Marianne Ayala/Insider
ピーク価格で仮想通貨を購入した仮想通貨愛好家にとって、2021年後半の仮想通貨市場は非常に強気に映った。多くの仮想通貨インフルエンサーやファンドマネジャーは、2021年第4四半期から2022年第1四半期にかけて、ビットコイン価格が6桁(ドル単位)に達すると呼びかけていた。
しかし、2021年末近くになると、ビットコインが11月のピークから下落し始めた。インフレの影響でFRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和政策を終わらせる可能性があるとの観測が広がると、「6桁」などという大それた予想は実現しないことが明らかになった。
FRBは2022年5月4日に2度目の利上げを発表したが、投資家はリスクの高い資産をすぐに手放すことができなかった。その後、株式市場は急落し、ビットコインは1週間で27%も暴落した。
1カ月以上経った今でも救済の兆しはなく、ビットコインの価格はピークから半分以上下落した。この惨状はビットコインにとどまらず、テラ・ルナ(LUNC/LUNA:ピークから98%下落)、チェーンリンク(LINK:ピークから73%下落)、ソラナ(SOL:ピークから84%下落)など、インフルエンサーが投資家に購入を勧めたさまざまなアルトコインにも波及した。
実際、インベスコ(Invesco)でアセット・アロケーション・リサーチのグローバルヘッドを務めるポール・ジャクソン(Paul Jackson)など一部の専門家は、仮想通貨の“冬”どころか、価格が何年も低迷する“氷河期”に入ったとみている。
Insiderは、4人の仮想通貨インフルエンサーにインタビューを行い、彼らが今回の事態にどう対処したか、急落を予想していたか、この低迷期に何をしているかなどを尋ねた。
エイドリアン・ザンクチック(ザ・バーブ・ネスト創業者兼CEO)
「完全に油断していた」と振り返るエイドリアン・ザンクチック。損失は6桁半ばだという。
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「完全に油断してましたね。手持ちのポートフォリオもいくつか打撃を受けました」
そう振り返るのは、「@crypto_birb」というTwitterアカウントで66万人のフォロワーを持つ暗号テクニカルアナリスト、エイドリアン・ザンクチック(Adrian Zduńczyk)だ。ザンクチックは定期的に仮想通貨チャートをツイートし、値動きを分析するためのシグナルを共有している。
2021年11月にInsiderが取材した際には、ザンクチックは2つのビットコイン価格目標を示していた。目先の目標価格を7万ドル(約938万円、1ドル=134円で換算)としており、実際ビットコイン価格は取材の数日後にその価格にまで近づいた。そして、最終的には12万ドル(約1608万円)まで到達して強気相場を終えるだろうとザンクチックは予想していた。
また、イーサー、ライトコイン、チェーンリンク、ポルカドット、ソラナ、カルダノ、ポリゴンといった大型の仮想通貨は、過去のパターンに基づいてビットコインの値動きに追従すると予想していた。しかし、これらは現在76〜86%下落している。
では、なぜ油断したのだろうか。ザンクチックはその理由を、市場に売り圧力をかけた世界的な出来事が急展開したせいだと考えている。中国の巨大デベロッパー恒大集団のデフォルトに始まり、金利の引き上げ、そしてウクライナ戦争。これらによって下落のスパイラルが始まったと彼は考えている。
ザンクチックはInsiderの取材に対し、損失は6桁半ばだと明かした。しかし、長期的な展望に基づいて賭けを行ったので、どちらにしてもポジションを持ち続けるという。
一方で、ザンクチックはビットコイン、イーサリアム、ライトコインの価格が下がっている間にさらに買い増すつもりだという。
ジョン・バスケス(仮想通貨教育者・投資家)
ジョン・ヴァスキーズの仮想通貨ポートフォリオは約70%下落した。
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「強気相場を予想していたんですけどね。上がるだろうと読んでいたので、下がるのを見たときはショックでした」
TikTokで100万人以上のフォロワーを集める暗号インフルエンサー、「コーチJV」ことジョン・ヴァスキーズ(John Vasquez)はそう語る。
ヴァスキーズが上昇相場で選んだ仮想通貨は、イーサ、XRP、ヴィチェーン、クリプト・ドット・コム、ディセントラランドなどだ。これらのアルトコインは現在64〜88%下落している。
暗号投資家になる前は銀行員だったヴァスキーズは、インフレ、金利上昇、ウクライナ戦争などの要因から世界経済が悪化していることに気づいた。
ヴァスキーズの仮想通貨ポートフォリオは約70%下落しているが、冷静に投資を続けているという。彼は、コーチングアカデミーやジム、その他投資している小規模なビジネスなど、複数の収入源を持っている。
