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企業の「賃上げ」なぜ進まない。日本の労働組合はもっと声を上げるべきだ

駅構内

今、アメリカで労働運動が活発になり、テック系大企業でも賃上げや待遇改善を勝ち取る事例が報じられている。日本にもこの波は来るのだろうか?

撮影:今村拓馬

コロナ禍を機に、貧富の格差はますます拡大し、中でも「エッセンシャルワーカー(生活に欠かせない仕事を担う人たち)」が低所得・低待遇である問題が、改めて議論されるようになった。

アメリカでは、若者世代を中心に待遇改善を求める労働運動が盛んだ。しかし日本では、状況は似ているにもかかわらず、労働組合(労組)の組織率は低迷している。

日本の労働運動は、なぜこの状況下でも活力がないのか。労働経済学を専門とする、東京大学社会科学研究所長の玄田有史教授に聞いた。

GAFAでも相次ぐ、労組結成の動き

労働組合

アマゾンの倉庫労働者が組合選挙の申請を行う様子。

Shutterstock/Luigi Morris

アメリカの巨大テック企業を中心に、労働者たちが団結して待遇改善を目指す動きが広まっている。アメリカでは2021年1月、Googleの親会社、アルファベットで初めての労働組合が発足した。

最近でも(2022年4月)アマゾンの物流センターで労組結成をめぐる投票が行われ、賛成が多数を占めた。

アップル社の店舗スタッフや各地のスターバックスなどでも、同様の動きが見られる。労働者が集まるオンライン上のプラットフォーム「Coworker.org」上でも、コロナ禍の状況下、テックワーカーらの間に労働運動をサポートする活動が生まれた。

こうした動きは、主にミレニアルら若手世代がけん引している。一方、日本では目立った労働運動は生まれていない。それどころか日本の労組組織率は2021年、16.9%と前年比0.2ポイント低下した(厚生労働省の調査より)。

日本での低迷の理由として、玄田教授はまず、労組が多様化する従業員を活動に巻き込めていない点を指摘する。

「労組の多くは、同質的な労働者が強固につながる、旧来の成功モデルから脱しきれていません。多様な社員がゆるくつながる『新しい労組』に変わるには、マイノリティをただ『いる』だけの存在にせず、違いに起因する力を職場改善に生かしてもらう必要があります」

労使交渉がある職場の5割超「仕事に満足」

テレワーク

労働者代表の有無とテレワークの実施度合いなどを比較したデータ。

出所:「JPSEDシンポジウム2022」資料より

その一方、実はコロナ禍でのテレワーク導入に関しては、労働者たちが上げた「声」が職場改善に貢献していたことが、リクルートワークス研究所の調査で判明した

同研究所が15歳以上の男女約5万人に対して毎年実施している「全国就業実態パネル調査」の2020~21年の結果を、玄田教授らの研究会が分析した。

その結果、労組や労働者代表など、労使コミュニケーションの手段を持つ職場では、緊急事態宣言中のテレワーク実施率が約3割に上り、ない職場は約2割に留まった。

それだけではなく、労使コミュニケーションの手段がある職場では、テレワーク導入で仕事の生産性が高まったと回答した労働者の割合が2割、仕事に満足したという回答者の割合が5割超だったが、ない職場ではそれぞれ約1割、約3割となった。

玄田教授は「コロナ禍のような緊急事態では、人事担当の部署も忙しく、マンパワーも限られます。テレワークになるとなおさら、社員の不満は見えなくなってしまう。労働者代表が社員の意見を集約して伝えれば、経営者も対応しやすいのです」と解説する。

玄田有史教授

労使コミュニケーションはコロナ禍で職場改善に一役買っていたと、玄田教授は語る。

撮影:有馬知子

つまり、低迷しているイメージとは裏腹に、労組や労使コミュニケーションはコロナ禍での働き方の改善に一定の役割を果たしていたのだ

労組だけでなく女性や障害のある人、LGBTQ+の人たちなど、共通項を持つ社員が集まる「従業員リソースグループ(Employee Resource Groups:ERGs)」も、労使コミュニケーションを担える可能性があると、玄田教授は指摘する。

「中小企業であっても、5人程度の社員が集まり役割分担することで、経営側に意見を伝えることはできます。フォーマル・インフォーマルを問わず、職場全体あるいは一部を代表する労働者の集まりがあることが重要なのです」

格差拡大、賃金デフレに急性インフレ…生活は守れるのか

公園にいる人

「日本の労働運動は雇用確保を最優先するあまり、賃上げなど待遇改善を求める力が弱ってしまったのでは」(玄田氏)。

撮影:今村拓馬

一方この分析では、コロナ禍が所得と雇用保障だけでなく「働きやすさ」の格差も広げたことが分かった。テレワークの普及によって、働く時間と場所の自由度を示す「柔軟性スコア」の数値が高所得層で高まり、低所得層では低下したのだ。

また総務省の統計によると、2019~21年にかけて正社員数は微増したが、非正規雇用者数は2165万人から2064万人へと100万人以上減少した。玄田教授は言う。

「上位層を中心に、所得も雇用も安定し働き方も柔軟な『3重の恩恵』を享受する人々が生まれました。一方で低所得層では、非正規を中心に多くの雇用が失われ、エッセンシャルワーカーの比率が高いため柔軟性も低下しています」

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、2020年度まで物価を考慮した日本の実質賃金は2年連続で減少し「賃金デフレ」の状態が続いていた。

2021年度は微増したものの、今度はウクライナ戦争などに伴う食料・燃料価格の高騰や円安に伴う急性インフレが、家計を圧迫し始めている。

しかしアメリカのような「怒れる労働者」による改善要求の動きは、日本ではほとんど見られない。玄田教授は「過去の労働運動が雇用確保を最優先するあまり、賃上げをはじめとする待遇改善を求める力が弱ってしまったせいではないか」と推測する。

5月に発表のピークを迎えた2022年3月期の企業決算では、円安などの恩恵を受けて最高益を達成する一部上場企業が相次いだ。コロナ禍の間も有効求人倍率は1倍を超え、求人数が求職者数を上回る人手不足の状態も続いている。玄田教授はこう話す。

「自社の財務諸表を詳細に分析すれば、多くの企業で人件費を増やす余地を見出せるはず。組織内の労働者が声を上げ、賃金プロセスに適切に関わることこそ重要だ

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