いまだ品不足が続くPlayStation 5。ソニーの快進撃を支える存在だ。
撮影:西田宗千佳
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、PlayStation向けゲーム定額サービス「PlayStation Plus」(以下、PS Plus)の内容を刷新した。
変更内容はシンプルにまとめるならば、
- より高額なプランを用意し、追加料金なしでプレイできるゲームを増やす
- PS1/PS2/PS3/PSPといった、過去ゲーム機の作品も一部プレイ可能に
- 一部のゲームが、購入前に2時間「お試しプレイ」可能に
といったところだろうか。
6月2日から、日本で「PlayStation Plus」のサービスが刷新。料金ごとに3プランになった。
PlayStation Plusを筆者キャプチャー
最も多くのゲームが遊べる「プレミアム」は月額1550円、従来通りのサービスである「エッセンシャル」は月額850円、従来サービスにPS4/PS5タイトルの遊び放題モデルを追加した「エクストラ」が月額1300円となっている(いずれも税込)。
このプラン設計と、サービス形態には、PlayStation 5で快進撃を続けるSIEの「ゲームビジネス」の考え方が色濃くあらわれている。
そのビジネス背景も含めて解説してみよう。
ゲームビジネスの今は、この1枚のグラフで読み解ける
ソニーにおけるゲーム事業を読み解く上で、状況が非常によくわかるグラフがある。
5月26日に開催されたソニーグループの2022年度事業説明会において示された、「ゲームハードウェア移行期の売上と営業利益」を解説するためのグラフだ。1994年からの売上高と利益をまとめたグラフなのだが、特に注目は「営業利益」の部分だ。
1994年以降のソニーのゲーム事業概況。ゲーム機の世代変更のたびに利益が大きく変動していたが、PS4からPS5への移行では一貫して利益を上げ続けている。
出典:ソニーグループ
PS1からPS4までは、ハードウェアの切り替え期には利益が下がり、世代交代後に持ち直す、という波があった。だが、PS4以降はその波がなく、売上高も利益も右肩上がりになっている。
その推進力となっているのが、グラフの中で黄色い「+」で示されているネットサービスである「PS Plus」だ。
PS Plusを2010年に開始して以降、SIEは有料サービスとデジタル配信、追加コンテンツなどの売り上げを急増させ、ハードウェア移行期にも(ユーザーを逃すことなく)継続した関係を続けられることとなった。
ビジネスモデル変化はSIEだけのものではない。マイクロソフトや任天堂にも起きている。
家庭用ゲーム機は、今やハード+ソフトに加え、会員制サービスとデジタルコンテンツを加えた、複合的なビジネスになったわけだ。
シンプル化と「お得度強化」で5000万加入を目指す
もちろん、こうした変化が生まれるには2つの事情がある。
1つは、SIEの有料会員サービスには、「PS Plus」と、クラウドゲーミングの「PlayStation Now」(PS Now)の2つがあり、分かりにくかったこと。
新サービスではPS PlusとPS Nowを統合し、年内に5000万加入を目指す。
出典:ソニーグループ
だがそれ以上に大きいのが「競合関係」だ。
マイクロソフトのゲームサブスク「Xbox Game Pass」(最上位プランの「Ultimate」で月額1100円)で多数のゲームをXbox/PC/クラウドから、追加料金なしでプレイできる。
しかも、マイクロソフト傘下のゲームスタジオが開発した大作ゲームは、発売初日からこのサービスに含まれるため、出費が大きく減る。
マイクロソフトは「Xbox Game Pass」で自社ゲームを大胆にサブスクで提供し、ゲームファンの心を掴んでいる。
出典:マイクロソフト
ゲーマーにとってこのサービスのインパクトは強く、人気もある。
PS Plusでも「フリープレイ(遊び放題)」のゲームは数多くあったのだが、ライバルとの競合の中では、魅力あるタイトルの追加が必要、ともみられていた。
2021年度末の時点で、PS Plusの有料会員数は約4740万人。これを2022年度中に5000万人以上に伸ばすのがSIEの計画だ。
クラウドゲームの「PS Now」と完全統合
では実際に試してみよう。今回は最上位版の「プレミアム」で遊んでいる。
PS4やPS5では、6月2日以降、メニュー内の「PS Plus」の構造が大きく変わっている。
PS 5から見た、「PS Plus」の新メニュー。特に「プレミアム」では、「クラシックスカタログ」「ゲームトライアル」「ストリーミングゲーム」が増えている。
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
新しいPS Plusは、「プレミアム」の場合、従来は「PS Now」と呼ばれていたクラウドゲーミングサービスと統合される。そのため、PS Nowで提供されていた「PS3・PS4向けのゲームの多くが遊び放題で提供」される。
このタイプの場合、ゲームは本体にダウンロードすることなく、ネットを介してストリーミング形式でプレイする。
ただ、ネットの向こうにあるゲーム機本体をリモートで動かす、という特性上、ネット回線が高速かつ安定している必要がある。光回線ならもちろん問題はなく、携帯電話回線でも「意外と遊べる」のだが。
PS3用ゲーム「TOKYO JUNGLE」をPS5からストリーミングでプレイ。十分快適にプレイできる。
