スタグフレーション とは何か?…その原因からインフレとの違いまで徹底解説

スタグフレーションは1970年代に米国で定着し、約10年間続きました。

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  • スタグフレーションは、経済成長の鈍化、高い失業率、価格の上昇の組み合わせによって引き起こされる経済状況。
  • スタグフレーションは、1970年代に、金融政策と財政政策、および石油禁輸の結果として発生した。
  • コロナ禍からの回復期のなかで、経済成長が冷え込み、インフレ率が高いままであるため、スタグフレーションへの懸念が浮上している。

スタグフレーションとは、「スタグネーション(景気停滞)」と「インフレーション(物価高騰)」を組み合わせた言葉で、低い成長率と高い失業率(スタグネーション)に物価の上昇(インフレーション)が重なった経済状況を指す。

この言葉を初めて使ったのはイギリス保守党の政治家イアイン・マクラウド(Iain Macleod)氏で、1965年、下院でのスピーチでこう発言している。

「我々は今、2つの意味で最悪の状況にある――片やインフレーション、片やスタグネーション、その両方が同時に起こっているのだ。まさに『スタグフレーション』と呼べる状況であり、現代史に新たな1ページが書き加えられたのである」

当時、経済学者の多くは、スタグフレーションは起こりえないと考えていた。なぜなら、失業率とインフレ率は基本的に相反する動きを見せるからだ。ところが、1970年代の「大インフレ」期が、スタグフレーションは存在する事実を、そして経済を壊滅させるほどの影響力を持つことを証明したのである。

スタグフレーションとインフレーションの違い

スタグフレーションとインフレは似ているが、混同してはならない。「インフレ」は一部の商品やサービスだけでなく、経済全体の平均価格が持続的に上昇することを意味している。経済が商品やサービスを生産するよりも速いペースで通貨供給が行われるとき、インフレが発生する。

ひと言まとめ:スタグフレーションなしでインフレだけが起こることはあるが、インフレを伴わないスタグフレーションはありえない。

Alyssa Powell/Insider

経済の成長率が低く、失業率が高いときにインフレが起こった状態がスタグフレーションだ。本来、これら3つの要素が同時に発生することはない。失業率とインフレは相反するのが普通だからだ。

失業率が上がれば、インフレ率が下がり、失業率が下がれば、インフレ率が上がるはずなのである。もちろん、1970年代のスタグフレーションが示すように、この相関関係はつねに安定しているわけでも、予測が可能なわけでもない。

スタグフレーションの原因は?

低成長と高失業率と物価高騰が組み合わさったスタグフレーションは、純粋な不況の嵐だ。経済学者の共通認識として、スタグフレーションには2つの原因がある。供給ショック、そして財政政策ならびに通貨政策だ。

経済から特定の価格で商品やサービスを生産する能力を奪う事象が供給ショックと呼ばれる。例えば、パンデミックが始まって以来、次のような供給ショックが発生した。

  • 労働力 = 働く人の減少
  • 商品 = 例、パンデミック前から兆しのあった半導体不足
  • サービス = 例、手術をはじめとした医療行為の延期

また、財政や通貨政策における判断ミスもスタグフレーションを促す。「さまざまな要因がスタグフレーションにつながりますが、そのなかでも最も重要なのが通貨の過剰供給です」と語るのは、ウェルズ・ファーゴ社の取締役副社長兼主席エコノミストであるリチャード・J・デケイザー(Richard J. DeKaser)氏だ。

「例えば1970年代、連邦準備制度理事会(FRB)の議長であったアーサー・バーンズ(Arthur Burns)氏が物価の上昇に対して不釣り合いなほど簡単な通貨政策で対処したため、インフレが持続し、景気が大いに悪化したのです」と、デケイザー氏は説明する。 「現在閲覧できる記録から察するに、当時のバーンズ氏は政治的な圧力に屈したため、適切な通貨政策がとれなかったようです」

スタグフレーションが起こるとどうなる?

