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- アメリカでは、ニューヨーク州バッファローやテキサス州ユバルディで起きた銃乱射事件を"でっち上げ"だとする誤った主張が極右の陰謀論者を中心に拡散している。
- こうした主張はしばしば、銃規制に反対したり、事件を政府の策略だと訴えるために使われている。
- 専門家はこうした主張が近年増えていて、そのあり方も変わりつつあるとInsiderに語った。
ニューヨーク州バッファローやテキサス州ユバルディで多くの死傷者を出した銃乱射事件のニュースが報じられるとすぐに、極右過激主義者やQアノンのインフルエンサーたちはこれらの事件が"でっち上げ"だと誤った主張を拡散し始めた。こうした反応は陰謀論者の間では当たり前になりつつある。陰謀論者たちはこうした悲劇を繰り返し取り上げ、自分たちの過激なストーリーに合うよう歪曲している。
5月14日にニューヨーク州バッファローにあるスーパーで銃乱射事件が起き、10人が死亡した時には、あるQアノンの有名インフルエンサーがテレグラム(Telegram)で8万4000人のフォロワーに対し、この事件は"偽旗作戦"だと主張した。5月24日にテキサス州ユバルディの小学校で子ども19人を含む21人が死亡した銃乱射事件が起きた時も、このインフルエンサーは今回の事件も"偽旗作戦"だと繰り返した。頻繁に情報発信をしている別の反ユダヤ主義のQアノンの陰謀論者は、ユバルディで事件が起きた日に「偽旗の銃乱射事件が多発している」と主張した。
こうした根拠のない陰謀論が一部オンラインサークルであまりにも広く拡散していることから、明らかに誤った主張についてはそれが誤りであることを証明するためのファクトチェッカーが必要だ。
本物の動画や写真といった証拠が数多く出回っているにもかかわらず、今では銃乱射事件が起こるたびにこうした"偽旗作戦"の主張が広がっている。専門家はこうした根拠のない陰謀論が近年、ソーシャルメディアでより簡単かつより急速に拡散するようになったとInsiderに話している。こうした主張は銃規制に反対したり、悲劇的な事件を政府の不正な策略だと訴えたり、Qアノンといったその他の極右の陰謀論に合わせるために陰謀論者に利用されている。
デマや過激思想を研究しているサラ・アニアノ(Sara Aniano)氏は、数多くのとっぴな"偽旗作戦"の告発を目にしてきたとInsiderに語った。中には、2012年にコネティカット州のサンディフック小学校で起きた銃乱射事件といった過去の悲劇の後に拡散した誤った主張を真似たものもあるという。サンディフック小学校の銃乱射事件をめぐっては、極右陰謀論者が犠牲者の親を訓練などで使われる"被害者役"だと非難していた。極右思想や陰謀論を支持する人々のコミュニティーは銃乱射事件以外にも、9.11同時多発テロや2021年1月にワシントンD.C.で起きた議事堂侵入事件など、さまざまな事件を"偽旗作戦"だと訴えてきた。
アニアノ氏は、近年起きているこうした銃乱射事件は"偽旗作戦"で、銃規制を支援するために「連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)が意図的に画策したもの」というのが、極右に浸透している説だと話している。
こうした比較的新しい"偽旗"陰謀論の気がかりな点は、一部の信奉者は事件に関わった全員が"被害者役"ではなく、中には本当に命を落とした人がいると考えていることだとアニアノ氏は指摘している。全員が"被害者役"だったと言うより、子どもたちが実際に死んでいると言った方が信奉者たちは信じやすいため、陰謀論を拡散させる人々はストーリーを転換させたのだと、アニアノ氏は言う。
「彼らは銃撃事件が自然に起きたものだと信じていないだけです」とアニアノ氏は語った。
「銃規制を推し進めるために、政府が意図的に子どもたちを殺しているというストーリーなのです」
極右陰謀論者でニュースサイト『InfoWars』を運営するアレックス・ジョーンズ(Alex Jones)氏も、サンディフック小学校の銃乱射事件について、子どもたちは死んでおらず、"被害者役"が使われていたと主張してきたが、近年、被害者遺族から名誉棄損で訴えられ、ジョーンズ氏の法的責任を認める判断が下されている。
アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」のDigital Forensics Research Labのレジデント・フェロー、ジャレド・ホルト(Jared Holt)氏も、5月に銃乱射事件が起きた後、事件を「共和党を悪く見せるための策略」だとして、秋に予定されている中間選挙と結びつけようとするなど、さまざまな"偽旗作戦"の主張が広まっているのを確認したとInsiderに語った。
こうした主張は、信奉者にとって複数の目的を果たしているとホルト氏は言う。悲劇的な事件と信奉者自身のイデオロギーとの間に「認知的距離」を作り出し、人々がすでに信じているかもしれない既存の陰謀論の正当性を確認するのに使われる。
Qアノンを含む多くの極右陰謀論は、国際的なエリートたちの謎に包まれた集団が裏で糸を引いていたり、何かを画策しているという考えを中心に展開されている。"偽旗作戦"の主張はこうしたストーリーにすぐになじんで、陰謀論者たちが信奉者に新たに起きた事件がより大きな陰謀の一部だと信じ込ませる手軽なフレームワークを与えている。
"偽旗"陰謀論のような根拠のない主張が広まった今日、ホルト氏はその広まり方と作られ方に変化が起きていると指摘する。
「少し前まで人々はそうした情報を手に入れるのに、ラジオの司会者や特定のブロガーを頼っていました」とホルト氏は語った。
「現代のインターネットでは、誰でも何でも投稿して注目を集めることも、クラウドソーシングのような形で自説を展開することもできます」
ネット上の陰謀論のコミュニティーは今、互いの主張を拡大解釈し、自身の考えを強化するために、より大きな言説に主張を押し込もうと反射的に行動するようになったとホルト氏は語った。
「こうしたコミュニティーでは、人々がやりとりをしながらリアルタイムでこういったものが出来上がっていく様子を見ることができます」
「こうした陰謀論を信じる人々を結びつける、共同体のような側面があるのです」
(翻訳、編集:山口佳美)