵が、2019年の演習でMLRSからロケット弾を発射する様子。

サウスダコタ州陸軍州兵が、2019年の演習でMLRSからロケット弾を発射する様子。

U.S. Army

ウクライナ東部での激しい砲撃戦で、ウクライナ軍はアメリカから提供されたM777榴弾砲をよく使用している。この牽引式155mm砲は射程距離が約30kmで、最低5人で操作できるが、通常は約8人で操作されている。

ウクライナが求めているロケット砲システムは、弾薬の種類によっては射程距離が2倍、あるいはそれ以上に延びる可能性もある。誘導爆弾(GMLRS)であれば、射程は約70kmで、3人の砲員で発射することができる。射程が約300kmの陸軍戦術ミサイル(ATACMS)など、より長い射程の弾薬もあるが、WSJによると、アメリカは射程の短いシステムの供与しか考えていないという。

MLRSは12発から18発の誘導ロケット弾を1分以内に発射でき、射撃位置を敵が特定する前に、素早く別の位置へ移動することができる。

M270MLRSの製造元であるロッキード・マーチン(Lockheed Martin)によると、誘導ロケット弾はMLRS追跡ランチャーまたはM142高機動ロケット砲システム(HIMARS)と呼ばれる車輪付きランチャーから発射することができるという。

2021年10月23日、スウェーデンのゴットランド島で、ウィスコンシン州陸軍州兵がM142高機動砲ロケットシステム(HIMARS)の模擬射撃を行った。

2021年10月23日、スウェーデンのゴットランド島で、ウィスコンシン州陸軍州兵がM142高機動ロケット砲システム(HIMARS)の模擬射撃を行った。

US Army/Sgt. Patrik Orcutt

アメリカ政府当局者がWSJに語ったところによると、MLRSを用いることでウクライナ軍は東部のドンバス全域に攻め込んでいるロシア軍を攻撃できるようになるという。

バイデン政権がウクライナに向けた武器の供与をどのように進めるかを議論する中、国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官は5月27日の記者会見で、アメリカは「ウクライナが戦場で勝利を収められるよう引き続き支援していく」と述べ、ここ90日の間にウクライナが自衛できるようにするための支援戦略は、急速に変化していると付け加えた。

カービーは記者団に対して「先ごろまではジャベリン(携行式対戦車ミサイル)やスティンガー(対空ミサイル)のことばかり聞きたがっていたのに、今度はMLRSのことか。分かった」と語り、「戦局が時間とともに変化するにつれ、我々がウクライナの自衛を支援する方法も変わってきている。ウクライナが支援を必要とする限り、我々も尽力していく」と述べた。


ジョー・バイデン大統領は、ウクライナ軍が「戦場の重要なターゲットをより正確に攻撃」できるようにより高度なロケットシステムと弾薬をウクライナに提供するとNYTに寄稿したが、これらの兵器はウクライナ国内で使用するためのものであり、アメリカは国境を越えて攻撃することを奨励したり、可能にしたりしてはいないと付け加えた。

「我々はNATOとロシアの戦争を望んでいるわけではない」とバイデンは寄稿で述べている。

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