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- バイオテクノロジー企業を対象とした調査によると、80%近くの企業が、ダイバーシティの確保は優先事項だと答えた。
- しかし、この業界の幹部やCEOは、依然として圧倒的に白人男性が多い。
- 専門家は、臨床試験、CEO自身の取り組み、給与の公平性についての改革が不可欠だと述べている。
「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包括性)」が企業経営を成功させる上での重要な原則であることは、2022年においてはもはや目新しいことではない。マッキンゼーやハーバード・ビジネス・レビューの報告書では、多様な労働力を持つ企業ほど収益性が高いことが示されている。
しかし、バイオテクノロジー業界では、業界団体BIOと非営利シンクタンクCoqualの新たな調査によるとまだ改善の余地が多いようだ。2022年6月13日、両団体はバイオテクノロジー企業99社を対象に実施したダイバーシティに関する調査の結果を取りまとめ、第3回年次報告書を発表した。
それによると、バイオテクノロジー企業の従業員の半数は女性であり、42%の企業が非白人の役員を増やしたと回答しているなど心強い結果が見られた。しかし、業界の上層部は依然として同じような顔ぶれだ。バイオテクノロジー企業のCEOの80%近くは男性で、70%が白人だ。
Insiderが2021年に発表した分析によると、ダイバーシティが欠如した経営陣は、バイオテクノロジーと製薬業界の女性に年間約5億3200万ドル(約720億円)の損失を与えているという。
しかし、解決策もある。サンディエゴで開催された2022年BIOカンファレンスでは、バイオテクノロジー企業の幹部が、社内のダイバーシティを高め、従業員に自信を持たせるために企業が講じるべき3つの具体的なステップを提示した。
臨床試験でもダイバーシティを高める
バイオベンチャーのジェネンテック(Genentech)でPatient Inclusion and Health Equity部門のトップを務めるベロニカ・サンドバル(Veronica Sandoval)によると、バイオテクノロジー企業は労働者だけでなく患者のことも考える必要があり、臨床試験にはより多様な被験者を採用する必要があるという。
「現在我々が採用している被験者は、治療したい患者を代表していない」
これは、最近、アメリカ食品医薬品局(FDA)が述べた意見でもある。同局は4月、医用生体工学の研究におけるダイバーシティを高めるためのガイダンス案を発表した。
サンドバルによると、企業は大学病院で臨床試験の被験者を募集することが多く、その結果、被験者の90%以上が白人になってしまうという。そこで彼女は、コミュニティセンターで被験者を募集し、参加する人に報酬を与えることを提案した。
多様な被験者を採用することは、ジェネンテックが採用プロセスをより迅速に進めることにもつながった。 多発性硬化症の研究のためにラテン系と黒人の被験者だけを採用した研究では、通常より2カ月早く被験者の登録が完了したという。
CEOが取り組みの責任を負う
調査対象となったバイオテクノロジー企業の80%近くが、従業員のダイバーシティを保つ採用を行うことを優先事項としている一方で、CEOの評価や報酬が「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の指標と関連していると答えた企業はわずか11%にとどまった。
「リーダーの評価項目に『ダイバーシティ』を加えることは、明確なメッセージになる。つまり、昇進するためにはあらゆるバックグラウンドの従業員を率いる能力が必要だということだ」とBIOの報告書に記されている。
トラベア・セラピューティクス(Travere Therapeutics)のエリック・デューブ(Eric Dube)社長兼CEOによると、経営者や取締役会はダイバーシティについて話すだけでなく、それを評価することが不可欠であり、また、すべての企業幹部は、社内のダイバーシティとインクルージョンにどのように取り組むかについて、明確な目標を持つべきだという。
「従業員は、間違いなくあなたの沈黙に耳を傾けている。彼らは会社や業界にとどまるべきか、行動で示すだろう」
給与の不公平に対処する
企業内のダイバーシティを推進する上で、最も大きな違いを生む要因が「給与の公平性」だという指摘もある。
Coqualのマネージング・ディレクターであるジョーティ・アガーワル(Jyoti Agarwal)は、「我々の調査研究の多くが、給与を公平にしなければ、他の多くのDE&I(多様性・公平性・包括性)の取り組みが無駄になることを示している」と言う。
調査に回答した企業のうち、「給与の公平性の分析を行っている」と答えたのは61%、「給与の公平性を確保するための措置を講じている」と答えたのは58%にとどまった。Coqualによれば、こうした分析は職場における公平性の認識と結びついているため、より多くの企業が実施すべきだとしている。
「もし今、何も対策をしていない組織が一番やるべきことは何かと言えば、給与の公平性を確保することだ」とアガーワルは述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)