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ブロックチェーンに賭ける思想家の挑戦。「町内会DAO」実現するアプリ「Alga」とはなにか

『メタ国家』書影。

5月発売の『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』。著者の落合渉悟氏が提言する、DAOアプリを使った新しい民主主義とは。

撮影:西山里緒

2022年6月現在、ビットコインを始めとする仮想通貨は暴落が続いている。ビットコインは2021年11月につけた最高値(700万円超)からは6割も下落し、約1年半ぶりの安値をつけている。

しかし、そうした目先の利益に踊らされず、ブロックチェーンという技術が可能にする公正な社会のあり方に目を向けよう、と説く人物がいる。5月発売の書籍『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』の著者、落合渉悟氏だ。

落合氏は、自身が開発するDAO(分散型自律組織)アプリ「Alga」を使えば、不正がない公正な民主主義が実現できると主張する。

「Alga」が目指す世界とはなんなのか。本書で落合氏の対談相手として登場し、編集と執筆にも協力した、ITジャーナリストの星暁雄氏が解説する。

イーサリアム高速化に貢献した“思想家”

落合渉悟氏

『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』の著者、落合渉悟氏。

写真:(c) SAITO Izumi

5月発売の書籍『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』のメッセージは大胆だ。

この世界には問題が山積みだが、ブロックチェーン技術の助けを借りて少しずつ改善し、「戦争も貧困も搾取もない世界」を作り上げよう。本書はそのように呼びかける。本当にそんなことができるのか? 「できる!」と著者の落合渉悟氏は考えている。

落合氏は、有力なブロックチェーン技術「イーサリアム」の高速化技術に貢献した開発者の1人だ。定評ある技術書『マスタリング・イーサリアム』の翻訳・監修者の一人でもある。大阪大学大学院の特任研究員としてもブロックチェーンに取り組む。

ただし本書での落合氏の肩書きは技術者や研究者ではなく「思想家/人権ハクティビスト」だ。これは「思想と技術の助けを借りて社会に影響力を与え人権状況を改善する人」といった意味あいだ。

本書の中の「対談」コーナーで取り上げた話題の一つは、IT分野の最新動向として「人権」と巨大IT企業との衝突についてだ。

2019年に人権団体のアムネスティ・インターナショナルが「Googleとフェイスブックのビジネスモデルは大量監視と結びついており人権への脅威だ」と指摘する報告書を発表した。

巨大IT企業が力を持ちすぎた結果、人権の不可分な一部であるプライバシーを脅かしているとの批判が高まっている

テクノロジーが人権を脅かすのなら、人権を守るテクノロジーがあってもいいはずではないか?これが本書を読み解くヒントだ。

畑を耕しながらブロックチェーン開発に取り組む

Alga

スマホアプリ「Alga」は、町内会やマンションの管理組合、PTA ── といった身近な公共団体の運営を効率化・民主化するよう設計されている。

画像:Alga公式サイトより

ブロックチェーンやWeb3といえば、「要するにお金でしょ?投機でしょ?」といった見方がある。実際に日本の金融分野のエスタブリッシュメントの人々がこのような物の言い方をするのを目の当たりにしたことがある。だが、本書に記された構想は、投機やマネーゲームからはるかに遠い地点にあると断言できる。

なにしろ落合氏は佐賀県嬉野市の古民家に住み、2年分の食料を備蓄しながら畑を耕す生活を送っているのだ。本人いわく「“冬の時代”でも仕事を続けられるように」そうしたライフスタイルを選んだそうだ。

穀倉地帯であるウクライナの戦争の影響で食糧不足が発生しようが、日本経済が極端な不景気に落ち込もうが、そして暗号通貨(あるいは暗号資産、仮想通貨)の相場が暴落しようが、ブロックチェーンでこの社会を改善し続ける覚悟を固めているのだ。

そのために、落合氏はスマートフォンから誰でも利用できる「Alga」と呼ばれるブロックチェーンを応用したデジタルツールの開発に心血を注いでいる(※)。

(※)記事執筆時点でAlgaは開発段階。特定のコミュニティで早期利用したいニーズがあれば運用を開始できる状態という。落合氏らは開発者を2名雇用し、ブロックチェーン関連の受託開発や教育で売り上げを確保しつつ、Algaに長期的に取り組む体勢を固めつつある。

Algaはマイクロパブリック、つまり「小さな公共圏」をデジタル技術で運営するツールだ。 例えば町内会、マンションの管理組合、PTA ── といった身近な公共団体の運営を効率化、透明化、低コスト化、民主化するよう設計されている。

Algaというツールを活用して、町内会をDAO(ブロックチェーンを活用した分散自立型組織)として運用し、町内会費の使い道をみんなで公正に民主的に決め、公正に執行する使い方を提案する。既存の制度、法律、習慣の枠組みの中で、民主主義に基づく小さな公共圏をデジタルツールの力を借りて作ろうというのだ。

さらに、難民キャンプのような緊急事態に対応する公共圏の自治を迅速に立ち上げ、募金を集めて活用するために使うこともできる。

藻の群体のように、世界を変えていく

単細胞性緑藻

藻が繁殖していくように、少しずつ世界を変えていくことを目指して「Alga」は開発されている。

Shutterstock / Ye.Maltsev

本書の提案は「読者の住む町からAlgaを使い始めよう」という現実的なものだ。

Algaはラテン語で「藻の群体」。小さな生き物が巨大な群体を作るように、「小さな公共圏」がたくさん集まってネットワークを作っていく。最終的には世界規模まで拡大できる。既存の国家と並んで存在する小さな公共圏の集まりが「メタ国家」だ。

Algaの背後にあるのは「熟議民主主義」という政治学上のアイデアだ。本書には、熟議民主主義を提案した米国の政治学者ベンジャミン・バーバーの著書『ストロング・デモクラシー』の影響がある(※)。

(※)本書の範囲からは外れるが、米スタンフォード大学の政治学者ジェイムズ・フィシュキンは熟議民主主義を応用した討論型世論調査と呼ぶ調査手法を提案している。日本、チリ、カナダ、米国など複数の国で政策へのインプットとして使われた実績がある。

熟議民主主義のアイデアの中核は、市民から公平な抽選により「熟議できる人数(たとえば30人)」の代議員を選び、熟議を経て投票で結論を出すことだ。熟議に有効なインプットを与えるため、複数の専門家によるレクチャーを実施する。また、熟議を有効に機能させるため、ファシリテーターが議論を整理、進行する。

このようなやり方により、エリートの専制でもなく、権力を持つ有力者のごり押しでもなく、プロパガンダに左右されるポピュリズムでもない、熟議に基づく民意を反映した民主主義を実現しようとする

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