Maverick Ventures / Initialized Capital / Craft Ventures
景気後退が懸念される中、ハイテク産業は株式市場で困難に直面している。スタートアップはバリュエーションの低下、コスト削減、ベンチャーキャピタル(VC)の資金枯渇に直面し、多くの投資家は投資先企業に対して、ランウェイを延長して資金を節約するよう助言している。
ヘルステック系スタートアップも例外ではない。年間投資額が2019年以降3倍に増え、2021年には291億ドル(約3.9兆円、1ドル=134円換算)に達した過去3年間からの急反転になる可能性が高い。
要するに、過去数年間にヘルスケアのスタートアップが享受した資金調達の大盤振る舞いからは程遠い状況になるということだ。
しかし、このような環境下でも、競合の動向に目を配り、自社の市場で専門性を高め、セールストークを磨き上げれば、チャンスは残っていると投資家たちは述べる。
そこでInsiderは著名なヘルステック系ベンチャーキャピタリスト6名に、創業者への最高のアドバイスを求めた。
結果として、ヘルステック業界に限らず、資金調達の場において起業家がセールストークを成功させるためのヒントや、陥りがちな失敗を克服する方法について、10のヒントが集まった。
ライニー・ペインター(クラフト・ベンチャーズ)
Craft Ventures
セールストークで競合他社を否定しない:
「セールストーク中に競合他社を否定する創業者がいるのですが、これは絶対にやってはいけません。その分野で活躍している他社を評価したほうが、むしろ自分の知識の豊富さや市場に対する造詣の深さを示せます。
潜在的な競争相手を頭ごなしに否定するよりも、なぜ他社が競合しているのか、あるいは今後競合する可能性があるのかを説明する方がはるかに簡単です」
規模拡大のイメージを共有する:
「スタートアップにとっては、出張看護やトランスコミュニティのための性別確認ホルモン治療のような、小さな市場にクサビを打って事業を始めるのは有効なやり方です。
しかし投資家に対しては、大きな市場に参入するための道筋をアピールする必要があります。時間をかけて順次カバー領域を広げ、より大きな市場を開拓する用意があるんだとVCに説明することが重要です」
ルーシー・デランド(インスパイアード・キャピタル)
Inspired Capital
専門性をアピールする:
「パンデミックによってヘルステック全般への投資が加速したことは、驚くに値しません。業界全体が一夜にしてデジタル化され、このデジタル化のスピード感を維持しようと起業家たちが続々と市場に参入しています。
しかし、医療の提供とそれを取り巻くあらゆるテクノロジーには、非常に高いリスクが伴うものです。『素早く行動し破壊せよ』(※訳注:かつてのメタのモットー)が通用する業界ではありません。ですから、自社が成功するために必要な研究、臨床試験、保険会社などの支払者に対する戦略などに精通していることをいかにアピールするかが大切です」
ピッチはビジネスへの姿勢を明らかにする:
「資金調達のプレゼンの仕方には、その人のビジネスの進め方が表れます。そのため我々VCは、創業者がどうアピールするかを常に注視しています。語り口は明快で思慮深いか。エネルギーにあふれていてテンポがいいか。その分野の専門知識があり、それを発揮しているか。
私自身も起業経験がありますから、何度も練習する余裕なんてないことも分かります。それでも、投資家とのミーティングでは、自然体でいられるくらいに練習したいものです」
パルル・シン(イニシャライズド・キャピタル)
Initialized Capital
多彩な人材を揃える:
「投資家は常々、市場をよく知り、そこに居心地のよさを感じている創業者に出会いたいと願っているものです。
B2Cであれば、人々が欲しがるものを作っているか、顧客の抱える問題を明確かつ簡潔に語れるかが重要です。B2Bなら、販売サイクルを理解しているか、必ずしも創業者自身に経験がなくても深い知識を持った専門家をチームに加えているか、などが問われます。この分野で生き残るためには、多彩な能力が揃ったメンバー構成のチームが必要でしょう」
プラティーシュ・マヘシュワリ(マーヴェリック・ベンチャーズ)
Maverick Ventures
最初に自分とチームについて話す:
「自分自身やチームについてあまり多くを語らない創業者を見かけますが、これはダメです。
アーリーステージでの投資はたいてい、創業者がその市場で『不当な優位性』を持っているか、人材を確保する能力があるかどうかで決まります。にもかかわらず、創業者は市場の課題やその解決策に意識を向けすぎるあまり、チームについて触れるのがプレゼンの終盤になってしまいがちです。
解決策は簡単。プレゼンではまず真っ先に自分とチームについて詳しく説明し、自分たちが持っている『不当な優位性』を投資家たちにリマインドし続けることです」
ジョアン・リン(ニューアーク・ベンチャーズ)
Newark Ventures
調達は株式の取引の場と心得る:
「当社はシードステージのファンドですが、シードステージの創業者にありがちな『過ち』といえば、資金調達のためのピッチとは要するにセールスミーティングなのだと認識できていないことです。だって創業者は、自分の株式を売っているのですから」
知識レベルを測ってから話す:
「最初のセールストークで一番重要なのは、顧客を発見すること。創業者は、ものすごく時間をかけて作成した資料を携えて最初の投資家とのミーティングに臨みますが、30分の会議時間のうち25分は、ハイレベルな問題設定や市場のダイナミクス、規制などの説明に費やしがちです。でもこうした情報は、投資家にとっては冗長です。
そんなことをするくらいなら、冒頭5分ほど時間を取ってヘルスケアファンドやジェネラリストファンドのヘルスケア担当者に質問したほうがいい。質問しながら彼らがどの程度専門知識を持っているかを測り、そこからプレゼンを微調整する。そうすることで、全員の時間を最大限に有益なものにすることができます」
ジェシカ・オーウェンズ(イニシエイト・スタジオ)
Initiate Studios
アーリーステージに重要な4つの要素:
「アーリーステージの投資家として、私が特に関心を持っている点は4つあります。第一に、あなたの会社が成功すると世の中はどう良くなるのか。第二に、あなたの会社はなぜ勝つことができるのか。第三に、今回のラウンドで調達する資金は、目標達成に向けてどう役立てられるのか。最後に、目標に到達するために、あなたと私は効果的に協力し合えるのか。この4つです」
リスクを共有する:
「私は、顧客のことを深く理解し、顧客の立場に立って行動する創業者に惹かれます。そういう創業者は、解決しようと思っている問題を身をもって経験していることが多いものです。
また、何がうまくいって何がうまくいかなかったのか、リスクについても包み隠さず話してくれる起業家もありがたいですね。私たち投資家は、リスクを分類して定量化して、その種類や度合いに納得できなければ投資しませんから。夜も寝られなくなるようなリスクについて正直に話してくれる人だと助かります」
(編集・野田翔)