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
製品版ゲームを「2時間無料でプレイ」できる新機能の意図
一方で、PS4/PS5向けのフリープレイタイトルも非常に多い。「ファイナルファンタジー」シリーズなど、日本のファンが多いシリーズ作品もラインナップされている。
加入者が無料でプレイできるタイトルは大幅拡充。「ファイナルファンタジー」シリーズや、「デス・ストランディング」などの人気タイトルも追加になっている。
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
現状、後述するPS1/PS2時代の「クラシックタイトル」も含め、二百数十の作品がフリープレイとなっており、お得さは確実にアップしている。実のところ、「クラシックス」作品より、PS4以降の世代の作品を重視したサービスである印象を受ける。
1つの特徴と言える「ゲームトライアル」は、PS4/PS5向けのゲームについて、製品版と全く同じものを「累計2時間まで」自由に遊べる仕組みだ。製品版と同じくダウンロードして遊ぶのだが、ダウンロード時には一切課金されることはない。プレイ開始時に「あと何分遊べます」と表示が出るだけだ。
「ゲームトライアル」対象のゲームの場合、ダウンロード後「累計2時間まで」は製品版とまったく同じようにプレイできる。
PlayStation Plusを筆者キャプチャー
セーブデータなども製品版と同じなので、気に入ったら購入する。そうすると、ダウンロードをし直すこともなく、そのまま「製品版」に変わる、という仕組みだ。
事前の情報では「すべてのPS5用ゲームが体験できる」という話もあったのだったのだが、スタート段階では14本のゲームが「体験可能」となっている状況で、こちらもどう増やしていくかが課題だろう。
ゲームトライアル対象タイトルは14。数が少なく、物足りない印象だ。
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
PS1向けゲームを「PS4/5」で。提供ゲーム数では不満は残る
過去のPlayStation向けゲーム「クラシックスカタログ」にも触れておく。
PS1・PS2・PSP向けのゲームが「クラシックスカタログ」として提供される
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
クラシックスは、言ってみれば「特定の古いゲーム作品がPS4/PS5向けに一部機能を変えて提供される」サービスだ。
ゲームの中に、SIEが開発したPS1/PS2/PSPのゲームを動かすエミュレーターなどをセットにし、「PS4/PS5向けのタイトルにしたもの」を提供している、という扱いだ。
画像:PS1向けの「クラシックスカタログ」である「鉄拳2」も、プレイ対象機種は「PS4/PS5」となっている。
PlayStation Plusを筆者キャプチャー
注意書きには「PlayStation向けのゲームを変換したもの」という表記がある。
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
だから、特にPS1向けのゲームについては「解像度変更」や「ゲームプレイの巻き戻し」などの機能がついていて、現在の環境でも快適に遊べるようになっている。
PS1用のゲーム「ジャンピングフラッシュ! アロハ男爵ファンキー大作戦の巻」をプレイ。解像度やフレームレートが向上した形で楽しめるほか、失敗したところへ戻る「巻き戻し」機能も。
画像:PlayStation Plusを筆者キャプチャー
一方、そうした「現代化」処理を必要とするためか、PS1/PS2/PSPタイトルの数は現状少ない。6月2日午前に確認した段階では、17本だけだった。今後、継続的に追加される見込みだが、やや物足りない感はある。
なお、過去のPS向けゲーム全体を「クラシック」としてみた場合、実は、前出の「ストリーミング提供によるPS3用ゲーム」が圧倒的に多い。すでにPS Nowで提供されていたものを移行した、という関係からだと推察される。
「発売と同時にサブスク」はやらないSIE、ラインナップ数は「時間で解決」か
プレイしてみると、競合マイクロソフトの「Xbox Game Pass」とは違い、「本当に発売されたばかりのゲーム」はフリープレイになっていないのがわかる。これはSIEの方針であるようだ。
ソニーグループ副社長兼CFOの十時裕樹氏は、5月10日に開催された2021年度連結業績説明会で、以下のように語っている。
「弊社制作の大型タイトルを発売日からサブスクリプションサービスで配信した場合、その価値を提供し続けるために必要な投資を縮小せざるを得なくなり、自社制作タイトルの質が悪くなる可能性を懸念している。
現時点では開発費をきちんとかけてつくり込んだ、AAA(大型タイトル)にふさわしいタイトルをリリースしていきたいと考えている」(十時裕樹氏)
いきなり安価なサブスクも同時スタートすると、収益回収にリスクが生じる」と懸念していることがわかる。
結果として、「新作を安く遊ぶ」という意味で言えば、新PS PlusはマイクロソフトのXbox Game Passに比べ見劣りする。
それでも、多数のゲームが追加費用なしで遊べるし、「お得な形でゲームを提供する」という意味では、かなりがんばっている。
ただ、最上位の「プレミアム」に顧客を誘導するには、「クラシックス」ゲームや体験版対象のゲームを、矢継ぎ早に増やす必要があるだろう。
(文・西田宗千佳)