米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)のシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO、左)とマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO、右)。
Kevin Dietsch/Getty Images
2021年10月、フェイスブック(Facebook)はメタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)への社名変更を発表し、社業の主軸を「メタバース」に移すという創業以来最大の方針転換を発表した。
2008年から同社の成長を支えてきたナンバー2、最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)は、その決定にほとんど関与していなかった。
新たな戦略に対する強烈な執着を隠そうとしないマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)最高経営責任者(CEO)の熱量を考えると、そこにサンドバーグの存在が微塵(みじん)も感じられないことは従業員たちにとって驚きだった。
もしこれが本当にマークの目指す新たな目的地だと言うなら、なぜ彼の右腕とも言えるシェリルはプロジェクトからこれほど距離をおいているのか?
最近退社したばかりの管理職は端的にこう語った。
「看板を掛けかえるほどの戦略変更なのだから、シェリルはもっと重要な役割を果たしてしかるべきと誰もが感じたと思います。でも、実際にはそうなりませんでした」
6月1日、メタはサンドバーグが今秋にCOOを退任すると発表した。
近ごろInsiderの取材に応じた現役の従業員あるいは元従業員6人の証言を総合すると、サンドバーグの同社内における権力と影響力が低下の一途をたどってきた事実が明らかになった。
プライベートな事柄ゆえに絶対匿名との条件で取材に応じた従業員らは、ここ数カ月社内の重要な変化に関わるメールの宛先にサンドバーグのアドレスが見当たらなくなっていたと語った。
ある従業員によれば、サンドバーグが社内の重要人物としての位置づけから外れるようになってきたのは、少なくとも2年前からだという。
社内の電話会議に参加する機会は減り、かつてに比べて発言も少なくなった。パンデミックの間はザッカーバーグが会社を離れる時間が長くなったこともあり、シェリルとふたり一緒でオフィスにいる姿はほとんど見られなくなった。
ふたりの経営体制のもとで過去10年以上にわたって恒例行事として行われてきた毎週金曜日の数時間におよぶミーティングも取りやめにしたのではないかと訝(いぶか)る従業員もいたようだ。
フェイスブック時代から同社に出資してきた投資家のひとりは「シェリルは間もなく会社を去るんだろうと感じていました」と語る。
幹部クラスの元従業員は、サンドバーグの退任について「いまとなってはシェリルが退任することより、ここまで会社を離れずにいたことのほうが驚きです」と語り、長らくそうなると思われていたことがようやく形になったとの見方を示した。
メタの発表ではサンドバーグの退社は自己都合によるものとされているが、別のマネジャークラスの従業員は彼女が以前から退社するよう求められていたと断言する。ただ、「(退社に至るとしても)解雇の形にはならないと考えていた」と同従業員は語る。
別の従業員は、サンドバーグの退社が何カ月も前から決まっていて、おそらくそうだからこそ同社の新たな取り組みに加わるケースが目に見えて減ったのだろうと語った。
同従業員はまた、サンドバーグがここ数年公の場で犯した失策が、ある時点から会社にとってあまりにもネガティブなリスクとして鎌首をもたげるようになったと指摘する。
2021年1月6日にトランプ前大統領の支持者らが連邦議会議事堂を襲撃した暴動事件はフェイスブックを通じて組織されたものではないという彼女の主張がその最たる例だ。
最近も、元交際相手でアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)創業者兼CEOのボビー・コティック(Bobby Kotick)の女性問題を報じないよう、サンドバーグが英デイリー・メール(Daily Mail)に圧力をかけたとする米ウォール・ストリート・ジャーナルの報道(4月21日付)が世間の疑念を呼んだ。
最近退社した管理職クラスの従業員は歯に衣着せずこう語る。
「シェリルは公の場で会社の印象を悪くするような馬鹿げた(stupid shit)発言をくり返していましたから、みんな彼女はいつ辞表を出すんだと思っていたんじゃないでしょうか」
サンドバーグのフェイスブック社内における立ち位置が大きく変わったのは、2016年の米大統領選挙からだった。
当時選挙キャンペーンの陣営にいた関係者によれば、民主党候補だったヒラリー・クリントンが勝利すれば、サンドバーグは政権の重要閣僚、もっと言えば財務長官ポストに「当確」と言われていたそうだ。
あるいは、マイケル・ブルームバーグ(元ニューヨーク市長)が民主党の候補者争いに勝利していれば、サンドバーグは副大統領に就任していたかもしれないと、ブルームバーグの選挙陣営にいた関係者は語っている。
また、情報筋によれば、サンドバーグはかつて米ウォルト・ディズニーCEOの有力候補にあがっていた時期もあるという。
結果として、2016年の大統領選挙に勝利したのはトランプであり、サンドバーグの「当確」は結局夢物語に終わった。
皮肉なことに、その後の米司法省の捜査を通じて、ロシアなど海外勢力が他ならぬフェイスブックを活用して偽情報を拡散するなどの工作を展開し、トランプ陣営に有利をもたらしたことが明らかになっている。
薄れていったサンドバーグの存在感
さらに、サンドバーグのフェイスブック社内での権力と影響力に最もはっきりと変化があらわれたのは、インスタグラムの最高執行責任者(COO)として大きな実績を残したマーニー・レヴィーンの最高業務責任者(CBO)就任以降だと、複数の現役従業員は指摘する。
レヴィーンは2021年秋のCBO就任後、周囲が予想していた以上の手腕を発揮し、それまでサンドバーグや当時バイスプレジデントで広告部門の責任者を務めていたキャロリン・エバーソンの得意分野だった広告主との関係強化にも成功した。
広告業界のある幹部は、2020年にヘイトスピーチやフェイクニュースへの懸念からフェイスブックへの広告出稿をボイコットする動きが起きたこと、さらには2019年にニュージーランドで起きた銃乱射事件で犯行の様子がフェイスブックでライブ配信されたことを引き合いに出し、サンドバーグはマディソン・アベニュー(=広告業界の代名詞)からの信頼を失っていったと指摘する。
サンドバーグに近いこの人物はInsiderの取材に対し、彼女が近ごろフェイスブックの広告事業をレヴィーンにすべてまかせたと語っていたとも話す。
ここまで紹介した従業員らの証言からも分かるように、サンドバーグの「会社の印象を悪くする」力はよく認知されていたので、パンデミックが続くなかで彼女の存在感のなさはむしろ際立って目につくことになった。
「シェリルは実際に起きている問題にまったく無頓着な人で、パンデミックが起きたからこそむしろ(彼女を起点とするネガティブな問題も起こらず)世間の目から隠れていられたのだと思います」(前出の広告業界幹部)
メタの一般従業員の感覚はもっとドライだ。
現役従業員3人はInsiderの取材に対し、サンドバーグがリーダーとしての存在感を発揮していたのはずっと前のことだと口を揃える。
「パンデミック初期と違って、最近は公開されているシェリルの(フェイスブック)フィードを読んでも大したことは書いてありません。
自分の立場からすると、シェリルより最高技術責任者(CTO)のボズ(アンドリュー・ボズワース)から学ぶことのほうが多いんです。ここ1年でボズの人気はものすごく高まったと思います」
[原文:The inside story of how Sheryl Sandberg lost her influence and power at Facebook]
(翻訳・編集:川村力)