米資産運用大手アライアンス・バーンスタイン(AllianceBernstein)富裕層向け部門の投資戦略責任者は、年内の株式市場好転を予測する。
AllianceBernstein
いま弱気になるのは簡単なことだ。
金利上昇、景気後退入りの懸念、さらにはロシアのウクライナ侵攻が引き金となってほぼすべての資産クラスで相場が下落し、2年間続いた強気相場は2022年に入って突如終わりを迎えた。
しかし、米資産運用大手アライアンス・バーンスタインの富裕層向け部門、プライベート・ウェルス・マネジメントのアレクサンダー・チャロフは、これ以上の大幅株価下落は起きないと強調する。
「いまはリプライシング(価格調整)の真っ最中ですから、楽観的に割り切って買いに打って出るというわけにはいきません。とは言え、収益性の高い銘柄が少なからず魅力的な価格で取引されているのは確かです」
運用残高7350億ドルを誇るアライアンス・バーンスタインの富裕層向け部門(運用残高1200億ドル)でシニアバイスプレジデント兼投資戦略(共同)責任者を務めるチャロフは、クライアントのプロファイルを「富裕であり続けたい」人々と表現する。
「多額の純資産を持つ富裕層の投資家がいま知りたがっているのは、他の投資家とまったく同じこと。つまり、足もとの弱気相場はいつ終わるのか、どこまで悪くなるのかということです」
チャロフの予測によれば、2022年末までに株価が完全に年初の水準を回復すると期待するのはさすがに無理筋としても、(米国大型株の動向を示す)S&P500種株価指数が反転して上昇に向かい、年末までにマイナス1ケタ台まで戻すところまでは想定されるという。
「2022年末はマイナス圏で終わるという予測はきわめて合理的です。ただし、間違いなく底打ちは間近で、これから総崩れに至るよりは、平均的な下げの年になる可能性が高いと私は踏んでいます」
チャロフは、株式市場が上昇に向かう「3つの契機」についてそれぞれ説明してくれた。
【契機1】FRBのハト派転換
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は今後の利上げについて、「明確で納得のいく」インフレ後退を確認できるまで続けるとして、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を大幅に引き上げる可能性を示唆している。
そうした金融政策の不確実性が目下投資家をふり回し続けている。
しかし、チャロフのシナリオでは、FRBは利上げ幅を大方の予想より早く通常の25ベーシスポイント(0.25%ポイント)ペースに戻し、株式市場の暴落を未然に防ぐ展開が想定されている。
「市場の動きを見ると、FRBが金融政策に結論を出せない展開を想定しているように感じられます。しかし、私は違う考えです。
8月は通常通り連邦公開市場委員会(FOMC)は開かれず、9月会合で25ベーシスポイントの利上げを決定するでしょう。そしてそれが株式市場の好転のきっかけになるのです」
【契機2】インフレの後退
FRBが利上げサイクルに着手したのはインフレの抑制が目的だった。しかし、物価上昇にはすでに鈍化の兆候が確認できる。
米労働省が発表した4月の消費者物価指数は前年同月比8.3%上昇で、前月比では0.2ポイントの鈍化を記録した。
インフレのペースが鈍化を続ければ、FRBの金融政策発動は必要なくなり、そうなれば当然株価にも追い風が吹く。
「当社の分析では、インフレはすでにピークをすぎ、物価は低下に向かっています。5月、6月とインフレ率の低下が確認できれば、それも株価上昇のきっかけになるでしょう」
【契機3】求人件数の減少
最近の労働市場では「永遠の退職時代(Forever Resignation)」と呼ばれる現象が確認され、求人件数が1000万件を超える状態が続いている。
求人件数と就労可能な労働者数の間にギャップがあると賃金への上昇圧力が生じ、それがインフレを押し上げ、企業の利益を食いつぶすことになる。
チャロフによれば、このギャップが縮小しない限り、株価は上昇に向かわない。
投資アナリストの多くは金利やインフレにばかり目を向け、労働市場が経済にもたらす影響を十分に考慮していないとチャロフは批判する。
「求人件数が減少すれば、インフレは抑制され、株式市場にとっては上昇への起爆剤になり得るでしょう。
しかし、現実には人を採用するのが本当に難しい実情があります。これはアメリカ経済全般にとって『炭鉱のカナリア』(=危険を知らせる前兆)と言えるかもしれません」
(翻訳・編集:川村力)