メガロドンの想像図。手前の小さいサメはホホジロザメ。
Victor Habbick Visions/Science Photo Library/Getty
- メガロドンは、ホホジロザメの4倍も大きい史上最大のサメだ。
- ホホジロザメはメガロドンと同じ獲物を食べていた。それがメガロドンの絶滅につながった可能性があることが、新しい研究で示唆された。
- メガロドンとホホジロザメの歯の化石によって、これらが食物連鎖の同じレベルにいたことが示されている。
メガロドンは太古の海で最大の捕食者だったが、必ずしも最強のハンターであったというわけではない。
彼らはこれまで存在してきた肉食のサメの中でも最大級であり、胎内にいるときに兄弟を食べて大きく生まれてきたとも言われている。成長すると体長は20メートル近くまでになったと考えられており、これはホホジロザメの4倍に相当する。サイズには大きな差があるものの、500万年前の鮮新世初期にはメガロドンとホホジロザメは、狩りのライバルだったのかもしれない。
研究チームが、すでに絶滅したサメから現生種のサメまで、20種ほどのサメの歯のエナメル質を分析した結果、メガロドンとホホジロザメは食物連鎖において同じレベルにあることが判明した。つまり、同じ海で同じ獲物を狩っていた可能性が高いということだ。もし、ホホジロザメがその獲物を大量に捕獲していたとすれば、それが約300万年前にメガロドンが絶滅する一因になった可能性がある。
「生物が何を食べるかによって、その進化の方向性や、生命のゲームにおける『勝者か敗者か』を決定づける」と、サメの歯を分析したウィリアム・パターソン大学の地球化学者マイケル・グリフィス(Michael Griffiths)がInsiderに語っている。
「メガロドンの絶滅に至った原因については、まだ結論が出ていない。しかし、この研究は、その原因を確実に突き止めるための道を開くものだ」と彼は付け加えた。
このサメの歯に関する研究論文は、2022年5月31日付けで『Nature Communications』に掲載された。
歯のエナメル質には古代生物の食生活のヒントが隠されていた
研究者の島田賢舟が日本で採取したメガロドンの歯の化石。
Kenshu Shimada
軟骨魚類であるサメの化石はほとんど見つからないが、歯はエナメル質に含まれるフッ素のおかげで保存状態のよいものが多い。また、エナメル質には亜鉛の同位体が含まれ、サメの食生活を知る手がかりとなる。
動物や魚は、骨に重い亜鉛同位体が残存する傾向がある。肉食動物は骨ではなく筋肉を食べることが多いため、獲物となる動物よりも重い亜鉛同位体の濃度は低く、軽い亜鉛同位体の濃度は高くなる。食物連鎖の上位に上がるにつれて、捕食者の骨に含まれる重い亜鉛同位体の濃度は低くなっていく。
研究チームは、サメが食物連鎖のどの段階にいたのか、つまりどの「栄養段階(trophic level )」を占めていたのかを知るために、歯に含まれる亜鉛同位体の値を測定した。この技術は、古代の陸上動物の食生活を解明するのに役立ってきたが、海洋脊椎動物に使われたのは今回が初めてだとグリフィスは言う。
ホホジロザメとメガロドンの歯は、同じような同位体レベルであり、食物連鎖の中で同じ地位を占めていたことが分かった。
「まだ十分なデータがあるわけではないので、その点は注意している」とグリフィスは述べているが、サメは手当たり次第に何でも食べる捕食者であり、ホホジロザメとメガロドンが食べたものが重複することは「間違いない」という。
「あまりにも大きな動物であるため、ほんの少しの競合でも(メガロドンの)生存に大きな影響があったのかもしれない」
またこの歯は、サメの食餌に関する他の傾向も明らかにした。
論文の共同執筆者で、デポール大学の古生物学教授およびカンザス州のスタンバーグ博物館の研究員を務める島田賢舟は「現生種のサメとその祖先のサメが捕獲していた獲物は、この2000万年でそれほど変わっていないようだ」とInsiderに宛てた電子メールで述べている。例えば「絶滅したイタチザメは現生種のイタチザメと同じように、幅広い種類の獲物を食べる『ジェネラリスト』だった」という。
一方、メガロドンの祖先でより小さいサイズのオトドゥス・チュブテンシス(Otodus chubutensis)は、亜鉛同位体の値が「桁外れ」に低く、その栄養段階が「現代の海ではありえない」ことを示しているとグリフィスは言う。つまり、オトドゥスは他のサメなどを食べて生き延びた可能性がある。
「このことは、サメがまさに海を支配していた時代があったことを示唆している」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)