2016年、初めての洋上試験を行うズムウォルト級ミサイル駆逐艦。ズムウォルト級は、アメリカ海軍史上最大の駆逐艦だ。
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- USSズムウォルトは世界最大の駆逐艦だ。
- アメリカ海軍のズムウォルト級ミサイル駆逐艦は同型艦が3隻あり、研究開発費として約224億ドル(約3兆円)が投じられた。
- しかし、ある専門家は、莫大な費用がかかったにもかかわらず、ズムウォルト級は「コンセプトを間違った駆逐艦」だと述べている。
駆逐艦として最大のズムウォルト級ミサイル駆逐艦には、同型艦が3隻あり、1番艦となるのがUSSズムウォルトだ
2016年4月20日、試験のために出港するミサイル駆逐艦USSズムウォルト。
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USSズムウォルトは、史上最年少で海軍作戦部長に任命されたエルモ・ズムウォルト(Elmo Zumwalt)大将にちなんで命名された。同艦はミサイル駆逐艦であり、対空戦の際にアメリカ海軍の艦隊を支援することを主な目的としている。
同艦は2008年10月に建造が開始され、2013年10月に進水し、2016年10月に就役した。
ズムウォルト級ミサイル駆逐艦には、他にもUSSマイケル・モンスーアとUSSリンドン・B・ジョンソンという同型艦がある。
3隻のズムウォルト級ミサイル駆逐艦のうち、1番艦であるUSSズムウォルトの建造費は44億ドルで、当時の海軍で最も高価な駆逐艦となった
2012年、クレーンで持ち上げられ、所定の場所に移される重量1000トンに及ぶUSSズムウォルトのデッキハウス(艦橋にあたる上部構造)。
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AP通信によると、同艦の建造費は、アメリカ海軍有数の強力な艦艇であるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の2倍だという。
ブルームバーグはズムウォルト級ミサイル駆逐艦3隻の研究開発費として約224億ドルが投じられたと報じている。USSズムウォルトを建造したバス鉄工所(Bath Iron Works)の親会社であるゼネラル・ダイナミクス(General Dynamics)は、この巨大艦を建造するためだけに4000万ドルをかけて施設を建設した。
USSズムウォルトは世界最大級の水上戦闘艦だ
2016年10月13日、ボルチモアに停泊するUSSズムウォルト。
Mark Wilson/Getty Images
ズムウォルト級の船首は「ナイフのように」なっていることで、他の駆逐艦や巡洋艦などの水上戦闘艦よりも、激しい海での安定性が高いとDefense Newsは報じている。
Naval Technologyによると、ズムウォルト級は全長183メートルで、収容人員は158人。最大速力は30ノット、満載排水量は1万4564ロングトン(約1万6000トン)だ。
AeroWebによると、ズムウォルト級はロールス・ロイス(Rolls-Royce)のMT30ガスタービンとRR4500タービン発電機で駆動する
2016年10月13日、ボルチモアに停泊するUSSズムウォルトの後部デッキ。
Mark Wilson/Getty Images
アメリカインド太平洋軍の公式サイトによると、ズムウォルト級の出力は約78メガワットで、原子力空母の出力に匹敵するという。
Naval Newsによると、ズムウォルト級は多機能レーダーなどのセンサーや、80セルの先進垂直発射システムを搭載している。
しかし、ズムウォルト級は問題を抱えてきた
2015年、ラム島レッジ灯台を通過してポートランド港に向かうUSSズムウォルト。
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莫大な費用をかけて建造されたズムウォルト級だが、機材のトラブルに悩まされてきた。1番艦のUSSズムウォルトは2016年の就役直後、パナマ運河で故障した。2番艦のUSSマイケル・モンスーアは、2017年の海上試運転に失敗した。
ズムウォルト級は「武器の機能低下、エンスト、ステルス性の低下などの欠点に悩まされていた」とMilitary Watch Magazineが2018年に報じている。
さらに同誌は「ズムウォルト級は多目的駆逐艦という当初意図した役割をほとんど果たしていない。仮に意図したとおりに機能したとしても、コストがあまりにも超過しており、それだけでも計画の実行可能性には疑問が残る」とも指摘している。
ズムウォルト級には、対艦ミサイル、対潜魚雷、長距離対空ミサイルなど、いくつかの重要な機能が欠けていると、軍事専門家のセバスチャン・ロブリン(Sebastian Roblin)が2021年のNational Interestへの寄稿文に記している。ロブリンは、ズムウォルト級を「野心的だが、コンセプトを間違った駆逐艦」と呼んでいる。
ロブリンはさらに、搭載された兵器も安くはなかったと指摘する。同艦は、精密誘導弾「長距離対地攻撃砲弾(LRLAP)」が使用できる155mm AGS(先進砲システム)を搭載しているが、LRLAPは1発約80万ドルで、巡航ミサイルとほぼ同じ値段だ。あまりにも高価であるため、生産する価値がないと判断されて、生産が見送られた。
ロブリンによると、ズムウォルト級は最小限のコストを積み上げた「非現実的な」見積もりに基づいて製造されたため、予算を50%も超過してしまったという。
2018年、アメリカ海軍はズムウォルト級を原子力戦艦として再利用することを検討
2015年、メイン州ポートランド港で停泊中のUSSズムウォルトに、物資などが積み込まれている。
Gabe Souza/Portland Portland Press Herald via Getty Images
ズムウォルト級のパフォーマンスが期待外れだったため、海軍は同艦に何ができるのか、その可能性についてさまざまな検討を行った。そのときのアイデアが、「シップハンター(対艦)専用」として造り変えることだった。つまり「複雑な対空・対潜能力を切り捨て、長距離対艦ミサイルを発射する役割に特化する」ということだと、2018年にMilitary Watchが報じている。
同年、アメリカ戦略軍司令官のジョン・ハイテン(John Hyten)大将は、ズムウォルト級に核巡航ミサイルを装備する可能性を提起した。
しかし2022年初旬、海軍は2025年までに同艦に極超音速ミサイルを搭載することを決定したとUSNI Newsが報じている。Military+Aerospace Electronicsによると、ロッキード・マーティン(Lockheed Martin)がこのミサイルを同艦に組み込むことになるという。
海軍作戦部長のマイク・ギルデー(Mike Gilday)大将は、2021年2月にBreaking Defenseに対して、ズムウォルト級が極超音速技術を初めてテストする艦艇になるだろうと語っている。
「我々が重視しているのは、そのシステムをズムウォルト級で実践することだ。そうすることでその有効性を証明し、迅速に実用化し、さらに規模拡大を図ることができる」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)