低い成長率、高い失業率、高速なインフレの3要素は経済にとって大きな圧力となる。

デケイザー氏はこう言う。

「高いインフレ率とインフレの不確実性が投資決断を歪めてしまうので、スタグフレーションは経済にとって間違いなく有害です。また、金利の上昇が債券価格を押し下げ、株式評価が下がるため、債券市場もダメージを受けます」

家計という点では、スタグフレーションの影響で収入が減る一方で、食料品、医療、住宅、あるいは消費財にいたるまで、ありとあらゆる支出が増えることになる。個人消費が鈍ると企業の収益が減るので、経済全体がさらに悪化する。

1970年代のスタグフレーション

1960年代の後半、第二次世界大戦後の経済ブームに陰りが見えはじめた。アメリカは国際競争が激化するなか製造業における雇用の減少やベトナム戦争への多大な支出などが重なり、失業率とインフレ率が上昇した。

1971年、当時のリチャード・ニクソン大統領が、良質な雇用の創出、インフレ対策、米ドルの保護を目的とした一連の政策を打ち出す。

  • 賃金と物価の90日間の凍結(固定化)
  • 輸入品に対する10%の関税
  • アメリカの金本位制からの離脱

のちに「ニクソンショック」と呼ばれることになるこれらの動きが、結果として1970年代のスタグフレーションを引き起こすきっかけとなった。FRBがスタグフレーションを抑えるためにとった通貨政策は事態を悪化させただけだった。

1971年から1978年まで、FRBはインフレ対策としてフェデラル・ファンド・レート(FFレート)を引き上げ、その後、今度は不況への対策として同レートを引き下げた。このちぐはぐな政策によって一般家庭や企業が混乱に陥り、インフレがさらに進んだのである。

だが、アメリカはさらに多くの困難を抱えていた。1973年に石油輸出国機構(OPEC)がアメリカへの石油の輸出を停止したため、物価が急騰したのだ。

企業はコストの増加分を消費者に転嫁したのみならず生産も減らし(そのため失業者も増えた)、供給ショックにより商品不足も発生した。1バレル当たりの原油価格が当初の2倍に、のちには4倍にまで膨れ上がったことでインフレがさらに加速し、すでにダメージを受けていたアメリカ経済をさらに圧迫した。

「1970年代からの一連の動きのなかで、最悪の経験となったのは、じつはそのあとの出来事です」と、デケイザー氏は言う。

「インフレの勢いを止めるために、深刻な不況(1981-82)を耐えなければならず、インフレ再燃の恐れを払拭するまで10年を超える年月が必要になりました。1990年代に入ってようやく、投資家たちは危機が去ったと心から安心したのです」

スタグフレーションにつながる2つのリスク

スタグフレーションは1970年代にアメリカに対して多大な影響を及ぼし、現在もパンデミックに起因する不況から経済が回復するに伴い、再発の懸念が高まりつつある。

経済の専門家は、成長率、失業率、インフレ率の動向に加え、供給難や中央銀行の政策など、スタグフレーションの引き金となる要因を注意深く観察している。専門家の多くは、特にエネルギー価格の高止まりを懸念材料として指摘している。

デケイザー氏はスタグフレーションの恐れはないと考え、現在のインフレを一時的なものとみなしているが、それでも今後スタグフレーションにつながりかねないリスクが2つあると言う。

「1つは、FRBがインフレを軽視しすぎて、過度な通貨供給を行う恐れがあること。もう1つは、一時的なインフレがあまりにも長く、たとえば2年以上続いた場合、インフレが景気予測に組み込まれて自動的に実現されてしまうことです」

[原文:What is stagflation? Understanding the economic phenomenon that stifled growth through the 1970s

(翻訳・長谷川圭/LIBER、編集・長田真)

※本記事は、2022年6月17日に初出した記事の再掲です。

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