拘束されたパトリオット・フロントのメンバー。
North Country Off Grid/Youtube/via REUTERS
- 「パトリオット・フロント(Patriot Front)」はネオナチグループ「ヴァンガード・アメリカ(Vanguard America)」から生まれた白人至上主義の組織だ。
- パトリオット・フロントは数々の破壊活動を行ったり、社会の非主流コミュニティーを標的にしてきた。
- 6月11日には、アメリカのアイダホ州で開催されたプライド・イベントの会場付近で、パトリオット・フロントのメンバー31人が逮捕された。
白人至上主義グループ「パトリオット・フロント」の創設者を含む31人の男が6月11日、アイダホ警察に逮捕された。
男らは現地で開催されていたプライド・イベントの会場近くに暴動鎮圧用の装備を身に付けて集まっていて、その後、全員が暴動を共謀した容疑で逮捕された。
パトリオット・フロントは2017年、バージニア州シャーロッツビルで開かれた極右集会「ユナイト・ザ・ライト(Unite the Right)」の後に生まれた。南部貧困法律センター(SPLC)によると、パトリオット・フロントは同じような信条を掲げるネオナチグループ「ヴァンガード・アメリカ」の分派として活動が始まった。白人至上主義者でシャーロッツビルの集会で人種差別反対派の群集に車で突っ込み、女性1人を死亡、多くの人々を負傷させたジェームズ・アレックス・フィールズ・ジュニア(James Alex Fields Jr)被告はヴァンガード・アメリカと関係があった。
パトリオット・フロントは彼らが「置き換え人口(replacement populations)」と呼ぶ人々を撲滅させようとする白人至上主義的な思想を中心に展開している。これは非白人の移民が白人の住民に「置き換わろうとしている」という陰謀論を参考にしたもので、さまざまな極右の銃乱射事件でも使われている表現だ。SPLCによると、パトリオット・フロントはアメリカを白人民族国家にすることを目指している。
「パトリオット・フロントは最も力を持つ白人民族主義のプロパガンダ組織の1つになった」とInsiderに語ったのは、過激派組織に詳しいWestern States Centerのプログラム・アナリスト、スティーブン・ピゴット(Stephen Piggott)氏だ。
パトリオット・フロントは、近年はその大規模デモや破壊活動で知られ、数多くの「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」運動関連のボードや警察に命を奪われた黒人の記念碑を傷つけたり、汚したりしてきた。彼らは移民やLGBTQ+コミュニティーといった社会の非主流の集団も標的にしている。HuffPostの報道によると、彼らはこうした破壊活動をしばしば自ら撮影し、テレグラム(Telegram)に投稿しているという。
ある動画では、メンバーがLGBTQを支持する2本の旗を火に放り込んでいた。
HuffPostによると、メンバーの1人は動画の中で「我々の国を破壊する者たちへ。我々はお前たちの象徴、お前たちが崇拝する全ての物を破壊する」とコメントしているという。
かつてパトリオット・フロントの活動は「宣伝行為」に限定されていて、現地のコミュニティーに接触することなくメンバーだけでデモをするなどしていたと、ピゴット氏は話している。ところが近年、そのデモは"直接的な対決"になりつつあるという。
「あからさまな破壊行為へとシフトしているのは問題だ。グループがより過激化していることを示している」とピゴット氏は指摘する。
同氏はパトリオット・フロントのレトリックを極右集団「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」と比較し、どちらの組織も「有色人種、LGBTQの人々やコミュニティーを怖がらせる」ことを目標に掲げ、「こうしたデモをやったり、大々的なプロパガンダを掲げる」ことでそれを実行していると話した。
また、名誉毀損防止同盟(ADL)によると、パトリオット・フロントは横断幕の設置やビラやステッカーといったプロパガンダ資料の配布を積極的に行っていて、2019年には白人至上主義のプロパガンダ案件の80%がパトリオット・フロントによるものだった。
2022年に入って、パトリオット・フロントのメンバーはワシントンD.C.で開かれた妊娠中絶に反対するデモ「命のための行進(March for Life)」を含め、アメリカ各地で開かれたさまざまなデモに姿を見せている。こうしたデモに、メンバーはさまざまなマスクをかぶった姿で現れ、列で行進する。2021年12月にリンカーン記念堂で行われたデモには、メンバー100人が盾と旗を持って集結した。
HuffPostの報道によると、パトリオット・フロントは組織を守るために、メンバー同士互いの本名は明かさない、同時に他の組織の活動には関与しないなどの対策を取っているという。
メンバーが特定され、法的な問題になるのを避けるためにこうした対策を取ってはきたものの、クートニー郡保安官事務所は6月11日にアイダホ州コーダレーンで暴動を共謀した容疑で逮捕されたパトリオット・フロントのメンバー31人の名前と顔写真を公表した。当局は、住民から暴動鎮圧用の装備を身に付けた「ちょっとした軍隊のように見える」男たちがいるとの通報を受け、レンタルしたトラックに乗って街へやって来たメンバーらの身柄を拘束した。
地元警察は事前に、問題を起こしそうな集団がプライド・イベントに現れるとの情報を得ていて、対応を調整していたと記者会見で明かした。
逮捕された31人の中には、テキサス州在住のパトリオット・フロントの創設者で現リーダーのトーマス・R・ルソー(Thomas R. Rousseau)氏も含まれていた。かつて自らを「ファシスト」と説明していたルソー氏は、もともとはヴァンガード・アメリカに関わっていたが、シャーロッツビルの事件の後にパトリオット・フロントを立ち上げた。SPLCによると、ルソー氏がパトリオット・フロントのマニフェストを書き、ビジュアルデザインを手掛けた。
ニューヨーク支部のリーダー、キーラン・P・モリス(Kieran P. Morris)氏も逮捕された。HuffPostによると、モリス氏は2019年にはパトリオット・フロントのメンバーを率いて他の過激派組織と会うためにヨーロッパ各地を回った。ドイツの極右政党「ドイツ国家民主党(NPD)」にも会ったという。
アイダホ州で今回逮捕されたパトリオット・フロントのメンバーは、アメリカの10以上の州から集まってきていたとSpokesman-Reviewはクートニー郡保安官事務所の情報をもとに伝えている。
(翻訳、編集:山口佳美)