UTA/Vox Media
メタバースとはつまるところ何なのか。この問いに答えることは、多くの人には難しいかもしれない。
しかし、米大手エージェンシー会社のユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)とメディア会社ヴォックスメディア(Vox Media)が共同で行った最新の調査によると、ほとんどの人はファッションなど何らかの形ですでに没入体験をしたことがあり、10人中9人近くが好きなセレブが関わるメタバースを訪れたいと回答している。
2022年5月に13〜60歳のインターネットユーザー4000人以上を対象に行われたこの調査では、回答者の約半数がメタバースについて「全く知らない」と答えたものの、13〜56歳の68%、Z世代の88%が「Fortnite(フォートナイト)」やRoblox(ロブロックス)といったオンラインゲームを通してメタバースの没入感を体験したことがあると分かった。
これは、メタバースをビジネスチャンスとして捉えているエンタメ業界にとっては朗報だ。
ここ最近、仮想通貨は低迷しているものの、メタバースを活用する企業は増え続けている。ハリウッドもすでにメタバースとWeb3の活用を本格的に検討し始めているし、大手どころのタレントエージェンシーはたいていデジタル・Web3担当者を置いている。ウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)も2022年2月にメタバース事業を率いる責任者を任命し、そのメンバーとしてアップルのゲーム事業から幹部を引き抜いた。
著名人が立ち上げるメタバースへの関心度を調査。
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メタバース懐疑論者が思っている以上に、一般の人たちは変革を受け入れる準備ができているようだ。回答者の5人に4人は、「芸術や文化、健康やフィットネス、有名人やエンターテインメントに関する体験やコミュニティ形成」のためにメタバースを使いたいと考えている。
しかし、メタバースを大勢の人が集う特殊な場、あるいは異なる世界として語るのは必ずしも正しい解釈ではない、と研究者は指摘する。
UTAで調査業務を担うUTA IQの責任者、ジョー・ケスラー(Joe Kessler)は、Insiderの取材に対してこう語る。
「私たちはメタバースという言葉をよく使いますが、メタバースは本来、コンテンツの中でも自然に振る舞えたり、仮想世界に浸ったりすることを可能にしてくれるような、革新的な技術という意味合いで使われるべきだと思います」と話す。
ほとんどの娯楽で、メタバースの活用によって楽しみが増すと回答。
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今回の調査では、メタバースは、テレビ、映画、本、テレビゲームなど人気シリーズ作品とファンがつながることのできる「理想的な手段」となることが分かった。
調査対象者の40%が、メタバースを通じて自分の好きな映画シリーズの新作イベントに関わってみたいと答えた。この数字は、アニメファン(43%)や漫画・テレビゲームファン(約半数)でさらに高くなっている。
ゲーマーやアニメファンは、自分の興味に関連したメタバース体験に最も高い関心を示している。
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UTAのエンターテインメント&カルチャー・マーケティング部門でシニア・アナリストを務めるシェルビー・ビア(Shelby Bier)は、次のように話す。
「シリーズ作品の知的財産や人材を軸にスケーラブルな体験を提供できる素晴らしいチャンスです。ファンは仮想空間に浸って、やりたかったことを実現できます。エンタメ界のストーリーテリング手法は大きく変わるでしょう」
前出のケスラーは、メディア環境が細分化されるなか、メタバースはエンタメ業界にとって「次のステージ」になると期待し、こう述べる。
「ディズニーのような企業には大きなプレッシャーになります。メディアがますます細分化されれば、視聴者は媒体を簡単に切り替えられてしまいますから。このことは、いまストリーミング配信の乗り換えが増えていることからも分かります。
あらゆる顧客体験において、より質の高い、より深いストーリーテリングを提供しなければというプレッシャーがかかっているはずです」
調査の結果、人々は興味を持ったユニークな事柄をメタバースで追求するだろうと結論づけられた。
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調査によると、回答者は、メタバースを利用したライブイベントに参加することにも大きな関心を示している。64%が遠方の都市のイベント観戦に、46%が出演者やアスリートの目を通してイベントを体験する「拡張」に関心を持っていると回答した。
ヴォックスメディアのインサイト&イノベーション本部長であるエドウィン・ウォン(Edwin Wong)は、ニューロダイバーシティ(発達障害が“病気”や“欠陥”ではなく、脳の多様性だとする考え)の当事者や移動に困難がある人なども、メタバースを通してイベントに参加できるようになると力説する。
「いろいろな人がアクセスできるように、メタバースにおけるユニバーサルデザインのコンセプトを考えていかなければいけません。3000ドルのヘッドセットを購入できる富裕層のためだけに、メタバースを開発しているわけではないのです」
それでも、すべての人がバーチャルリアリティ体験やメタバースの活動に参加する準備ができているとは言い難い。調査対象者の5人に3人は、メタバースよりも他の娯楽に興味があると答えているからだ。
回答者はメタバース体験に前向きである一方、ほとんどの人がメタバースよりも他の娯楽を好むと回答した。
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ビアはこう話す。
「メタバースが従来のメディアに完全に取って代わることはないと思います。紙の本が以前にも増して売れているくらいですからね。
メタバースは、従来の配信サービスのドラマや映画、あるいはテレビ放送のドラマや映画の延長にすぎません。クリエイターがストーリーを語ったり、視聴者とつながったり、ファンを巻き込んだりするための新たな手段なのです」
[原文:These 5 charts reveal what consumers want from entertainment in the metaverse]
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)