ツイッター(Twitter)買収合意後、初めて同社の従業員集会に参加したテスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク。画像は5月2日、ニューヨークでのイベント参加時の撮影。
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イーロン・マスクは6月16日、ツイッター(Twitter)の従業員総会にオンラインで参加した。
レイオフ(一時解雇)の可能性から宇宙人の存在、最高経営責任者(CEO)就任の意思の有無、経営権掌握後の見通しまで、従業員からの自由な質問に応じて持論を展開した。
総会の司会役はツイッター最高マーケティング責任者(CMO)のレスリー・バーランドが務めた。
マスクは従業員との対話の冒頭、ツイッターを心から愛していること、それゆえに同社を買収したいと考えていることをあらためて強調した。
Insiderは総会当日の録音を直接確認した。
実際どのようにツイッターを買収しようとしているのか、具体的なプロセスについて新しい情報はマスクの口から語られなかった。
従業員からの質問は主に、ツイッターの今後に関するプラン、プロダクトやビジネスの方針転換、言論の自由に関する見解などに集中した。
マスクは1時間あまりにわたって、さまざまのテーマについて長々と見解を述べた。質問に応じて答えた内容もあれば、自ら語りだした内容もあった。
以下では、総会におけるマスクの発言をポイントごとに紹介しよう。
【要点1】レイオフの可能性はある
レイオフ(一時解雇)について質問を受けたマスクは、言葉を濁さず、まずはツイッターの収益が支出を下回っている現状を指摘した。
「決して素晴らしい状況ではない。会社の体質を健全化し、収益がコストを上回る状況にもっていく必要がある。そうでなかったらツイッターは単に存続できないか、もしくは成長できないかだ」
さらに、従業員、経営幹部を問わず懸念の広がっているレイオフについては、「会社を救う」ための取り組みとして可能性があることを示唆した。
「私はただ破壊することだけを目的に行動しているわけではない」
【要点2】本当にツイッターが好き。買収後の経営プランはある
ツイッターの経営陣、経営手法、ユーザー数などに関する最近の批判的な発言から、すでに買収を目指す意思は薄れたのではないかとの憶測が飛び交っている。
しかし、マスクは従業員たちの前で自分がいかにツイッターを「愛しているか」をはっきり伝えた上で、2022年後半に買収を実現させたあとのビジネス展開について、自前のプランをいくつか披露した。
「手振り身振りで自分を表現する人たちがいるように、私はツイッターを使って(自分を表現して)いる」
ツイッターから広告が消え去ることを望んでいるのではなく、「可能な限り面白く楽しませてくれる」広告が残ってほしい。しかも、ユーチューブ(YouTube)で見られるような「詐欺」広告ではなく、「良い製品」だけが広告宣伝の対象であってほしい、とマスクは語った。
また、米決済大手ペイパル(PayPal)の共同創業者でもあるマスクは、ツイッターがそのプラットフォームに決済システムを統合し、ユーザーが互いに(仮想通貨を含む)お金をやり取りしたり、決済したりできるようにすべきと提案した。
「(便利な決済システムを利用できるようになることで)有用性が高まる。ニュース、エンターテインメント、決済、この3つが決定的に重要な領域だと思う。ツイッターなしでは生きていけない、誰もが使いたくなる、そんな心をつかんで離さない存在にどうしたらなれるか、それを考えることが本当に大事だと思う」
【要点3】肩書きはどうでもいい、話を聞いてもらえるなら
パラグ・アグラワル現CEOに代わってツイッターの経営トップに就任する気があるのか問われたマスクは、「肩書きにはさほどこだわっていない。CEOになるかどうかは自分にとって本当にどうでもいいこと」と答えた。
「実際、テスラ(Tesla)が米証券取引委員会(SEC)に提出した書類では、自分の肩書きをCEOから『テクノキング』に変更したし、最高財務責任者(CFO)も『マスター・オブ・コイン』に変えた。そのほうがクールだと思うから」
