イリノイ州ノーマルにあるリビアンのEV組み立て工場。
Kamil Krzaczynski / Reuters
リビアン(Rivian)、フォード(Ford)、GMといったアメリカの自動車メーカーは、何千台もの電気自動車(EV)を生産しようと奔走している。だがこれらの企業は、特にEV用バッテリーのサプライチェーンに関して多くの制約が立ちはだかっていると語る。
自動車業界の専門家の中には、これらメーカー各社が行うべきことは、テスラを真似るだけでなく、中国の競合企業のサプライ戦略も真似るべきだと指摘する人もいる。
中国は何年も前からEVへのシフトを優先し始めており、企業に対してバッテリー、サプライチェーン、車両製造への投資を奨励し、EVを購入する消費者に助成金を提供している。
カナダを拠点とするスノー・レイク・リチウム(Snow Lake Lithium)のCEO、フィリップ・グロス(Philip Gross)は、「中国は、水酸化物工場、EVの製造、助成金など、あらゆる取り組みに全力を注いできています。現時点で、彼らは我々よりはるか先を行っています」と述べる。
EVのサプライチェーンに関して、アメリカの自動車メーカーは中国に20年近く後れをとっている。中国政府は2000年代初頭にリチウムイオン電池に注目し始め、2004年に中国EV協会を設立した。それ以来着実に成果を上げており、2021年は290万台のEVが生産された。
しかし、アメリカを拠点とする企業が中国から学び、EV市場で成功してシェアを獲得する方法はある。
「我々は中国を見て、彼らが成功するためにやってきたことはこれなのだと理解することが必要です」 とグロスは言う。「我々はこれをやりたいのです」
本稿では、アメリカの企業が中国を見習い成功するために必要な4つのことを専門家が指摘する。
中国が成功していること
現在、アメリカの自動車メーカーはEV用バッテリーの原料を海外にかなり依存しており、それを中国に送って加工している。一方、中国のメーカーは、リチウムなどEVに必要な原材料の供給源を豊富に確保しており、一歩先んじている。さらに中国は、世界中のバッテリーセルやバッテリーパックなど、需要の高い部品の大部分の生産をコントロールしている。
中国には自動車メーカーが数十社あるが、EV産業を支配する蔚来汽車(Nio)、小鵬汽車(Xpeng)、理想汽車(Li Auto)など気鋭のスタートアップ企業は特にその恩恵を受けている。威馬汽車(WM Motor)と比亜迪(BYD)の2社も事業を拡大している。
ロンドンを拠点とするコンサルティング会社、グローバルデータ(GlobalData)のアナリスト、ダン・クラーク(Dan Clarke)によると、中国企業は長い間、国内のEV需要の高まりに助けられてきており、中国自体がこの分野の「ブローカー」として、また投資家として機能している。クラークは最近のレポートで、中国はこのような力学によってセルの製造や精製を含むEVのサプライチェーンで「ほぼ独占状態」を作り上げたと述べている。
「中国は今、その恩恵を受けています」とクラークは述べている。
最近、レアアースと重要素材の上場投資信託(ETF)を立ち上げたオプティカ・キャピタル(Optica Capital)のCEOジェリー・ヒックス(Jerry Hicks)は、彼が販売する金融商品の約20~25%に中国の生産者が関わっていると述べる。
「これは、中国がこの分野ではるかに先行しており、長年にわたって世界の汚れ仕事をこなしてきたという事実を如実に物語っています」 とヒックスは言う。「彼らは技術的な知識も大量に蓄積してきた。これを他の国で再現するのは容易ではないでしょう」
4つの戦略
アメリカのメーカーが中国のやり方をそのまま真似できないのは明らかだ。しかし、その必要はないかもしれないと、コンサルティング会社ゾゾゴー(ZoZoGo)のCEO、マイケル・ダン(Michael Dunne)は言う。同氏は、アメリカの企業が採用できる戦略を4つ挙げる。
1つ目は、北米でのバッテリー供給を、採掘と精製の両面から確保して、さらにセル生産をアメリカ国内に移転することである。同時に、中南米などの国々と協力して、原材料を確保していくことも重要だ。
「数年はサプライチェーンが大きく混乱するが、5~7年で落ち着き、いま行っている投資が実を結び始めるでしょう」とダンは言う。
2つ目の戦略は、バッテリーのリサイクルに本腰を入れることだ。
「ひとたびリサイクルの仕組みが確立して循環型のバッテリー経済が実現すれば、精製リチウムの必要性は以前ほど高くなくなります」とクラークは言う。「そうなれば、これまで中国がこの産業に投資することで築いてきた有利な立場や地理的な利点を無効化する転機となります」
3つ目は、テスラやGMなどの自動車メーカーがすでに進めている垂直統合だが、これにより中国への依存度を下げることも可能となる。さらには、従来とは違う、より革新的で最適化された化学特性のバッテリーが実現する可能性すらある。
最後に専門家が指摘するのは、政府の支援の重要性だ。中国政府は、2025年までに自動車販売台数の25%を「新エネルギー車」にしたいと述べている。バイデン政権は、2030年までに新車の50%をEVにすることを目標に掲げているが、アメリカにおけるEV支援強化をし続けるべきだ。ダンはこう指摘する。
「我々が中国の青写真を100%真似る必要はありません。しかし、中国のこれまでの取り組みや現状から学ぶべきことはたくさんあります」
(編集・大門小百合)