「にじさんじ」のANYCOLORが売上高141億円、営業利益42億円。業績予想上回った上場後初決算を読み解く

ANYCOLORのIPO後初決算は、事前の業績予想を上回った。

ANYCOLORのIPO後初決算は、事前の業績予想を上回った。

「ANYCOLOR」事業計画及び成長可能性に関する事項より。

2Dや3Dのキャラクターをアバターに用い、ネット上で活動するバーチャルYouTuber(VTuber。バーチャルライバーとも呼ぶ)のプロジェクト「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)が6月14日、上場後初となる2022年4月期(2021年5月〜2022年4月)の通期決算を発表した。

売上高は前期比で85.5%増となる141億6400万円だった。営業利益は41億9100万円、経常利益は41億4900万円、当期純利益は27億9300万円と、いずれも前期比で約3倍に迫る好調。業績予想を上回った。

営業利益率は29.6%(前期比10.6pts増)、純利益率は19.7%(同7.4pts増)と利益率の高さが際立った。

なお、2023年4月期の業績予想では、売上高が190億円〜210億円と3割〜5割の増収を見込んでいる。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

(上)2022年4月期の業績(下)6月8日発表の2022年4月期業績予想。

(上)2022年4月期の業績(下)6月8日発表の2022年4月期業績予想。

出典:ANYCOLOR株式会社 2022年4月期決算短信、ANYCOLOR 東京証券取引所グロース市場上場に伴う決算情報等のお知らせ

ANYCOLORと「にじさんじ」とは何か?

ANYCOLORは、2017年に早稲田大学の学生だった田角陸氏が設立した「いちから株式会社」が前身のエンターテインメント企業だ。

当初は誰もがVTuberになれるスマートフォン向けアプリ「にじさんじアプリ」の事業を企図していたが、その宣伝のためにオーディションで採用したライバーの月ノ美兎(つきの・みと)さんら「にじさんじ1期生」が人気を博したことなどから、タレント事業の運営へシフトした。

現在では英語圏にも進出。韓国語、中国語で配信するライバーも活躍。2022年4月には「NIJISANJI ID」「NIJISANJI KR」が「にじさんじ」に統合された。公式サイトによると、現在ANYCOLORの下で活動するライバーは約150名

「にじさんじ」の歴史と魅力については、こちらの解説記事を参考にしてほしい。

ANYCOLORは6月8日、東証グロース市場にVTuberを本業とする企業として初めて上場。公募・売出価格(公開価格)は1530円だった。

業績予想の高さから上場初日は買い気配のまま売買が成立せず、上場2日目の6月9日午前に公開価格の約3倍となる4810円の初値をつけた。

14日時点の時価総額は約2009億円、予想PERは80.4倍。

以下、上場関連資料や決算説明資料、決算短信をもとに今期の決算内容を振り返る。

成長著しいANYCOLOR、その収益の柱は大きく4つに分けられる。

「ANYCOLOR」事業計画及び成長可能性に関する事項より。

ANYCOLORの収益の柱は4つ。

まずは、ホームグラウンドであるYouTubeで各ライバーが配信した際、視聴者から受け取る投げ銭「スーパーチャット」や月額コミュニティ(YouTubeメンバーシップなど)をはじめとする「ライブストリーミング」の売り上げだ。

2つ目は、公式のECサイト「にじさんじオフィシャルストア」などで販売されるオリジナルグッズなどコマース事業でのコンテンツの売り上げだ。

ライバーがデザインしたTシャツやマグカップをはじめとするグッズのほか、「ボイス」と呼ばれる音声コンテンツも人気。2月ならバレンタイン、12月ならクリスマスなど季節に応じたドラマCDのようなボイスコンテンツは根強い人気を誇る。

各ライバーの誕生日の前後には記念グッズも企画され、こちらも“推し活”のメインシーンの一つとなっている。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

3つ目は所属ライバーのコンサートなどのリアルの場でのイベント収益だ。

2019年1月の1期生出身・樋口楓(ひぐち・かえで)さんの1stライブ「KANA-DERO」、同年10月の「にじさんじ Music Festival 〜Powered by DMM music〜」、同年12月に両国国技館で開催された音楽イベント「Virtual to LIVE」などを皮切りに、ソロ・ユニットを問わずコンサートを実施している。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

近年ではアーティストとして、メジャーデビューを果たすライバーも増えている。10月には創業以来最大規模のイベント「にじさんじフェス2022」を幕張メッセで予定している。

4つ目がプロモーション。「案件」とも呼ばれ、企業の新商品やゲーム、サービスなどのPRやタイアップ、コラボなどで得られる収益だ。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

2021年には「ムヒ」などの虫さされ・かゆみ止めの「ムヒ」を販売する池田模範堂とのコラボ案件が広告賞「YouTube Works Awards」の「Small Budget, Big Results部門」を受賞している。

いずれにせよANYCOLORの決算を見ると、VTuberの活動領域の拡大とともに「エンタメ経済圏」も加速し、マネタイズの幅も広がったことが実感できる。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