肩書きに関係なく、プラットフォームのソフトウェア、デザインの改善などを通じて「プロダクトをある特定の方向に導く」のがマスクのやりたいことだという。
「経営に関わることなら何でもやる気ではいるものの、それでもCEOになると(経営と関係ない)雑用も出てくる。私が本当にやりたいのは、プロダクトが確実にスピード感をもって良い方向に進化していけるようにすること。
だから肩書きはどうでもいい。とは言えもちろん、みんなが自分の言うことに耳を傾けてくれなかったら困る」
【要点4】ボットは最大の懸念。ただし完全に理解できていない
ツイッターを「より深く理解」したいのはどんなところかとの質問に対し、マスクは買収合意以来大きな問題と位置づけてきた「(スパム)ボット」を挙げた。
マスクのもとには現在、ツイッターのアクティブユーザーに関する膨大なデータが届けられている最中だ。
Insiderが先日の記事で報じた(6月15日付)ように、すでに合意に至った買収提示額440億ドルを覆して再交渉に持ち込むため、マスクがスパムボット(の広がり)に関するデータを使って「クレイジーな」主張をするのではないかと、ツイッター経営陣は疑っている。
マスクは従業員総会に際して、ツイッター上のボットについて「あまり理解していない」ことを認めた上で、(正確にその広がりを把握できていない)ボットの存在が収益化可能なユーザー数の算出に影響を及ぼすおそれがあることが「私にとって最大の懸念」だと語った。
「(収益化可能なユーザー数は)広告収入とサブスクリプション収入を左右する本当に大事な数字だ」
【要点5】「不快な」「退屈な」コンテンツは必要ない
ツイッターにおける言論の自由について自身はどんなスタンスでいるのか、現在フィルタリングが行われている過激派、虐待、違法コンテンツのまん延にどう対応していくか問われたマスクは、ツイッターが「法規を遵守して」運営されるよう望むと強調しつつ、そうしたコンテンツの存在がユーザー数拡大の妨げになるとの認識を示した。
「ツイッターの魅力をできる限り高めることが重要。そのためには、人々が不快に感じるようなコンテンツを見せないこと。あからさまに言えば、退屈なコンテンツを見せるのも良くない。(動画共有アプリの)ティックトック(TikTok)はユーザーが退屈しないように素晴らしい工夫を凝らしている」
ただし、マスクは最近ティックトックを試してみたばかりのようで、その印象を「ADD(注意欠陥障害の略、現在は注意欠如・多動症[ADHD]とも診断される)みたいな感じだが……その次のレベルに進んだ感じもある」と語っている。
【要点6】ユーザーを10億人に増やす
ツイッターのデイリーアクティブユーザー(毎日最低1度はアプリを開くユーザー)は現在およそ2億3000万人。マスクはこの数字を物足りないと感じているようだ。
「現在のツイッターは……スモールビジネスだ。地球上にはいまや80億人の人間が暮らしているので、78億人はツイッターを使っていないことになる。これはかなり大きな数字だ」
「ツイッターにはもうひとケタ上、もっと多くの人がアクセスし、便利なツールだと感じてもらえるポテンシャルがある」
マスクはこの発言のあと、ポテンシャルを示す具体的な数字として「少なくとも10億人、もしかしたらそれ以上」に使ってもらえると語っている。
【要点7】従業員に株式報酬を提供する
マスクは自らCEOを務める宇宙開発企業で非公開会社のスペースX(SpaceX)が採用しているのと同じような株式ベースの報酬制度を導入する考えを従業員総会で明かした。
ツイッターの従業員は、報酬全体の相当部分が譲渡制限株式ユニット(RSU)の形で四半期ごとに付与(権利確定までに4年間)される方式に慣れている。これから買収が実現して非公開会社になればその報酬制度もなくなる。
スペースXの場合、6カ月ごとに「リクイディティ(流動性)イベント」が開催され、従業員は持ち株を事前に設定された価格(ブルームバーグ報道によれば、2022年5月は1株あたり70ドル)で私募の形で売り出すことができる。
「(スペースXの報酬制度は)ほとんどの従業員にとって非常にうまく機能している。ツイッターに同じような制度を導入するのはひとまず理にかなっていると思う」
【要点8】ツイッターに「役立つ」従業員だけ残ってほしい
マスクはこんな質問にも応じた。
