年初来下落が続いた株式市場では、5月下旬から6月上旬にかけて株価の回復傾向が見られたが……。
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米連邦準備制度理事会(FRB)が近いうちに利上げサイクルを一時停止するとの見方が投資家の間に広まったことで、6月上旬の株式市場では過去数カ月の急落に対する揺り戻しが見られた。
米資産運用大手ブラックロック(Blackrock)グローバル債券部門最高投資責任者(CIO)のリック・リーダーは、Insiderの取材に応じて現状を分析し、投資家が前のめりになりすぎて市場に無用の混乱を生み出していると指摘する。
「エネルギーと食料の価格はここからさらに上昇する可能性があります。したがって、FRBが利上げサイクルを一時停止すると予測する蓋然性を示す十分なデータがあるとは考えられません。
FRBがいま利上げを続ける第一の目的はインフレ抑制であり、ここまで数カ月の金融引き締めを通じて明らかになったのは、足もとのインフレは(想定より)粘着的かつ高水準で、FRBの金融政策の効果が及びにくい食品とエネルギーの価格上昇にけん引されているという事実だけです」
米労働省は6月10日、5月の消費者物価指数の伸び率(前年同月比)が40年5カ月ぶりの高水準となる8.6%の上昇を記録したと発表した。
強気マインドの投資家たちは、インフレ率が3月に記録した8.5%をピークに下降基調で推移すると期待していたが、今回発表された数字はそうした希望的観測を裏切った形だ。
5月の消費者物価を踏まえれば、投資家たちの期待するようなFRBの利上げ一時停止は到底考えられず、それどころか、インフレ抑制に向けてFRBがさらなる利上げに動き、景気減速がいま以上に進む可能性も見えてきた。
実際、5月消費者物価指数の公表以降、株式市場は大幅な下落が続いている。S&P500種株価指数は6月13日、年初(1月4日)につけた直近高値からの下落率が弱気相場入りの目安とされる20%を超えた。
FRBがこのまま当初計画通りに利上げサイクルを続けるとすれば、それは国内総生産(GDP)成長率にどれほどの影響を与えるのか、誰もが経済の先行きから目を離せない状況が続く。その帰結が市場にもたらす影響は甚大だ。
「いま市場が直面する不確実性はかつてないほど深刻なものです。FRBが経済成長の鈍化局面で金融引き締めに動くことはほとんど絶対にあり得ないのに、いまがまさにそれかもしれず、市場はきわめて不確実で予測不能、不安定だが非流動的な状況と言えるでしょう」
運用残高2兆4000億ドルを誇るブラックロックでグローバル債券部門の責任者を務めるリック・リーダーは、自身も直接いくつかのオープンエンド型投資信託(ミューチュアル・ファンド)運用を手がけている。
米ブラックロック(Blackrock)グローバル債券部門最高投資責任者(CIO)のリック・リーダー。
Lucas Jackson/Reuters
2010年8月から担当する機関投資家向けの「トータル・リターン・ファンド」は、分散投資で中長期の安定運用を目指すコア債券ファンド(評価期間10年)部門の「リフィニティブ・リッパー・ファンド・アワード」を受賞したばかりだ。
リーダーは自ら手がけるファンドの多くで、債券と株式の両方をポートフォリオに組み込んでいる。株式市場が厳しい状況を迎えたときも債券市場でチャンスを狙える可能性があるというのがその理由だ。
「今日において、地方債、短期債に属する優良資産の数々など、債券には株式より価値があると考えています。私なら、高リスクの株式市場ではなく(信用力の高い)投資適格債や証券化商品として市場で流通している地方債などでリスクを取ります」
リーダーのポートフォリオは目下、過去数年間に比べて現金の割合が増えているものの、B格のハイイールド債(低格付け債)も徐々に増やして、金利上昇局面でも良好なリターンを期待できるエクスポージャーを広げているという。
「(投資適格債などと比べて)信用度をそこまで落とさずにハイイールド債で8%の利回りを得られるなら、株式より魅力的な資産クラスと言えるのでは」
リーダーはまた、企業の資金調達コストあるいは自社株買いコストが金利上昇を受けて大幅に上昇しており、そのために株式銘柄のアップサイド(株価上振れ余地)と魅力が低下していると指摘する。
長期にわたって安価な借り入れが可能な時期が続いてきたことを考えると、これは劇的な変化と言っていいだろう。リーダーによれば、企業の債務に対応する株価の水準としては、現在が過去15年間で最も割高だという。
「株式は現在、どんなに高く見積もっても平凡な投資対象と言うほかありません。これから想定される展開は、金利および信用が安定化するか、株価がもっと安くなるか、2つに1つです。私の考えではその両方が起こると思います」
これから雇用者数の伸びが鈍化してきたとき、FRBは「粘着性の」インフレと(おそらくは深刻な)不況を引き起こしてでも戦い続けるのか、それともどこかで踏みとどまるのか、選択を迫られることになるという。
FRBは深刻な経済破たんを引き起こすわけにはいかないので、より高い水準のインフレを(利上げサイクルをどこかで終了させて)受け入れるというのがリーダーの見立てだ。
「食料とエネルギーの価格あるいは住居費を引き下げるために、FRBが金融政策を起動して需要量を抑え込もうと躍起になることにはほとんど価値がありません。
そうすることで200万〜400万人の雇用が失われるのです。供給側の問題でインフレが発生し、大きな雇用が失われていく痛みを伴って、とりわけ食料とエネルギーコストの負担増に人々が苦しむのが分かっていて、わざわざ雇用が失われるような政策をとることには何の意味もないのです」
(翻訳・編集:川村力)