吉野家元常務の不適切発言から約1カ月半。吉野家と早稲田大学がそれぞれ再発防止策を取り始めた。
株主総会の直前に実施された役員研修、講義には教授も同席……など、抗議署名が2万3000筆以上集まっている両者を通じ、差別やハラスメント事案で問われる「組織のその後」を考える。
吉野家と早稲田大への署名に2万3000筆超
抗議署名が2万3000人を超える吉野家と早稲田大学で、再発防止策が進んでいます。
撮影:西山里緒
吉野家元常務が早稲田大学の社会人向け講座で「生娘をシャブ漬け戦略」などと発言して批判を集めた。
その後、発言に抗議した受講生が吉野家(吉野家HD)と早稲田大学に対し、ハラスメント調査やコンプライアンスルールの策定及び教育などを求めて立ち上げた署名には、2万3000人超の賛同が集まっている(6月1日時点)。
受講生と代理人の弁護士は署名の内容と同様の要望書を両者に提出してやり取りを重ねており、その回答からはそれぞれが再発防止策を取り始めたことがうかがえる。
早稲田大:その場で注意・制止する担当者が同席
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まずは早稲田大学。
・当該社会人向け講座での再発防止策として、登壇する講師には事前に差別やハラスメント等をしないよう注意を促し、講座当日も口頭で同内容を説明して遵守を求める。
・各回に責任者の早稲田大学教授もしくは職員が同席し、不適切な発言があった場合はその場で注意、制止する。
・受講生が声を上げやすい環境を整えるため、各回の講義後に記述式のアンケートを実施。回答に対して都度、適切に対応する。
その他、ハラスメント調査などの詳細については「複数の部署に渡る事案のため時間がかかっているが、検討は進展している」とのことだった。
吉野家:役員にコンプラ研修、調査も進行中
吉野家HDのガバナンス強化に向けたこれまでの取り組み。
出典:吉野家HDホームページ
一方の吉野家ホールディングスは、
・吉野家など吉野家ホールディングスグループ企業の役員に対し、コンプライアンス研修を実施。
・社内で今回のような発言が日常的になされていなかったか、外部の専門家と共に社内調査を進めている。
という。
コンプライアンスやダイバーシティの方針については、既存のホームページを参照してほしいとのことだった。
これに対して、受講生の代理人を務める伊藤和子弁護士は言う。
「吉野家は要望事項に即した回答にすらなっておらず、全く誠意を感じることができませんでした。
また、ダイバーシティ&インクルージョンに関する方針を掲げているとしてWebサイトのリンクを送ってこられましたが、そうした方針を掲げているのであればなぜ今回のような問題が起きたのか。実施状況の問題を分析すべきです。問題に正面から向き合う姿勢を示すよう、経営層には真摯な再考を求めたいと思います」
お飾りのハラスメントポリシーは無意味
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要望書では、ハラスメント調査の結果やコンプライアンス教育の内容について「公表」することを求めていた。吉野家にBusiness Insider Japanから追加で質問したところ、
「元常務が社内でも不適切な発言をしていたのか、5月以降、現在も引き続き社内で精査を進めているが、現段階でそのような言動があったという事実は確認できていない。
また役員へのコンプライアンス研修は、外部講師を招聘し、変化する社会規範に経営幹部としてどう対応するか研修を実施した」
との回答があった。
吉野家HDが役員へのコンプライアンス研修を行ったのは、株主総会(26日)が開かれる直前の5月23日だ。
株主総会では、吉野家HDの河村泰貴社長が本件について初めて公の場で謝罪したと報じられている。
署名は引き続き賛同人を募り、6月中には両者に提出する予定だ。発起人の受講生は言う。
「お飾りのガイドラインやポリシーの公表では意味がないと思います。
早稲田大学の学生や教員、吉野家の社員や顧客のためにきちんと課題と向き合って、再発防止に取り組んで欲しいです。多くの人が関わる大学、企業として安心して学び働く環境を整える責任があると思います」
(文・竹下郁子)