6月13日に「弱気相場入り」が確認された米株式市場。先行きの不透明さに投資家たちが動揺するなか、米金融大手モルガン・スタンレーはさらなる株価下落を予想する。
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株式市場は週明けの6月13日、14日と5営業日続落、とりわけ13日はS&P500種株価指数が1月3日につけた最高値4794を20%以上下回る3749を記録し(いずれも終値ベース)、弱気相場入りが確認された。
モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト兼最高投資責任者(CIO)マイク・ウィルソンによれば、事態は悪化の一途をたどっている模様だ。
ウィルソンは最近の顧客向けレポート(6月12日、13日付)で、S&P500種指数の底値について、13日の終値をさらに9%程度下回る3400前後と予想している。市場は企業の業績下振れリスクをまだ十分に織り込んでいないというのがその理由だ。
ウィルソンは株式リスクプレミアム(ERP)の現在の水準をその証左として挙げる。
ERPは、リスク資産である株式の期待リターン(=配当利回りと業績をベースに予想される株価上昇率)から、元本が保証された無リスク資産である米10年物国債の利回りを差し引いて求める指標で、現在、米国株のERPは3%前後で推移している。
景気の減速時、投資家は安全資産とされる米国債になだれ込み(したがって国債利回りは低下)、高リスクの株式を手放そうとするので、ERPは上昇するのが普通だ。
ところが、10年物米国債の利回りはここ数カ月、インフレ(とその抑制を企図する金融当局の引き締め)の影響によりかなり高い水準で推移しており、その分ERPの上昇も抑え込まれている。
「2021年末時点のERPは3.15%と過去15年の平均を大きく下回り、当時の当社予想である3.35%よりも低い数字でした。要するに、当社が以前から警鐘を鳴らしてきた(2022年の)成長リスクの高まりが反映されていなかったのです。
ERPは年初来さらに低下を続け、現時点で2.95%。国内総生産(GDP)成長率の鈍化リスクおよび企業業績の低下リスクの高まりを考えればPERは本来上昇するはずで、その意味では、株価収益率(P/E)の水準とのズレは6カ月前より大きく見えます」
【図表1】上段はS&P500種の株価収益率(P/E)の推移、下段は同リスクプレミアム(ERP)の推移。2021年末から2022年にかけて(右端)、P/Eは適正価値(赤線)に近づいているのに対し、ERPは低水準のまま。
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ウィルソンの予測によれば、ERPは企業業績の低下が判明するまでは5%前後が合理的で、その後は3.7%程度まで低下するという。
「今後12カ月間、景気後退入りは回避されるとした場合(現時点でもそれが当社エコノミストの予想する基本シナリオ)、企業の業績は市場コンセンサスより3〜5%低い水準にとどまり、10年物米国債の利回りは3%、ERPは3.7%と予測され、それらを踏まえれば、S&P500種指数の当社従来予想3400は依然として信頼に足る数字と考えられます」
「こうした予測は、1株あたり利益(EPS)なら230ドル、それに基づく株価収益率(P/E)で約15倍に相当します。また、200週移動平均線、パンデミック発生前の高値、新型コロナワクチン発表後のブレークアウトポイントなど、テクニカル分析が示すトレンドにも合致するものです」
ウィルソンの企業業績に対するネガティブな予測の裏づけになっているのは、冷え込む消費者心理データだ。
6月10日に発表されたミシガン大学消費者態度指数は2カ月連続の低下、統計開始以来の最低記録を更新した。同指数の期待(1年後)インフレ率も40年ぶりの高水準を記録している。
ミシガン大学消費者態度指数……アメリカの消費者心理を表す経済指標で、ミシガン大学のサーベイ・リサーチセンターが毎月発表。300~500人を対象とするアンケート調査の結果で、1966年を100として指数化される。
消費者心理の悪化は家計の消費支出引き締めに帰結するため、企業の収益にとっては不安材料となる。
また、超タカ派的な米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策も需要の重しになっていくと思われる。
最近の市場予想を上回る消費者物価指数の伸び(5月は前年同月比8.6%上昇)を受け、6月15〜16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で異例の0.75%利上げを決定。これが消費者の行動にどんな変化をもたらすか注目される。
短期的に資金を投じるべき3分野
ウィルソンはS&P500種指数の短期見通しを弱気とするものの、株式市場の特定の3分野については良好な見通しと評価する。
うち2分野はエネルギー銘柄と、公益事業や食料などのディフェンシブ銘柄。
ウィルソンによれば、(リターンが低下しボラティリティが高まる傾向にある)景気サイクル後期に好パフォーマンスを発揮する。エネルギーや食料などはその必需品としての性格から、消費者需要低下の影響を受けにくいというのがその理由だ。
残る1分野は、「経営効率の高い」企業、言い換えれば収益率の高い銘柄。
「現時点で株式にとって一番のリスクは成長を実現できるかどうかであり、どの企業も乗り切るのがきわめて難しい環境に置かれるなかで、それでも業績を伸ばせる銘柄に引き続き注目していくことになります。
端的に言えば、2022年下半期も厳しい相場のなかで銘柄を選別する年になるということです」
上記3分野へのエクスポージャー(=資産を特定のリスクにさらす割合)を取る投資家は、「エネルギー・セレクト・セクターSPDRファンド」「インベスコ・ディフェンシブ・エクイティETF」「インベスコS&P500クオリティETF」といった上場投資信託(ETF)が選択肢になる。
(翻訳・編集:川村力)