マイクロソフト(Microsoft)の複合現実(MR)ヘッドセット「ホロレンズ(Hololenz)」共同開発者のアレックス・キップマン。2019年2月にスペイン・バルセロナで開催された「モバイル・ワールド・コングレス」登壇時。
REUTERS/Sergio Perez
米陸軍の訓練システム向けにも採用されているマイクロソフト(Microsoft)の複合現実(MR)端末「ホロレンズ(HoloLens)」の共同開発者アレックス・キップマンが同社を去る。
Insiderは最近の記事(5月25日付)で、キップマンの女性従業員に対する不適切な振る舞いについて報じたばかりだ。
内情に詳しい関係者によれば、キップマンは6月7日、直属の上司であるエグゼクティブバイスプレジデント(クラウド+人工知能担当)のスコット・ガスリーに退社する考えを伝えたという。
別の関係者によれば、ガスリーの率いる部門は組織再編を計画しており、その移行期間中はキップマンも留任する模様だ。
ガスリーが組織改編について社内に情報共有するメールを送信したのは、Insiderがキップマンの不適切な振る舞いについて報じた直後のこと。同じメールのなかでガスリーは、キップマンが退社して「他の機会を追い求める」意思を示していることにも触れている。
Insiderが確認したガスリーの社内メールには次のように書かれていた。
「ここ数カ月、(テクニカルフェローの)アレックス・キップマンと私はクラウド+人工知能部門が今後進むべき道について議論をくり返してきました。そして、アレックスが会社を離れて他の機会を追い求めるなら、いまこそまさにそのタイミングであるとの考えで一致したのです。
アレックスが長年にわたってマイクロソフトに提供してきた壮大なビジョン、さらに近年ではメタバース関連プロダクトを発展させるためにアレックスが行ってきたすべての努力に、私は心から感謝しています。
アレックスは次の挑戦に取りかかる前に、私たちの部門で今後2カ月かけて実施する組織改編と移行をサポートし、成功に導いてくれることを約束してくれています」
同メールの記載によれば、ホロレンズの開発を担当する複合現実(MR)ハードウェアチームは、エグゼクティブバイスプレジデント兼最高プロダクト責任者のパノス・パネイ率いるウィンドウズ+デバイス部門に統合。
一方、MRコラボレーションプラットフォーム「メッシュ(Mesh)」などの開発を担当するソフトウェアチームは、バイスプレジデント(Microsoft 365、Teams、OneDrive担当)率いるエクスペリエンス+デバイス部門に統合される模様だ。
キップマンについては、女性従業員に対して「望まない接触」を含む不適切な行為をくり返しながら特に咎(とが)められることがなかったと、複数の現役従業員および元従業員が証言している。
Insiderは前出の記事(5月25日付)を公開する前にキップマン本人にコメントを求めたが、返答は得られなかった。6月7日にも再度コメントを求めたがまだ返答は得られていない。
不適切な行為の例としては、オフィスで従業員が目の前にいるにもかかわらず、猥褻(わいせつ)な仮想現実(VR)動画をキップマンが見ていたことを、その場にいた人物が証言している。
動画には、露出度の高い衣装をまとった女性たちがベッドの上であからさまに性的な意味合いを感じる枕投げに戯(たわむ)れている様子が映っていた。その場にいた別の従業員は後日Insiderの取材に応じ、その場面について「VRポルノ」と表現した。
Insiderが取材した数十人におよぶ現役および元従業員たちは、暴言やセクハラなどマイクロソフトの経営幹部による職権乱用とも言える不適切な行為はくり返し起きていて、キップマンの振る舞いは「よくある」パターンのひとつにすぎないと口を揃えた。
マイクロソフトは、キップマンに対する従業員からの個々の申し立てについて肯定も否定も拒んでおり、前出のInsider記事の内容については次のようにコメントしている。
「従業員から申し立てのあった事実についてはすべて社内調査が行われ、事実であると判明した申し立てに対しては明確な対応をとることになります。
懲戒処分の内容は、解雇から降格、給与および賞与の減額、けん責、強制的な(ハラスメント)防止トレーニング、コーチング、あるいはそれらの組み合わせまで多岐にわたります」
キップマンと直接の共同作業経験のある元経営幹部は、彼が女性の同僚に対して不適切な振る舞いをするのを一度ならず目撃したと語る。
同経営幹部の挙げた具体例によれば、キップマンがある女性従業員の肩をなで、その女性が「露骨に不快な表情を浮かべ」肩をすくめてはっきりと止めさせようとしたにもかかわらず、「断固としてなで続けた」ことがあったという。
「誰も止めようがない」(同経営幹部)キップマンのそうした行為に対し、マイクロソフトのマネジャーたちは、キップマンのそばでは女性をひとりきりにしないよう従業員に指示(警告)を出していたという。このことは、実際にその指示を聞いた3人の現役および元従業員がInsiderに証言している。
問題はそれで終わらなかった。キップマンの不適切な行為を実際に経験して耐えかねた25人以上の従業員がそれぞれの苦しんだ体験談を語り、その内容がキップマンに関する報告書としてまとめられたという。このことも、体験談を語ったひとりがInsiderに証言してくれた。
キップマンとかなり近い立場で働いたことのある元経営幹部(前出の人物とは別)は、キップマン本人以上に有害な存在が出現したことで彼の不適切行為にようやく歯止めがかかったと嘆息する。
「残念ながら、一番の救いはパンデミックでした。おかげで私たちはキップマンと対面で直接のやり取りをする必要がなくなったからです」
(翻訳・編集:川村力)