デロイトの調査では、働く女性の6割が「メンタルの調子が悪い」と回答し、燃え尽きたと感じている女性は5割に上った。
Shutterstock / SasinTipchai
リモートワークの導入が進む中、職場で「排除されたことがある」と感じる女性が増えている。
しかもその多くは報告されておらず、見過ごされている可能性が高い。その結果、「メンタルヘルスの状態が悪い」と感じる日本の女性は6割にも上った。
多くの企業が今や認めるようになった働く場所や時間の柔軟さは、本当に職場の女性のためになっているのか。
無自覚な差別が増加…トップは「男性中心の場から排除」
日本の女性はグローバルと比較しても、メンタルに不調を抱える人の割合が高い。
出所:2022 DELOITTE WOMEN @ WORK REPORT
働く日本女性の大半が今、メンタルに不調を抱えている。
このデータは、デロイトトーマツグループが6月9日に発表した調査「Women @ Work 2022: A Global Outlook」の日本版レポートで明らかになった。
同調査は2021年11月から2022年2月にかけて、世界10カ国(日本、オーストラリア、カナダ、中国、ドイツ、インド、南アフリカ、イギリス、アメリカ)の働く女性5000人を対象に実施された。日本では500人が調査に参加した。
調査の結果、メンタルの調子が悪いと回答した女性は約6割(57%)、燃え尽きたと感じている女性は5割(50%)に上った。
ハラスメントやマイクロアグレッション(無自覚な差別)の経験率がここ1年で急増している。
出所:2022 DELOITTE WOMEN @ WORK REPORT
注目すべきは、この1年に、差別的な行動(ハラスメントやマイクロアグレッション※)などによって、職場で排除されたと感じた女性の割合が急増していることだ。日本においては、2021年の45%から64%と、実に19ポイントも増加している(グローバルでは52%から59%に増加)。
※マイクロアグレッション……特定の属性の人に対し、無自覚に相手を傷つける日常的な言動。
そうした言動のトップは「男性中心になりがちな場に呼ばれない」。続いて「インフォーマルなやりとりや会話から排除される」「男性の同僚に比べ、会議の場で発言する機会が少ない」が同率2位だった。
「無自覚な差別」報告しない女性が7割
上司が男性ばかりだと、差別を報告をしても受け止めてもらえるのかわからない不安から、報告がされないケースもあるという。
撮影:今村拓馬
コロナ禍を契機に働き方の多様化は進んでいるはずなのに、なぜ排除されたと感じる女性が増えているのか。
デロイトトーマツグループ マネジャー DEI(Diversity, Equity & Inclusion)担当の高畑有未さんは、そもそも管理職には男性が多いため女性はマイノリティになりやすいという前提を挙げ、その上でリモートワークの導入によって、知らず知らずのうちに女性が阻害される状況が増えているのでは、と指摘する。
「古い言葉だと『タバコ部屋コミュニケーション』のような、会議後の数分間の立ち話などが重要な情報やネットワークをもたらすことはよくあります。(リモートと出社の)ハイブリッド型の会社では、出社している人との間の機会格差が生まれやすいのです」
実際、「無自覚な差別」は、こうした「ハイブリッド型」の会社でとりわけ起きやすく、7割の女性がマイクロアグレッションを経験している。その一方で、完全出社型、完全リモート型の会社では経験の割合はそれぞれ4割、3割にとどまる。
マイクロアグレッション(無自覚な差別)の経験率は、ハイブリッド型の企業で多い。
出所:2022 DELOITTE WOMEN @ WORK REPORT
厄介なことは、こうした差別の体験はしばしば報告されないということだ。調査では女性の7割が「マイクロアグレッションを報告しなかった」と回答している。
その理由のトップ3は「報告するほど深刻な行動とは感じなかった」「訴えが真剣に受け止められると思わなかった」「恥ずかしかった」。
女性の燃え尽き、風土変える努力を
こうした問題についても高畑さんは、管理職の多くが男性であるために、差別を「報告しづらい」という構造的な問題があるのでは、と分析する。
「上司が男性ばかりだと、報告をしてもちゃんと受け止めてもらえないのではないかと、女性側の心理的なハードルが上がってしまう可能性があります」
高畑さんは、前出の「5割の女性が燃え尽き症候群」というショッキングなデータは、多様な要因が絡み合って生まれた結果なのでは、と指摘する。
そして、多くの企業が時短勤務やリモートワークなどの制度を導入する中で、「制度を導入しただけでは不十分」だと警鐘を鳴らす。
「たとえ(制度として)時短勤務を導入しても、業務量が変わらなければ結局サービス残業になってしまう。制度がインクルーシブな形で機能しているかの風土面もきちんとケアする必要があります」
(取材・文、西山里緒)