イーロン・マスクに物議醸す言動が増えた時は、テスラが窮状に陥っているサイン

イーロン・マスク

Peter Parks/Getty Images; Jenny Chang-Rodriguez/Insider

イーロン・マスクの発言があれこれと世間を騒がせているが、こうした話題に惑わされてはいけない。リモートワークに対する攻撃的なスタンスにしろ、アメリカ経済は不況に陥っているとの宣言にしろ、Twitter買収にまつわる一連の騒動にしろ、すべて手品師が客の目をごまかすときに使う小手先の技にすぎない。

マスクがこうした行動に出るときは、決まってテスラ(Tesla)が何らか深刻な状況にあるときだ。2018年に「資金を確保した」とツイートしたときもしかりで(この行為は連邦証券法違反に当たる)、当時テスラは破産寸前にあった。

そして今回。テスラはいま市場競争に晒されつつあり、収益の大半を占める中国市場は絶不調だ。そんななか、マスクはTwitterのボット情報に対して不満をぶちまけ、「好景気が長く続くと、愚かな者の上にまで金が降り注ぐようになる」などの苦言を大声でまくし立てている。

マスクに「超ヤバい予感」を与えているものが現在あるとすれば、それは彼の莫大な個人資産に対する脅威だ。

いつか見た光景

テスラに根強く残る問題は、今や語り草となっている。新製品や納入の期限には常に間に合わず、製品の性能については過剰な期待をさせられる。創業から約20年の歴史の中で黒字になったのは2年だけだ。そして、何度か「社運を賭ける」羽目になったことがあるのもマスク自身が認めるところだ。

例えば、2018年初頭もそうだ。このときマスクは数十億ドルを費やし、テスラのフリーモント工場で、人をほぼ介在することなく車を生産する機械化(「エイリアンドレッドノート」と呼ばれていた)を試みた。

自動車業界がマスクに忠告したとおり、この試みは失敗に終わった。結局、テスラはこれによって失われた時間を取り戻すため2018年春に大量に人員を採用せざるを得なくなった。新たに採用された従業員の一部は、フリーモント工場の外に張られたテントの中、仮設のラインで手作業で組み立てを行う有様だった。しかし、急激な大量採用は急激な人員整理を招く。テスラは6月までに全従業員の9%を解雇しようと試みていた。

この間のマスクの言動は常軌を逸していた。テスラの投資家向けの決算説明会ではウォール街のアナリストを侮辱し、「くだらない馬鹿な質問」をしたと言い放った。Twitter上でもジャーナリスト(ここには筆者も含まれる)と空売り筋を相手に大暴れを続けた。

そうかと思えば、自身が率いるボーリング・カンパニー(Boring Company)が掘削した最初のトンネルを公開したりもした。テスラの所有者が渋滞を避けて地下を走行できるよう意図したものだが、これもマスクお決まりの中途半端な目眩ましでしかなく、ある批評家に「ディスコ照明付きの下水道」とこき下ろされる始末だった。

要するにマスクには、テスラが苦境に陥ると突発的にふさぎ込んで陰気になる癖があるのだ。

テスラの収益性は注意点だらけ

またあのテスラの苦境期に逆戻りしてしまうのだろうか。そうかもしれない。マスクの突飛な振る舞いも確認できる。ロイターが確認したように、マスクはテスラの幹部に宛てた最近のメールの中で、グローバルに採用計画を一時停止し、全従業員の10%をレイオフする必要があると述べている(マスクは後にこの発言をTwitter上で撤回し、向こう1年でテスラ全体の人員は増やすものの、有給職は横ばいになると発言している)。

2022年はテスラにとって気分が悪くなるような状況が続いている。株式市場は急成長中のテック企業に対して逆風が吹いており、過去15年間シリコンバレーの活況に乗じて時代の寵児だったテスラ株は年初来40%下落している。マスクの資金と関心が他に向いていることはテスラの株主にも感づかれており、Twitter買収というマスクの奇妙な聖戦も形無しだ。

それだけではない。テスラの株価は、今やアメリカで本格的な市場競争が始まったという事実を物語っている。

フォードのF150ライトニングは予約で3年待ちとなっており、納車も始まって万事予定どおりだ。ヨーロッパではルノー、フォルクスワーゲン、ヒョンデ(旧ヒュンダイ)にEVの市場シェアを奪われている。

テスラの車種構成は古くなりつつあり、生産が遅れがちであることを考えれば、2021年予定されていたサイバートラックの発売もいつになるか分からない。バイデン大統領はEVメーカーへの支援に熱心なようだが、その対象は労働組合加入を義務付けている企業に限られる(つまりテスラは含まれない)。

調査会社ボンドアングル(Bond Angle)創業者のヴィッキー・ブライアン(Vicki Bryan)によれば、テスラの収益性はまだ注意点だらけだ。同社の決算書を読み込んだところ、テスラの米国事業は惨憺たる状況だという。

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