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バーンスタイン・プライベート・ウェルス・マネジメント(Bernstein Private Wealth Management)は、世界の富裕層の資産管理を担う大手企業だ。同社の投資戦略部門の共同責任者を務めるアレックス・チャロフ(Alex Chaloff)は最近、新規顧客のある行動様式に気がついた。
投資経験が少ない新規投資家でさえ、ポートフォリオ推薦リストで、インフレに敏感に反応すると考えるアセットすべてに蛍光ペンで印を付けてくるのだ。
「1年前はそもそも、こんな話が出ることはありませんでした」と、Insiderの取材に応じたチャロフは語る。
急激なインフレ、株式市場の下落、世界的な混乱から、富裕層でさえ不安を抱いている。債券も株式も暴落している今、オルタナティブ投資の魅力が増しているのだ。
プライベートエクイティから不動産まで、オルタナティブ投資の世界の運用資産は2021年末時点で10.7兆ドル(約1430兆円、1ドル=134円換算)にのぼっており、2025年には17兆ドル(約2280兆円)に達するとBNYメロン(BNY Mellon)は推計している。
これは流動性と引き換えにリターンを得られる確率を高めることを意味するが、今は多くの人が非流動性プレミアムのコストを喜んで選ぶようになっている。
UBSがファミリーオフィス(訳注:富裕層を対象に資産管理・運用を行う組織。概ね100億円規模以上の資産を持つ同族を対象としているところが多い)を対象に行った直近の調査によると、50%が現在または将来的に非流動的投資への配分を増やすことを検討している。
資産の追跡や売却ができないことは実はメリットになりうると、SVBプライベート(SVB Private)の最高投資責任者シャノン・サッコシア(Shannon Saccocia)はInsiderに語る。
「オルタナティブは、混乱が収まるのを待つ時間と空間を与えてくれるという点で魅力的です。ベンチャーキャピタル(VC)であれディストレスト・クレジットであれ、プライベートモデルではその非流動性が、忍耐が必要な時に投資家の行動を守ってくれるのです」
超富裕層はどんなオルタナティブ投資に関心を示しているのか、以降で紹介する。
プライベートエクイティ
シティ・プライベート・バンク(Citi Private Bank)のオルタナティブ投資部門グローバルヘッドであるダニエル・オドネル(Daniel O'Donnell)によると、ダウンラウンドやテック系ユニコーンが従業員を解雇するとの報道にもかかわらず、顧客はIPO前のテクノロジー系グロース銘柄への投資を敬遠してはいないという。
顧客は、プライベートエクイティ(PE)に投資することで、ファンダメンタルズは健全なのにバリュエーションが低迷している企業から旨味を得られる、とオドネルは言う。プライベート市場の評価も低下してはいるが、公開市場ほどの落ち込みではない。
「価値が変動しないわけではありませんが、評価のプロセスや、適切なタイミングでマネタイズできるという安心感はあると思います」とオドネルは語る。「オルタナティブ投資は、ボラティリティ、あるいはボラティリティと見なされるものを多少排することができます」
また、チャロフは、PEのセカンダリーを購入する機会が増えており、2年以上はこの状態が続くと見ている。
プライベートデット
ニック・ミリカン(Nic Millikan)は、金融アドバイザー向けオルタナティブ投資プラットフォーム「CAIS」のマネージングディレクター兼投資戦略責任者を務める人物だ。ミリカンによれば、金利が上昇するにつれ、プライベートデットはより安全な投資先と見なされるようになった。
特に、中小企業向けの直接融資が活発化している。金利の上昇に伴い、借り手から貸し手へとパワーバランスが変化しているとミリカンは説明する。
「貸し手は、保護的なコベナンツ、利子率、カバレッジ率などを以前よりももっとローンに設定できるようになり、この分野の投資家にとってプラスになっています」
業界は多岐にわたるが、不況に強いとされる訴訟ファイナンス(利益の分配と引き換えに訴訟に投資すること)や音楽ロイヤリティなど、あまり知られていないタイプの融資に関心が集まっているという。
「パンデミックや不況があろうとなかろうと、人は音楽を聴くものです。消費者の消費パターンに基づいて、極めて安定した配当が支払われる資産クラスへのエクスポージャーを得るには、実に興味深い手段です」
不動産
不動産はインフレや金利上昇に対する有効なヘッジ手段だが、ミリカンの顧客は若干の警戒心を示し、大都市圏の多世帯住宅を好んでいるという。
「不動産の開発や物件のリポジショニングで得られるような、おいしい2桁のリターンは期待できません。ただそれは、全体的にリスクをとることを嫌う現在の傾向に合致しています」とミリカンは語る。
チャロフいわく、バーンスタインでは、社宅や産業用不動産などの不動産開発よりも、リスクを軽減するためのリースに注力しているという。
「文字通り、毎晩家賃をリセットできるホテルをイメージしていただくのが一番分かりやすいでしょう。まだリニューアルオープンが続いているので、現時点ではホテルに過大に投資することは考えていませんが、超短期のリース物件はいくつか持っておきたいところです」
この経済状況下で投資を行うには、創造性が必要だとサッコシアは言う。例えば、SVBプライベートは数年来、農地に投資している。アメリカの農地価格が7%上昇する2020年まで、この投資は低くても安定したリターンを生んでいた。サッコシアによれば、農地のように、投資する人が少なく、透明性が低めの市場を利用することでより高い利回りを実現できるという。
「現在のような環境では、非効率性からリターンを得る機会を追求する必要があります。こういうところにこそ、イノベーションにつながるチャンスが眠っているんです」
(編集・常盤亜由子)