土屋鞄が「リユース事業」に本格参入。“お古”を仕立て直す職人の舞台裏

土屋鞄

土屋鞄が、使い古された自社製品を直して再販売する事業に乗り出す ── 。修理が行われる工房を見学した。

撮影:西山里緒 / 山﨑拓実

ランドセルの製造・販売で知られる土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)は2022年6月から、古くなった同社のかばんを引き取り、修理して再販売する「リユース」事業に本格的に乗り出している。

修理には長年取り組んできたという土屋鞄が、ここにきて再販売(リユース)事業を始めた理由とはなんなのか。そのきっかけを、リユース事業を統括する同社コミュニケーション本部 CRAFTCRAFTS部 部長の笹田知裕さんに聞いた。

3年以上、使い込まれたかばんが7割

動画:Business Insider Japan

「土屋鞄がいかに長く使われているかはすでに知っていたんです。その上で、どう事業にしていくか、と考えながら(リユースを)着想していきました」

笹田さんによるとそもそものきっかけは、土屋鞄が創業当初から手がけていたかばんの修理(リペア)事業だった。部位によって価格は変わるが、ファスナー交換で1万円前後、内装交換で2万5000円前後などで請け負っている。

土屋鞄には年間で約3000点の大人向けかばんが修理のために持ち込まれるが、その約7割が3年以上も使い込まれたものだという。

土屋鞄

こちらが修理前のかばん。取っ手のところに擦れがあるものも。

撮影:西山里緒

メルカリなどのフリマアプリを介した二次流通市場が人気となる中、自社でも修理だけではなく、かばんの「手放し方」にも関われないかと考え始めたのが2019年頃だった。

ビジネスとして成立するかどうかを一から考え直し、後述する「サステナブル事業」全体に力を入れていくことも見込んで、計画が定まっていった。

「当時はまだアップサイクルやSDGsという言葉は今ほど広まっていなかったのですが、この数年でそういうワードがどんどん出てきて。(今までやってきたことも含めて)時流に乗せて改めて打ち出せれば、と」

そうして「リユース」だけではなく、すでに手がけている二つの事業(壊れたカバンを修理する「リペア」と古いランドセルなどを新しい商品に生まれ変わらせる「リメイク」)とを合わせ、サステナブル事業として2026年までに5億円の売上高を目指す、と決まった。

実際に修理を手がけている西新井の工房も見学させてもらった。

土屋鞄

修理専門の職人、福田安宏さん。ほとんどのかばんの修理には福田さんの手が入っているという。

撮影:西山里緒

独特の油の匂いが漂う工房内では、機械音に囲まれながら職人の方々が黙々と作業にあたっている。

話を聞いた福田安宏さんは修理(リペア)専門の職人で、土屋鞄で働いて20年にもなるベテランだ。持ち込まれるかばんのほとんどには、福田さんの手が入っているという。

「(リペア事業では)お客さんの反応がダイレクトに来る。『亡くなった妻の形見なんです。なんとかなりませんか?』というお問い合わせも最近はありますね。ミスはあってはならないので、すごく重い責任を感じます」(福田さん)

リユース持ち込みが「目標の5倍」、20代前半の“土屋鞄デビュー組”も

ポップアップショップ

2021年11月〜12月に開催した、リユース製品ポップアップストアの様子。

提供:土屋鞄製造所

2021年11月には、リユース品を販売する期間限定のポップアップストアを東京・中目黒に打ち出した。同年10月、使われなくなったかばんを募集した際は、当初の目標100点ほどに対して持ち込まれた数は580点になった。

「事前にアンケートを取っていたので、ある程度は予想していたとはいえ、想定以上でした。驚きでしかなかったですね」(笹田さん)

ポップアップは4週間にわたって開催された。価格は定価の75%から50%と割安であるため、20代から30代の購入者が目立ち「土屋鞄デビュー」だと話した学生も複数名いた、と笹田さんは明かす。

土屋鞄

土屋鞄製造所 コミュニケーション本部 CRAFTCRAFTS部 部長の笹田知裕さん。リユース事業ならではの緊張感があると話す。

オンライン取材よりキャプチャ

笹田さんがフリマアプリにはない強みとして指摘するのが、正規で購入したことを示す認定証(プロダクトレコード)だ。そこにはかばんの製品名と元々の販売時期、手直し内容などが記載されている。

フリマアプリで買うとどんな状態だかわからないし返品もできない。でも定価で買うには高い……という声を、まさに店頭で聞きました」(笹田さん)

ポップアップには、引き取ってもらったかばんがどうなったか見に来た、という「提供した側」の人もいたという。

「ドキドキしていたんですが、こんなにきれいにしてくれてありがとう、と言っていただきました。(リユース事業ならではの)緊張感がありましたね(笑)」(笹田さん)

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