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Twitter上のブラックロック(BlackRock)のフィードは他の投資会社のものと変わらず、投資に関する会話形式の投稿や告知を52万人のフォロワーに共有している。しかし、最近のあるツイートは普段よりも大きな反響を呼んだ。
「当社は一戸建てを買い漁る機関投資家ではありません」と同社は2022年5月10日にTwitterへ投稿した。2021年、ブラックロックを「隣人の家を買う悪徳機関投資家」と位置づけた報道とツイートが大拡散され、右派の論客の間で大炎上した。今回の投稿は、これらの報道とツイートへの反論である。
「現在、多くの大手資産運用会社やプライベート・エクイティ・ファームが一戸建て住宅の購入に非常に積極的です。ブラックロックは時々そのような企業と混同されることがあります」と投稿し、ブラックロックが多世帯住宅や集合住宅に投資していることを説明した。
ブラックロックは、競合他社の名前を出さずに、自分たちは不動産投資とプライベート・エクイティの大手であるブラックストーン(Blackstone)ではないということをうまく人々に伝えた。
しかし、両社の間には長い歴史がある。 ブラックロックのCEOであるラリー・フィンク(Larry Fink)は、1980年代にブラックストーンCEOのスティーブ・シュワルツマン(Steve Schwarzman)の支援を受け、ブラックロックという社名にたどり着いている。つまり、フィンクは創業初期の資本をブラックストーンから得ているのだ。
1年前なら、ブラックロックはこのような情報拡散に対して、「ソーシャルメディア上で反応することなど考えもしなかっただろう」と、Insiderの取材に応じた資産運用会社のコンテンツ・メディア担当グローバルヘッド、リッチ・ラトゥール(Rich Latour)は語った。
「しかし今は、記録を訂正する必要があるほど深刻で、不正確なストーリーが投稿されていたら組織的に対応するようにしています。少なくともSNS上では」
ブラックロックのコンテンツとメディアのグローバル責任者であるリッチ・ラトゥールは、ゴールドマン・サックスを経て2019年に入社した。
BlackRock
ブラックロックがソーシャルメディア上で存在感を高めているのは、時代の流れである。銀行や資産運用会社がコンテンツマーケティングやメディア戦略を以前よりも積極的に行うようになったのは、あふれ返る情報や企業が好まないニュースの見出しをはねのけ、投資家に直接アプローチするためである。そして、その取り組みのために元報道記者を何人か雇い入れている。
ゴールドマン・サックスのデジタルコンテンツとメディアを担当していたラトゥールは3年前、ブラックロックに入社した。ゴールドマンの前は、NBCニュース(NBC News)とCNBCでも長年ジャーナリストとして働き、20年近くプロデューサーを務めていた。
「NBCニュースにいたとき、今の私の仕事は存在しませんでした」とラトゥールは語る。
「当時は企業が本気でコンテンツの責任者を雇うということはありませんでした。戦略やSNSのアカウントは持っていましたが、この分野が成熟してきたのはここ数年です。今はどの企業も独自のメディア企業になりたがっています。どの企業も、自らのメッセージとストーリーをコントロールしたいと望んでいるのです」
ブラックロックとTikTok
ラトゥールのチームは、ブラックロックのマーケティング部門の傘下にあり、6人のスタッフが動画や投稿のアイデアを出し、台本を書き、コミュニケーションや法務などその他のチームと連携して制作を行っている。ラトゥールは、2人の暫定的なマーケティング共同責任者のもとで働いている。前チーフ・マーケティング・オフィサーのフランク・クーパー(Frank Cooper)は、今年初めにビザ(Visa)に転職している。
ブラックロックがTikTok、LinkedIn、Twitterに投稿しているのは、他のウォール街の企業と同じように、「モノを売る」という最終目的を持っているためだ。しかし、ブラックロックのマーケティング手法は、ある意味、競合他社のものとは異なっている。
ブラックロックは、顧客に代わって10兆ドル(約1330億円、1ドル=133円換算)近くを運用する世界最大のマネーマネジャーである。他の追随を許さない規模のファンドを持ち、各社の取締役会でも株主の権利を積極的に行使している。
同社のフィンクCEOは有名で、直接競合するフィデリティ(Fidelity)やバンガード(Vanguard)といった資産運用会社のCEOよりもはるかに目立つ存在だ。これら競合2社も同じく非公開企業ではあるが、一般への情報提供をあまり行っていない。 フィンクは、自分は「Woke(社会問題への意識が高い)ではない」と明言しているものの、持続可能な投資とステークホルダー資本主義的な発言から、近年、その方針をめぐって民主党と共和党両方の議員から批判を受けている。
「ブラックロックは非常に複雑な組織です」とラトゥールは語る。 「実際に調査をしてみて、ブラックロックは何だかよく分からないがいろいろやっているなと思われていることも承知しています」
ブラックロックは、新しい世代の投資家にアプローチするために、TikTokを活用している。陰謀論が山火事のように広がりやすいプラットフォームではあるが、ここへの動画投稿は、情報に基づいた批判と、同社の活動に関する不正確な情報を混同しているユーザーに対抗する手段としては意味がある。
例えば、3月に公開されたブラックロックの影響力に関する動画はこんな具合だ。現在640万回再生されているこの動画では、おどろおどろしい音楽が流れ、男がカメラに向かって「混乱と恐怖が押し寄せます。覚悟してください」と語る。キャプションには「あなたの生活と政府をコントロールする随一の企業」。
ブラックロックが運営するファンドが、S&P500構成銘柄でかなりの株式保有比率を占めていることや、バイデン政権の有力ポストに元幹部がいることは事実である。とはいえ、その株を保有しているのは究極的にはブラックロックの顧客だ(ブラックロックが人々の生活や政府をコントロールしている、というのは正しくない)。
ブラックロックの動画は、基本的に投資初心者を対象としている。最も視聴回数の多い動画では、ブラックロックの社員が初任給の使い道について話している。ラトゥールによると、彼のチームは現在インフルエンサーと組んでいないが、将来的に可能性はあるという。広報担当者は、ラトゥールのチームの予算規模については明らかにしなかったが、「このチームがTikTokのようなプラットフォームで実験をすることは上層部も承認済み」と述べ、同社にとってソーシャルメディアが優先事項であることを明らかにした。
「次世代の投資家はお金や消費、投資との関わり方、態度、行動がこれまでの世代とは明らかに異なっています。我々は、彼らに届くようなコンテンツを作ることに注力しています」とラトゥールは語った。
(編集・大門小百合)