テック業界を中心に熱烈な支持を受ける生産性向上ツール「ノーション(Notion)」がカレンダーアプリ「クロン(Cron)」を買収。関係者の間で密かに話題になっている。
Screenshot of Notion(jp) website
最新評価額は100億ドル(約1兆3000億円)、「オールインワンのワークプレイス」を売り文句とするノーション(Notion)がカレンダーアプリのクロン(Cron)を買収する。
ノーションはここ数年、シリコンバレーで最も熱い視線を浴びている企業のひとつ。文書、チームWiki(共同ナレッジ)、タスク管理ツール、スプレッドシートをカスタマイズ可能な形で統合した生産性向上ツールを提供する。
今回、ノーションはクロンの買収を通じてカレンダーを組み込み、「オールインワン」の領域を拡大することになる。
両社は買収条件を公開しておらず、またクロンの直近の評価額も不明だ。
クロンは創業から比較的歴史が浅く、Yコンビネータ(Y Combinator)の2020年冬のプログラムに参加、同年3月にイニシャライズド・キャピタル(Initialized Capital)をリードインベスターとするシードラウンドで350万ドルの資金を調達した。
この投資ラウンドではほかに、グーグル(Google)も活用するデザインプラットフォーム「フィグマ(Figma)」最高経営責任者(CEO)のディラン・フィールド、リンクトイン(LinkedIn)前CEOで現在エグゼクティブ・チェアマンのジェフ・ワイナー、マイクロソフト(Microsoft)に買収されたカレンダーアプリ「サンライズ(Sunrise)」共同創業者のジェレミー・ル・ヴァンらが出資している。
クロンの差別化ポイントは、徹底的に簡単で便利なスケジュール管理を可能にすることだ。
機能の具体例としては、キーボードのショートカットでモードを切り替えた上で、スケジュールーの空き時間を直接選択し、メールやSNS等のメッセージにそのままコピペして共有できる「シェア・アベイラビリティ(Share Availability)」が挙げられる。
クロン(Cron)のカレンダー製品インターフェース。ウェブサイト上の情報はきわめて少ない。
Screenshot of Cron website
ノーションは2021年10月、テック企業の従業員や動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」のインフルエンサーからチームワークやプロジェクトプランニングに最高のツールとの熱烈な支持を受け、2億7500万ドル(約360億円)という巨額の資金調達に成功。累計調達額は3億435万ドル(約400億円)に達した。
パンデミック発生以降のリモートワーク導入拡大を追い風に、過去12カ月間でデイリーアクティブユーザー数は4倍増、グローバルで2000万人を突破した。
同社によれば、未上場の有望クラウド企業トップ100社ランキング「フォーブス・クラウド(Forbes Cloud)100」に選出されたスタートアップの90%がノーションを活用しているという。
同社最高プロダクト責任者(CPO)のマデュー・ムズクマールはInsiderの取材に対し、ノーションとクロンが買収合意に至った理由について、両社が人々の生産性を向上させるという究極の目標を共有していることを挙げている。
2022年3月開催のユーザーカンファレンスでノーションの経営幹部がカレンダー機能の統合に触れた際は多くのユーザーから反響があったという。
「私たちの目標は、人々がそれぞれに秘めたポテンシャルを最大限解き放つ最高のツールを生み出すことです。
クロンを実際に使ってみると実感してもらえると思います。本当に安定的で便利なツールです。単なるカレンダーではありません。人々が普段どんなふうにスケジュール調整をするのかをよく考えた上で、まさにそれに沿った形で使えるよう設計されているのです」(ムズクマール)
クロン創業者兼CEOのラファエル・シャードも、ムズクマールの言う「ポテンシャルを最大限解き放つ最高のツールを生み出す」との理想に同意する。
シャードがノーションCEOのアイヴァン・ザオと出会ったのは、互いのプロダクトを使っていたことがきっかけだった。
ふたりの議論は当初、ノーションとクロンの機能統合を意図したものだったが、間もなく両社が一緒になって力を合わせるほうがより大きなポテンシャルを発揮できることに気づいたという。
シャードはInsiderの取材に対しこう語っている。
「クロンのカレンダーは、週に何度かのビジネスミーティングを設定できる以上の、もっとずっと『使える』何かになれると考えて開発を続けてきました」
クロンのカレンダープロダクトはまだ一般公開されていないにもかかわらず、すでに関係者の間では大きな話題になっており、かつてのノーションを彷彿とさせる。
シャードによれば、ノーションのドキュメントをクロンのカレンダーに埋め込むなど、両アプリのユーザーはすでに相当重なってきている模様で、今後はそれぞれのユーザーのニーズ把握を進め、それに従ってプロダクトを統合していく考えだ。
シャード率いるクロンはこれから従業員320人のノーションに合流することになる。当面は独立したアプリとしてクロンの開発を進めつつ、ノーションとの統合にも着手するという。
「ラファエル(・シャード)とそのチームが生み出したこの素晴らしいプロダクトを見れば、毎日でも使う価値のあるツールであることが分かってもらえると思います」
(翻訳・編集:川村力)