スタートアップへの投資環境が冷え込むなか、VC界の大御所ベン・ホロウィッツは「我々は今もバケーション中ではない」と気を吐くが……。
Business Insider
難局にある株式市場がついにシリコンバレーをとらえた。シリコンバレーのディールメイキングの大半、特にレイターステージのそれがほとんど停止していると、この1週間に複数のベンチャー投資家がInsiderに語った。
しかし、アンドリーセン・ホロウィッツ(略称a16z)の共同創業者であるベン・ホロウィッツは、同社によるスタートアップへの投資は減速していないと言う。
「価格の変化や周囲の状況は認識していますが、我々は今もバケーション中ではありません」とホロウィッツはInsiderに語る。「ペースをしっかり保っています」
「質の高い取引が少なくなっている」
PitchBookのデータによると、a16zは5月、Belong(ビロング)やDeel(ディール)といったスタートアップのレイターステージ投資ラウンド7件を含む、計21件のディールを発表した。このペースは前年同月の21件(うちレイターステージ8件)とほとんど変わらない。
資金調達の発表は数カ月前のディールであるためかなりの遅行指標ではあるが、ホロウィッツが言うにはa16zはまだ通常通り活動しているという。
「何も止めていませんよ。45億ドル(約5850億円、1ドル=130円換算)の暗号資産ファンドに投資したところです。ずっと投資を続けていますし、イーロン(・マスク)のTwitter買収にだって投資しました」
ホロウィッツが言っているのは、a16zが5月、イーロン・マスクによるTwitter買収案件に対し4億ドル(約520億円)を投資した件だ。この買収が実現する可能性は、との質問にはコメントを差し控えた。
a16zは、ゲーミング関連スタートアップへの投資に特化した6億ドル(約780億円)規模のファンドも始動させたところだ。2022年1月には、合計で90億ドル(約1兆1700億円)規模となる3つの新しいファンドも発表している。
他社が後退しバリュエーションが軟化するなか、a16zはここ数週間で投資のペースを加速していると、匿名を条件に取材に応じた同社の投資家のA氏は明かす。
しかしこの人物は、最近では「質の高い取引が少なく」なっているとも言う。最もホットな成長ステージにあるスタートアップの大半は昨年に資金調達しており、まだ潤沢な資金があるからだ。
開店休業状態のVCも
a16zの活動は、レイターステージのディールで競り合ってきたライバル企業とは対照的だ。
成長ステージに投資するベンチャーキャピタル(VC)に所属し、匿名で取材に応じた2人の人物は、ほとんどやることがないので長い夏休みを計画しているところだ、と話す。
VC、銀行家、起業家たちを対象に毎年カリフォルニア州サンタモニカで開かれる「モンゴメリーサミット(Montgomery Summit)」が先ごろ行われたが、参加した3人の人物に話を聞いたところ、成立したディールは全てのステージにおいて非常に少なかったという。同サミットは毎年数多くのディールが成立する場として知られるだけに、今回の事態は異例のことだ。
コーチュー(Coatue)、D1キャピタル・パートナーズ(D1 Capital Partners)、タイガー・グローバル(Tiger Global)、ソフトバンクグループなど、数十億ドル規模でクロスオーバー投資(訳注:上場企業と未上場企業の両方に投資すること)を行う企業はどこも公開市場で打撃を受けており、ベンチャー投資への関心が冷え込んでいると、複数のベンチャーキャピタリストが口をそろえる。これは、記録的な額の資金がスタートアップに投入された2021年とは好対照だ。
「昨年(2021年)と比較すると、新規の投資は半分か、4分の1程度かもしれない」。ソフトバンクグループの孫正義氏は5月、同社のビジョン・ファンド(SVF)が260億ドル(約3兆3800億円)の損失を計上した後に開催された投資家向け説明会で述べた。
大規模なクロスオーバーファンドがスタートアップ投資から後退していることは、a16zにとって「諸刃の剣」だと、前出のA氏は言う。
a16zより自由度高く出資することで知られる企業と競争しなくていい半面、a16zがアーリーステージで投資したスタートアップに資金を投入する体力のある投資家は、もういないということでもあるからだ。
(編集・常盤亜由子)