研究者はミイラ化したイタリア人貴族の遺体を調査した。この男性は1586年、胆石による胆嚢炎のために死亡したと考えられている。
Division of Paleopathology of the University of Pisa
- 研究者たちが1586年に亡くなったイタリア人貴族から、大腸菌の遺伝情報を復元した。
- 大腸菌は人間や動物の腸内に普通に存在するが、病気の原因となる菌株もある。
- 今回の研究によって大腸菌の進化の仕方の解明につながることが期待されている。
大腸菌(Escherichia coli)は19世紀に発見されて以来、最も研究の進んだ細菌の1つだが、研究者はその進化の過程をまだ理解し始めたばかりだ。
今回、科学者らは初めて、イタリア人のミイラから400年前の大腸菌の遺伝情報を抽出した。
2022年6月16日、Communications Biologyで発表された研究は、国際研究チームがルネサンス時代のミイラ化したイタリア人貴族の遺体を分析したものだ。遺体は1983年にイタリアのナポリで他の貴族とともに発見されたもので保存状態が良かった。ジオバニ・ダバロス(Giovani d'Avalo、それがこの人物の名だ)は1586年に48歳で亡くなった。死因は胆石による胆嚢炎と考えられている。
「この太古の大腸菌を分析できることにとても感動した」と研究に協力したフランスのチームを率いたエリック・デナムール(Erick Denamur)は声明で述べた。ゲノムは独特だったが、進化に関しては現在でも胆石の原因となる細菌と似ているとデナムールは述べた。
研究の共同著者、ジョージ・ロングはミイラ化した遺体から大腸菌の遺伝情報を抽出して復元した。
McMaster University
ほとんどの大腸菌の無害だが、中には深刻な感染症を引き起こし、人間を病気するものもある。一方で、皮膚に赤い斑点が出るなどの外的兆候を伴う天然痘とは違い、大腸菌による感染症の特徴は胃腸の疾患で、目に見えるものではない。
「これらの遺体を調査した際、この男性が大腸菌に感染していたと言える証拠はどこにもなかった」と、マクマスター大学(McMaster University)の大学院生で、この新たな研究の筆頭著者である、ジョージ・ロング(George Long)は記者会見で述べた。
「誰もそれが何なのか分からなかった」
着色された大腸菌の電子顕微鏡画像。2006年。
Janice Haney Carr/CDC via AP
「我々は(大腸菌が)日和見病原菌であったことを確認し、そのゲノムの機能を掘り下げて、他の病原体の研究者の助けとなるガイドラインを提供することができた」とロングは述べた。
ロングとそのチームは、現代の大腸菌の祖先のゲノムを理解することで、大腸菌が時とともにどのように進化してきたのか、未来の科学者が解明できるようになることを期待している。
[原文:Biologists reconstruct ancient genome of E. coli bacteria from the gallstone of a 16th century mummy]
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)