「ザ・サンクチュアリ 」へのエントランス。
Premier Estate Properties
- アメリカの富裕層は、安全性を懸念し、警備にかける費用を増大させている。
- 富裕層が住むフロリダの「ザ・サンクチュアリ」では、陸上と水上で24時間体制のパトロールが行われている。
- ザ・サンクチュアリを販売するエージェントによると、身の安全に不安を持つ人がここに移り住んでいるという。
あなたは自分の家を守るためにどこまでできるだろうか。アマゾン(Amazon)で見つけた24ドルの防犯カメラで十分な人もいるだろう。しかし一方で、年間3万ドルをかけて、24時間体制の武装警備員に守られながら、門限を設け、中世にあったような立派な堀に囲まれて暮らすことが唯一の方法だという人もいる。
富裕層の間で高度なセキュリティシステムの需要が高まっていることを示す一例として、フロリダ州ボカラトンにある「ザ・サンクチュアリ」がある。このゲーテッドコミュニティ内にある住宅の価格は650万ドル(約8億8000万円)から700万ドル(約9億4000万円)で、他にも世帯ごとに年間約3万ドル(約400万円)を警備に費やしている。
映画『パージ』シリーズの第1作に見られるような、アメリカの富裕層が暴動から身を守るために、最先端の防犯技術を駆使した家に閉じこもるという設定に似ている。このコミュニティでは、壁に赤外線センサーが設置され、武装した警備員が陸上と水上を巡回し、有事に備えている。
「郵便配達員さえ入れない」
フロリダを拠点とする不動産企業Premier Estate Propertiesの共同経営者で、ザ・サンクチュアリの住宅販売を仲介するジェラード・リグオリ(Gerard Liguori)がInsiderに語ったところによると、富裕層は住宅を購入する際、セキュリティをますます重視するようになっているという。
「ザ・サンクチュアリ」は、ヨットで海に直接アクセスできる住宅地だ。
Premier Estate Properties.
「郵便配達員でさえ、このコミュニティには入れない」とリグオリは言う。「警備員は全員武装している。メインゲートとサービスゲートの2つのゲートがあり、誰かが入ってくると身分証明書が確認され、彼らの顔と車、ナンバープレートの写真が撮影される。そのため、誰が入って誰が出ていったのかがすべて分かるようになっている」
「コミュニティ内の道路や水路は警備員が24時間体制で巡回している。北と南のエントランスにはカメラが設置され、誰かが入ってくるとカメラに映し出される。すべての通りもカメラでチェックされ、壁には赤外線センサーも設置されている」
ゲストの滞在時間は、毎日午前9時から午後4時半までという非常に厳しい制限が設けられている。COVID-19の制限が最も厳しかったころには、居住者以外の立ち入りがほぼ完全に禁止された。
この住宅の価格は、約1500万ドル(約20億円)。
Premier Estate Properties.
アメリカ人は身の危険を感じ、恐れている
平均的なアメリカ人はこのような対策を過剰だと思うかもしれないが、これはアメリカの富裕層の間で高まる不安を反映している。
アメリカでは、富裕層が住む地域での犯罪が増加している。そのためシカゴでは民間警察を雇う家庭が現れ、ロサンゼルスの住宅ではセーフルーム(不法侵入があった場合に一時避難する隠し部屋)の需要が急増している。スーパーヨットを所有する億万長者は、そのヨットを「水上の要塞」に造り変え、安全を確保するために年間数百万ドルを費やしていると以前Insiderで報じている。
ホームセキュリティ研究機関SafeHomeの調査によると、市民の暴動を「恐れる」または「非常に恐れる」と回答したアメリカ人は49%、強盗や空き巣を恐れていると回答したのは35%だった。
多くのアメリカ人が集団生活における安全性を懸念する一方で、経済的に余裕のある人は依然として自宅の設備を整えたいと考えているとSafeHomeの調査ディレクターであるライアン・マクゴナギル(Ryan McGonagill)は述べている。
「アメリカの富裕層と平均的な所得層を比較すると、次の2点が浮かび上がってくる。富裕層は守るべき物理的な資産が多いことと、ホームセキュリティにより多く投資する余裕があることだ」
特にシカゴやニューヨークのような都市から移住してきた富裕層にとっては、高度なセキュリティを確保することは当然のことだとリグオリも同意している。
「彼らがどこから来たのかによる。ニューヨークのアッパーイーストサイドでも犯罪は増えている」とリグオリは言う。
「どこにいても標的にされる。どこから来たかによって、標的にされることに対する感受性が異なる」
「不満を持った労働者が暴動を起こすというようなシナリオを回避するためだ。だがどうなるのかは分からない。だからこそ、誰もがセキュリティに関して、より予防的な措置を取っている」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)