輸出を待つ中国のリチウムイオン電池モジュール。
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- バンク・オブ・アメリカは、将来の技術に重要な金属が不足しているために、2050年までに世界の排出量をゼロにする目標を達成できないと指摘している。
- 同行は、リチウム、コバルト、銅など将来の技術に重要な金属、いわゆるMIFTが27種類あるとした。
- 主要金属の不足に対処するためには、鉱山業界へ約2倍の投資を行う必要がある。
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は2022年6月1日、今後は主要原材料の不足が続くと見られ、鉱業界への投資を拡大しなければ、パリ協定(Paris Accord)で定められた地球規模の気候変動に関する目標は達成できないだろうと述べた。
2015年に約200カ国が温室効果ガスの排出量を大幅に削減することで合意したパリ協定では、「ネットゼロ」を目指し、2050年までの地球温暖化を摂氏1.5度に抑えるという目標が掲げられていた。
「採掘された原料はエネルギー転換のカギを握っているが、将来の技術に重要な金属(metals important for future technologies:MIFT)が不足しているため、ネットゼロ達成は危ういものになっている。世界はこのことに気づき始めたところだ」と、バンク・オブ・アメリカの金属調査部門の責任者・マイケル・ウィドマー(Michael Widmer)は、バンク・オブ・アメリカの商品調査チームのメモの中で述べている。
バンク・オブ・アメリカは、リチウム、コバルト、マンガン、イリジウム、モリブデン、銅、ニッケル、アルミニウムなど27の金属をMIFTとして挙げている。これらのMIFTは、エネルギー貯蔵から電気自動車、風力発電に至るまで、幅広い用途に利用されている。
現在の資源保有量と市場のバランスから見れば、地球温暖化の限界値は摂氏1.7度から1.8度に設定されるという。
「これまでと同様、不足と制約の解決策のひとつは、投資にある」
2050年までに世界がネットゼロの目標を達成するためには、鉱業分野での設備投資をこれまでの2倍近い年間1600億ドル(約20兆8000億円)に増やす必要があるという。同行によると、過去10年間の世界の鉱業分野での設備投資額は、年平均で約995億ドル(約12兆9000億円)だった。
ウィドマーは、国連が2030年までに発展途上国だけで、年間1400億ドル(約18兆円)から3000億ドル(約39兆円)の適応費用がかかるのを見込んでいることに触れ、「多大な費用がかかるように思えるかもしれないが、財政的な観点から見れば、MIFTへの投資を促進することには大きな見返りがある」と述べている。
「ネットゼロを達成するために必要な採掘への資本支出に基づくと、簡単に言えば、その投資に対するリターンは94%から317%程度になる。つまり、ネットゼロに向かうためには、鉱業分野への投資が必要だが、これによって適応コストを節約できる可能性がある」
バンク・オブ・アメリカによると、中国が多くの重要な資源の最大の生産国として突出しており、供給リスクに対する懸念があるという。中国はカドミウム、ガリウム、グラファイト、イリジウムその他の金属の最大の生産国だ。
世界の鉱業設備投資額を示すグラフ。
Bank of America
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)