気候変動でマダニによるウイルス性疾患が増加中…インフルエンザに似た症状から致死的な出血熱まで

シカクマダニのメス成虫(右)、イヌマダニ(中央)、ローンスターマダニ(左)。

シカダニ(右)、イヌダニ(中央)、ローンスターダニ(左)のメスの成虫。

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  • 気候変動と人口増加により、ここ数十年で人間とマダニの関係ははより密接になっている。
  • 技術の進歩により、マダニが媒介する新しいウイルスや細菌が特定できるようになった。
  • 外来種が新たな病気をもたらしたり、その地域のウイルス拡散に影響を与えたりすることもある。

マダニに噛まれることで人に感染するウイルスやバクテリアは多数存在しているが、最近まで、マダニが媒介する新しい病原体を検出して同定するための手法が確立されていなかった。

ワシントン大学セントルイス校の分子微生物学教授であるデイビッド・ワン(David Wang)を始めとする研究者は、技術の向上と科学的探究心に導かれ、病気の原因となる新たな物質を研究するようになった。

ワンによると、新たな疾患は必ずしも自然界に新たに出現したものではないが、ゲノム解読技術によって、既知のウイルスや細菌と科学的にまだ記録されたことのないものを区別できるようになったという。

アメリカでは疾病予防管理センター(CDC)に送られた感染者のサンプルを検査した結果、2009年以降に少なくとも2種類の新しいマダニ媒介性ウイルスが発見された。

「マダニや他の昆虫の媒介により感染するウイルスやその他の病原体は、おそらくもっとたくさんある」とワンは言う。

「原因不明の発熱をする人がたくさんいるが、おそらくその多くは何らかのウイルスが原因だろう」

アメリカ中西部で発見された2種類の新しいマダニ媒介性ウイルス

マダニが媒介する病気の多くは、発熱、倦怠感、体の痛みといったインフルエンザに似た症状が現れる。未確認のウイルスや細菌が感染症を引き起こしたとしても、その症状はありふれたものであるため、原因の特定は難しいとワンは言う。

2009年にミズーリ州西部で初めて確認された「ハートランドウイルス」がそうだった。2人の患者がありふれたマダニ媒介感染症で治療を受けたが、良くならなかったため、医師が血液サンプルを研究所に送ったところ、新型ウイルスが発見され、ハートランドウイルスと名付けられた。

ハートランドウイルスによる感染症の発生は、他の感染症よりもまれだが、このウイルスが発見されて以来、アメリカ中西部の科学者たちは、症例の発生に目を光らせてきた。CDCに報告された重度のハートランドウイルス感染症は50件以上あり、その検査の過程で、別のウイルスも発見された。

それが「バーボンウイルス」であり、2014年にカンザス州バーボン郡で初めて確認され、ハートランドと似た症状を示していた。CDCによると、感染者の中には死亡した人もいるという。どちらのウイルスも媒介しているのはローンスターダニで、近年アメリカ南東部から東部の半分にまで生息域を広げている。

エモリー大学でベクター媒介性感染症を研究しているゴンザロ・バスケス-プロコペック(Gonzalo Vazquez-Prokopec)准教授は、このマダニは気温の上昇に伴って北上しており、カナダでも目撃されるようになったとInsiderに語っている。

気候変動はマダニの地理的・季節的分布に影響を与えるだけでなく、マダニのテリトリーが人間に近づくことにも影響している。CDCが2016年に発表した報告書によると、暖冬化と人口増加が進むにつれ、人間とマダニが接触する機会が多くなり、それが新しい病気が見つかることの一因にもなっているようだ。

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