「私がパニックになっていないのは、投資に使っている元手が退職金ではなく、仮想通貨だからです。退職後の生活と投資を混同することはしません。これをやってしまう人がいるんですが、絶対にNGです」とヴァスキーズは語る。
ヴァスキーズは、市場が上昇している間、定期的に仮想通貨ポートフォリオから利益を引き出し、他の資産に再投資したという。銀などのコモディティと、インデックス型ユニバーサル生命保険の一種である保険プラン、特にS&P500に固定され、年利0〜10%で管理された商品に投資している。
「自分の仮想通貨ポートフォリオを生活の糧にしたことはありません。価格が上がって成績がいいときはもちろん利益を確定させますが、その利益は別の資産に入れて確保しています」とヴァスキーズは言う。
ヴァスキーズは自らの仮想通貨ポートフォリオについて、強いファンダメンタルズを持ち、今の下げ相場を生き残ると信じる仮想通貨を下落局面で買い続けている。
ヴァスキーズはInsiderの取材に対し、暗号の「ウォーレン・バフェット式」投資戦略を開発したと語った。つまり、これらの仮想通貨によって解決されること、その有用性、運用チームなどのファンダメンタルズに賭けているのだ。
ブレンダ・ジェントリー
ブレンダ・ジェントリーはDeFi投資に注力している。
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「ルナの暴落には油断していましたが、下降トレンドは覚悟していました」と語るのはブレンダ・ジェントリー(Brenda Gentry)だ。
ジェントリーはもともと住宅ローンの査定員だったが、それまでの“9時5時”の勤務をやめて、仮想通貨投資をフルタイムで行うことを決意。特に分散型金融(DeFi)プロジェクトに積極的に投資している。
「クリプトマム(@MsCryptomom1)」ことジェントリーは、Twitter上では頻繁にNFT、DeFiなどについて話すスペースに参加している。彼女の目標の1つは、家族全員に仮想通貨投資を教え、実践させること。この先の深い急降下と長い冬に備えることもそのプロセスの一環だ。
「数カ月はあまり良くない時期が続くから、トークンが80%ダウンするかもしれないよ、と家族に言っておいたんです。強気相場の時に家族に仮想通貨を勧めておいて、弱気相場になったらどうしていいか分からない、なんて人にはなりたくなかった」
ジェントリーはイーサーで生計を立てており、コンサルタントとしてプロジェクトで報酬を得たり、ポジションを反転させて利益を得たりしている。
タイミングも心得ている。イーサーが4000ドル(約53万6000円)前後で取引されていた時点で友人がNFT作品「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」を売っていると聞き、ジェントリーは2021年12月にイーサーを売り始めた。
「なんで今売るの?と彼に聞いたら、『ここが当面のピークだから』って。私はいつも彼のシグナルに従うことにしているので、その時点で少し売って、流動性(訳注:現金ポジション)を高めたんです」とジェントリーは語る。
ジェントリーのイーサーの大部分は現在、ドルに対する価値を保持できるUSDコインやテザー(tether)などのステーブルコインに預けられている。
今ジェントリーは、娘たちとともに、ブロックチェーンベースのプロジェクトのマーケティング会社であるジェントリー・メディア(Gentry Media)で働いている。数カ月間の契約があるので、今のところ安定収入が得られているという。ちなみに、夫も政府職員として6桁の収入を得ており、家計を支えている。
イアン・バリーナ(トークンメトリクス創設者)
トークンメトリクスのイアン・バリーナ。個人的に運用しているポートフォリオに打撃を受けた。
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人工知能を利用した暗号研究プラットフォーム「トークンメトリクス(Token Metrics)」の創設者であるイアン・バリーナ(Ian Balina)は、強気相場が続かなかったのを目の当たりにしても、一部の同業者ほどは驚かなかったという。
「予想の範囲内です。トークンメトリクスでは、2021年11月に我々のモデルが弱気に転じました。ですからそれ以来、私たち(のプラットフォーム)は正式に弱気相場に入っていたと言えます」
バリーナが明かしたところでは、個人的に運用しているポートフォリオは約80%下落しているという。しかし、バリュー投資家である彼は強気相場の時に売ることにしているため、2021年の9月と11月に利益を確定させた。
バリーナは以前、テラ・ルナは弱気市場を乗り切るだろうと考えており、2022年3月にInsiderが取材した際もそう話していた。当時ルナは仮想通貨トップ10に入っていたため、懸念する人もほとんどいなかったという。
しかし2022年4月上旬には、トークンメトリクスの主力AI指標がルナの売りシグナルを示すようになった。ルナが暴落したのはそれから約1カ月後の5月4日のことだった。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)