テック業界の巨人たちにとって最有望の収入源とされてきたクラウドビジネスにも、迫り来る景気後退の魔の手が……。
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米調査会社イピットデータ(YipitData)の最新調査によると、企業各社がアマゾン(Amazon)、マイクロソフト(Microsoft)、グーグル(Google)のクラウドプラットフォーム大手3社に払った4月の利用料金が前期比でマイナスとなった。
景気後退入りの可能性が高まるなか、クラウドコストに企業の注目が集まっている。
クラウドサービスの利用料金は企業によって大きく異なり、少ないと月数千ドル、民泊仲介大手エアビーアンドビー(Airbnb)や写真・動画共有アプリ「スナップチャット(Snapchat)」運営のスナップ(Snap)など巨大企業の場合は月数百万ドルにもなる。
米暗号資産(仮想通貨)取引所最大手コインベース(Coinbase)は全従業員の18%を削減する計画を明らかにしているが、米テクノロジー専門メディアのインフォメーション(The Information)によると、さらに踏み込んだコストカット策として、アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)への支出削減を計画しているという。
前出イピットデータのダニエル・カッツは、減収の規模感はそれぞれに異なるものの、クラウドプラットフォーム大手3社いずれも利用料金の収入減に直面していると指摘する。
米調査会社ガートナー(Gartner)による最新の試算によれば、クラウド市場のシェアは、首位がAWSで38.9%。マイクロソフト「アジュール(Azure)」が21.2%で続き、3位がグーグルクラウド(Google Cloud)で7.1%。
イピットデータの調査によれば、4月の料金収入はAWSが約4ポイント、アジュールが2ポイント、グーグルクラウドが8ポイント、それぞれ減少したという。
減少幅がドル換算でいくらになるのかは明らかにされていないが、各社とも1ポイントは数百万ドルに相当するとみられる。
上記の分析は、AWS、アジュール、グーグルクラウドの3社が顧客(年間売上高10億ドル以上の大企業)宛てに発行した総額約50億ドルのインボイス(請求書)に基づく。インボイスは、企業のクラウドコスト最適化を支援するサードパーティから提供を受けたものという。
こうしたトレンドは2021年にクラウドサービスへの支出額が力強い伸びを示したことと関連する面があり、とりわけクラウドプラットフォーム大手3社がパンデミックを追い風に大きな成長を遂げたことを考えれば、ここに来ての減速は注目に値する変化だとイピットデータのカッツは強調する。
「厳しいマクロ環境のなかで、多くのテック企業がコスト削減に着手しており、それは潜在的にクラウド移行のような企業としての新たな取り組みを対象とした支出削減につながる可能性もあります」
実際、昨今の景気低迷は、過去2年間で猛烈な成長を遂げたテック業界に大きなダメージをもたらしてきた。すでに多くのテック企業がレイオフ(一時解雇)や採用活動の凍結に乗り出し、スタートアップへの投資にも枯渇の兆しが見られる。
とは言え、こうしたコスト削減が本当にクラウド市場にまでネガティブな影響を及ぼすかどうかは議論の余地があるところだ。
ガートナーのバイスプレジデント兼アナリスト(クラウドインフラ担当)ラジ・バラはInsiderの取材に対し、大企業が揃ってクラウドサービスへの支出を減らす事態はほとんど考えられないと指摘する。
すべてではないにせよ、多くの大企業は長期契約を結んでいる(ので途中解約や変更は容易ではない)というのがその理由だ。中小企業は使用量に応じた料金支払いが一般的だが、大企業に対してはクラウドプロバイダーのほうから長期契約を促すケースが多い。
「クラウドサービスに(収益に影響を及ぼすような)相当額の支出を行うほとんどの企業は、支払額の水準がある程度固定される複数年契約を結んでいて、マクロ環境とは無関係に一定の支出に縛られます」
しかし、そうした慣行は必ずしも長く続くものではないと、米ベンチャーキャピタル大手アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)ゼネラルパートナーのマーティン・カサードは指摘する。
カサードは2021年5月、同社ゼネラルパートナーのサラ・ワンとの連名で、パブリックソフトウェア企業にとってクラウドの大規模運用がインフラコストを倍増させるとの趣旨のブログ記事を発表し、大きな話題を呼んだ。
最近もInsiderの取材に応じ、「フリーキャッシュフローや利益率などの経営指標が格段に重要視される状況になったいま」、2021年に上述のブログ記事を公開した当時よりクラウド支出のコストはさらに高くつくことになるかもしれないと語っている。
「年初来の景気低迷を受けて、クラウドコストの問題はより深刻になったと考えています。クラウド関連(の支出)には常に監視の目が光っている状況です」
そうした状況変化のなかで、AWSのようなクラウドプロバイダーに管理をまかせきりにせず、ITインフラを社内に引き取る選択をする企業も増えてきているとカサードは指摘する。
「大企業はクラウドコストをきわめて、きわめて深刻な問題と認識し、社内で非常に積極的な対策に乗り出しています。企業によって問題の深刻さは異なり、特に積極的なところは、インフラの自社構築まで含めた対策を進めているのです」
ここまで紹介してきたような急激な状況変化は、アナリストらがデジタルトランスフォーメーション(DX)の「黄金時代」と呼んだパンデミック期の寵児とも言えるアマゾン、マイクロソフト、グーグルのクラウドビジネスに、何らかの予想もしない影響を及ぼす可能性がある。
「厳しい環境、とりわけ現在のようなインフレ圧力のもとでは、より大きなコスト削減圧力が働く可能性があります。そしてそれは各社のクラウドインフラに間違いなく何かしらの影響を及ぼすでしょう」(カッツ)
(翻訳・編集:川村力)