「ツイッターには信じられないほどスマートで才能に恵まれた人たちがたくさん揃っています。あなた(マスク)の信頼を勝ちとるために私たち従業員はどうしたらいいでしょうか。そして、あなたは私たち従業員から信頼を得るために何をするつもりでしょうか」
この質問に対してマスクは、ツイッターを(自分の力で)「次のレベルに」引き上げるとした上で、ツイッターで働くべきではない人物像を示した。
「何か会社の役に立つことをやっているなら、それは素晴らしいこと。一方で、役に立つことをやれていないなら、なぜその人はそこにいるのか。私たちに必要なのはテクノロジーを磨き上げ、デザインを改善すること、ただそれしかない。信頼はそこから生まれてくるのだ」
マスクはさらにこう語った。
「何かを成し遂げようとする従業員を私は愛する。そうでない従業員を「私は好きになれない、愛せもしない。とても分かりやすいことだと思う」
【要点9】「例外的」な場合を除き、対面で働くべき
司会役のバーランドCMOは総会で、従業員のうちおよそ1500人が完全リモートワーク、残り6000人はオフィス勤務とリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークの形で働いている現状に触れた。
マスクは先日、テスラの全従業員は最低でも週40時間以上、オフィスで対面で働くことを義務づける方針を明らかにし、世界中で議論を呼んだ(いまも喧々諤々の議論が続いている)。
従業員総会では、電気自動車(EV)の生産はツイッターで必要とされる仕事とは性質が異なり、さらにテスラでも一部のソフトウェアエンジニアなどは引き続きリモートワークが可能であることを認めた。
そうした現実を踏まえつつも、マスクは対面での仕事を推奨する。
「対面して仕事をすることで刺激を受けたいと考える人もいる。一方で、仕事の内容によっては例外的にそうでない人もいる。リモートワークのほうが効果的効率的に仕事を進められるのであれば、それはもちろん可能だ」
テスラでは、各部署のマネージャーに「卓越した貢献を果たしている」と見なされる従業員の「リストを提出させるだけ」で、そのリストをもとにリモートワークを許可するかどうか判断が行われるという。
それでも、「同僚として、部下として、他の従業員を認識」するためには、ある程度対面で接する必要があるというのがマスクの考えのようだ。
「道を歩いていて同僚とすれ違ったときに、それと気づかないというのは良くないことではないか」
従業員総会に参加したある人物によれば、このマスクの発言を受けてツイッターの社内スラック(Slack)には(総会の進行と並行してリアルタイムの)投稿が殺到し、「混乱」から「暴発」に向かいかけたという。
それを受けて、司会役のバーランドCMOは「あなたのリモートワーク、分散型の働き方に対する考え方は、仕事の内容次第、生産性や有用性次第で賛成ということでいいですよね?」とフォローを入れた。
マスクの回答はこうだ。
「基本的な方向性としては、対面で仕事をする方向にもっていく必要が間違いなくある」
【要点10】ユーザーもクリエイターもツイッターで収入を得てほしい
マスクはここ数週間くり返しツイートで言及してきたユーチューブを引き合いに出した。
クリエイターはユーチューブを使って収入を得ることができるのに、ツイッターではそれができず、他のユーザーやフォロワーとの交流にとどまる。それではもったいないというのがマスクの指摘だ。
「クリエイターは自らのユーチューブ動画に誘導する経路としてツイッターを使っている。生計を立てる手段はユーチューブのほうだから。しかし、本当は(生計を立てる手段とその経路は)ひとつにまとまっているべきだ」
【要点11】マスクは戻ってくる
バーランドCMOは従業員との対話を始める前に、あまりにたくさんの話題に触れる必要があると分かっていたため、総会「第2部」を開いたらまた参加してくれるかどうか、あらかじめマスクにたずねている。
マスクはこう答えている。
「もちろん。喜んで」
[原文:The 12 major takeaways from Elon Musk's first all-hands meeting with Twitter employees]
(翻訳・編集:川村力)