2022年4月期はコマースやプロモーション領域が成長した。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

コマース領域では、「にじさんじ Anniversary Festival 2021」(2021年2月開催)のライブBlu-ray、ライバーの衣装・装飾品の一部をそのままのデザインでグッズ化することをコンセプトとした「そのまんまグッズ」を順次発売し、グッズ販売は「堅調に推移」(決算短信より)した。

イベント領域では、「にじさんじ AR STAGE“LIGHT UP TONES”」(2021年7月31日、8月1日開催)、「NIJIROCK NEXT BEAT」「initial step in NIJISANJI」(2021年10月)のほか、にじさんじでチャンネル登録者トップの131万人(6月14日現在)の葛葉(くずは)さんのソロイベント「Kuzuha Birthday Event 『Scarlet Invitation』」を開催。オンライン・オフラインを交えて精力的にイベントを開いた。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

ライブストリーミング領域では、所属ライバーが主導する企画が人気を得た。

決算短信では、2021年8月には舞元啓介(まいもと・けいすけ)さんが個人勢VTuberの天開司(てんかい・つかさ)さんと毎年共催している「パワプロ」シリーズを用いた「にじさんじ甲子園」、2021年の年末年始には竜胆尊(りんどう・みこと)さん主催で総勢58名のライバーが出演した「NJU歌謡祭」の開催を挙げた。

いずれも決算短信では「視聴者の皆様からはご好評をいただいております」と紹介している。

この他にも剣持刀也(けんもち・とうや)さん主催で4回目となる「マリオカートにじさんじ杯」、舞元啓介さん、ルイス・キャミーさんが主催する「にじさんじ麻雀杯」などの大型企画も続々と実施されている。

「にじさんじ」運営も公式チャンネルで、往年のテレビコンテンツを彷彿とさせるような番組を企画。

例えば、知られざる業界や工場見学、ものづくりなどをレポートする「にじさんじのB級バラエティ(仮)(隔週火曜日配信)は、MCの早瀬走(はやせ・そう)さんとイブラヒムさんが、ゲストとして登場するライバーたちと共に織りなす独特の空気感が人気だ。

今後、特に「高い成長性」を見込んでいるのは英語圏でのビジネスだ。

英語圏でもライバーの活動が広がり、海外VTuberビジネスにも注力。今後も「高い成長性」を見込んでいるという。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

一方で国内向けの事業と比較すると、英語圏でのビジネスはYouTubeで各ライバーが配信した際、視聴者から受け取る投げ銭「スーパーチャット」や月額コミュニティ(YouTubeメンバーシップなど)の収益であるライブストリーミング領域の比率が高い。

配信で獲得したファンを、いかに他の領域でのビジネスに広げられるかが今後問われることになりそうだ。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

通期業績の推移を見ると、増収増益で躍進ぶりが目立つ。

新型コロナ禍やウクライナ情勢の悪化、物価の高騰など景気の下振れ要因が多い中にあっても、堅調な業績だ。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

コロナ禍では「おうち時間」の増加により、VTuberを視聴する人も増えたようだ。

所属ライバーが増えたこともあるが、YouTubeでの配信や動画が視聴された時間も3期連続で増加している。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

売上高の半分近くを占めるコマース事業の土台となるのは、グッズやチケット購入に必要な「ANYCOLOR ID アカウント」だ。2022年4月期Q4時点の登録者は53万3000人。属性は男性40%、女性60%。世代別でみると20代が58%、10代が26%で10〜20代が8割超(84%)を占めている。

ただ、この属性はあくまで「ANYCOLOR ID」の登録者の内で属性を登録している人の内訳だ。各ライバーのYouTubeチャンネルの登録者や視聴者の属性データではないことは留意したい。

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

以下、決算データを簡単に紹介する。

四半期ごとの売上総利益の推移

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

・2022年4月期の売上総利益は約60億円、売上総利益率は42.2%。

・サービスミックスの変化等により、売上総利益率は変動。

・2022年4月期Q4は決算賞与の支払いの一部を売上原価に計上。

四半期ごとの販管費の内訳

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

2022年4月期通期の販管費は17億9400万円。

・2022年4月期Q4は決算賞与の支払いにより、一時的に人材関連費が増加。

四半期ごとの営業利益の推移

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

営業利益は41億9100万円(前期比2.9倍)。

・営業利益率は29.6%(同10.6pts増)。

・売上高の成長に伴い、収益率も改善した。

四半期ごとの従業員数の推移

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出典:ANYCOLOR決算説明資料

・2022年4月期Q4時点の従業員数は230人。

・内訳はコーポレート18人、エンジニア36人、デザイナー42人、ビジネス134人。

・2020年4月期Q1時点の従業員数は76人(コーポレート8人、エンジニア18人、デザイナー13人、ビジネス37人)だった。

※参考資料:

事業計画及び成長可能性に関する事項(2022年6月)

2022年4月期通期決算説明資料

2022年4月期決算短信〔日本基準〕(非連結)

(文・吉川慧

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