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2022年秋、最低賃金が引き上げられました。
引き上げ幅は全国平均で31円。これでも過去最大の引き上げではありますが、インフレによりモノやサービスの価格が上がるなか「これでは物足りない……」という嘆きの声も聞こえてきそうです。
経済協力開発機構(OECD)が行った2020年の調査によると、主要各国の平均賃金が右肩上がりで伸びている中、日本は横ばいが続いています。
日本の賃金が伸び悩んでいるのは、構造的な問題によるものです。
労働人口の多くを占めるのは大企業の従業員。その大企業の業績が何年も成長していないのです。
伸びている大企業は一部に限られ、多くの企業は売上・利益が減少傾向。給与の原資が増えない状況で、給与が高い40代・50代の社員は辞めません。
必然的に、若手が成果を挙げたとしても、給与テーブルがきっちり定められている以上、報酬には反映されないというわけです。
一方、成長力があり経営者の感度が高いスタートアップやベンチャー企業などでは、GAFAなどテック大手との採用競争に勝つため、高額な報酬を用意するケースも見られます。
そうした企業に優秀な人材が流れていく事態に危機感を抱く大企業では、人事評価制度の刷新にも取り組んでいます。しかし、新たな仕組みに基づいて正当な評価ができる管理職が育つにはまだまだ長い時間がかかる……。
人事制度改革を推進する「戦略人事」のプロフェッショナルを採用しようにも、人材の数が不足しており、一足飛びでの改革は難しい状況です。
「ならばいっそ日本を飛び出して海外で働いたほうがいい?」と思う方もいるかもしれませんね。
もちろんその選択もありますが、海外に出たら出たで、ネイティブレベルの語学力を持つ優秀な人材たちとの熾烈な競争にさらされることになるでしょう。
まだ十分なビジネス経験を積んでいない若手にとっては、ハードルが高いといえます。
では、20〜30代の皆さんは年収を上げていくためにどのような経験を積む方法があるのでしょうか。ここからはミレニアル世代に向けて、私がおすすめするキャリアサバイバル術をお伝えします。
年収に差がつく35歳までにやるべきこと
私が20〜30代の皆さんからキャリアや転職に関する相談を受けた時、必ず伝えているメッセージがあります。
「35歳まではスキルを磨くことに専念し、マーケットバリューを最大化しよう!」
転職先を選ぶなら、年収や待遇は気にせず、自分を大きく成長させられる企業を選んだほうがいい。キャリア構築にできるだけ自分の時間とエネルギーを投じ、場合によってはお金も投資して学ぼう——そう伝えています。
私は日頃、ハイキャリア~エグゼクティブクラスの方々の転職に携わっていますが、年収に大きな差が表れてくるのは概ね35歳くらいからです。
それまでにマーケットバリューを高める経験を積んだ方は、30代にして年収2000万円のオファーが出ることだってあります。
では、自己成長を促進できて、マーケットバリューを高められるのはどのような企業でしょうか。
若手の皆さんからはよく「優秀な人材がたくさんいる企業でノウハウを学び、刺激を得たい」という声が聞こえてきます。
それも一理あるのですが、実は逆のほうがいい場合もあります。
私は、優秀な人材がひしめく環境に身を置くことはおすすめしません。優秀な人材にばかりチャンスが集まり、自分のところには経験を積むチャンスが回ってこないことが多いからです。
狙い目は、ビジネスモデルは成長可能性を秘めていながらも、まだ人材が揃っておらず、仕組みや組織が整備されていない企業。
こうした企業は、大企業と比較すると入社しやすく、自ら手を挙げればどんどん仕事を任されます。教えてくれる人がいない環境で、自身で学び、実践していく経験を積むことで、短期間で大きく成長できます。
実際、私がこれまで出会った「マーケットバリューが高い人材」にこれまでの経歴をお聴きすると、「先輩や上司が突然辞めてしまい、自分がその役割を担わざるを得なくなった。大変だったけど、無我夢中でこなすうちにいつの間にか成長していた」という体験をした方がけっこう多いのです。
もし現在、優秀な人材が多い環境で、なかなか重要なポジションを任せてもらえずに自信を失っている人がいたなら、私は転職をおすすめします。
ベンチを温めるのではなく、自分がバッターボックスに立てる企業を選んではいかがでしょうか。
副業できない企業はNG
もう一つ、転職を検討している若手や就活を始める学生さんに向けて、私がアドバイスしていることがあります。
「副業が許可されていない会社は避けたほうがいい」
会社員であるかぎり、それが大企業のように整備された組織であるほど、自分がやりたい仕事をできる可能性は低くなります。
実際、それを不満に思い、転職する方も少なくありません。
けれど、転職にはやはりリスクがつきものですし、大企業だからこそ学べることもあります。
ジョブローテーションによって異動を命じられた場合も、最初は抵抗感を抱いていた部署や職種が意外と自分に合っていたり、スキルを磨けたりすることもあります。
もし大手企業でやりたいことができない状況でも、安易に辞めるのではなく、「副業」でチャレンジできるようにしておくといいでしょう。
もはや、1社だけでキャリアを築く時代ではありません。
時には「副業」という形で経験の幅を広げ、複数のスキルを掛け合わせてマーケットバリューを高めていく働き方ができる企業を選ぶことをおすすめします。
また、「収入を上げていきたい」「早期に資産を築いてFIRE(早期リタイア)を目指したい」と考えるなら、20代のうちから資産運用をスタートすることをおすすめします。
従来、資産運用といえば、まとまった資産を築いたうえで行うものでしたが、今は「NISA」「iDeCo」など数千円~数万円から始めることも可能です。
投資には経験値が大切ですので、少額からでも経験を積み、いずれ収入が上がった時に本格運用を適切にできるように学び始めておきましょう。
資産運用については、この連載の第58回も参考にしてください。
※この記事は2022年6月13日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。