最新のグローバル調査で浮き彫りになったのは、日本のジェンダー格差に対する認識の甘さだった。
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STEM分野での深刻なジェンダー格差が話題になることも多い昨今。一方、最新の調査では日本の現状と、その認識に大きな乖離があることが分かった。
STEM分野への女性へのサポートは十分?
出典:2022年6月14日に公表されたスリーエム「State of Science Index」
調査を行なったのはアメリカの工業製品大手、スリーエム(3M)だ。2021年にアメリカ、イギリス、ブラジル、中国、シンガポールなど17カ国で、各国の18歳以上1000人を対象に、科学に対する意識を調べた。
中でも顕著だったのは、日本のSTEM(科学・技術・工学・数学)分野のジェンダーギャップに対する意識の薄さだ。
学生たちが質の高いSTEM教育を受ける障壁になっているものとして、「STEM分野を目指す女子学生に対する偏見」を選択した人はわずか1割と、調査国中で最も低かった。
また「女性がSTEM教育に取り組むことを奨励して維持するためには、より多くの問題に取り組む必要がある」ことに「同意しない」人は23%(グローバル平均16%)、「女性は十分なサポートが受けられないために、STEM分野の仕事を離職している」ことに「同意しない」人は44%(グローバル平均34%)と、いずれも調査国の中で高い数値だった。
そもそも「STEM分野ではジェンダー格差がある」と回答した人は約4割にとどまった。
女性がいないのは「たまたま」か
出典:スリーエム「State of Science Index」
他にも、STEM関連の職種に従事することを考えたものの最終的に違う仕事に就いた人のうち、「自分はSTEMを追求するほど優秀ではないと思っている、またはそう思っていた」を理由として挙げた人の割合が4割と、調査国の中で最も高かった。
今回の調査結果、つまり意識と実情の間には大きな乖離がある。経済協力開発機構(OECD)が2021年9月に公表した調査では、2019年に大学などの高等教育機関に入学した学生のSTEM分野に占める女性の割合が、日本は工学系16%、自然科学系27%と36カ国中で最下位だった。
こうした現状の背景にはジェンダーバイアスがあると多くの人が指摘してきたが、改善への道のりは長そうだ。
無意識の偏見をなくすには、正しい現状認識が必要だ(写真はイメージです)。
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STEAM教育のプロジェクトやワークショップを手がけるsteAmの中島さち子CEOは言う。
「日本では悪気のない『無意識のバイアス』がまだまだあると思います。それはいまだに数が少ない女性やジェンダーマイノリティの心身に負担を及ぼしたり、誰も望まないハラスメントを引き起こし、結果として大好きな研究や生き方を諦めざるえない結果になっていることがあります」
STEM分野における女性のロールモデルの少なさが問題になることも多いが、関連イベントやコンテストではジェンダーバランスが悪いことも少なくない。そもそもアンバランスであることに気づいていなかったり問題視していなかったり、「『たまたま女性がいなかった』という言い訳が繰り返されている状況」だという。
無意識の偏見や思い込みを排除するためには、今ある格差を受け止めることが欠かせない。この現実に社会全体で向き合うべきだろう。
(文・竹下郁子)