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「質より量」では生き残れない。コクヨ5代目に聞く、売上高3200億円を実現した老舗の生存戦略

3年後の2025年に創業120年を迎える老舗文具・家具メーカーのコクヨ。いま、舵取りを担うのは創業家出身の黒田英邦氏(46)だ。

3年後の2025年に創業120年を迎える老舗文具・家具メーカーのコクヨ。いま、舵取りを担うのは創業家出身の黒田英邦氏(46)だ。

撮影:小林優多郎

3年後の2025年に創業120年を迎える老舗文具・家具メーカーのコクヨ。いま、舵取りを担うのは創業家出身の黒田英邦氏(46)です。

2015年に39歳で5代目社長に就任。コロナ禍にあっても2021年12月期には売上高3200億円、純利益137億円を達成しました。

そんなコクヨも黒田氏が入社する前はリーマンショックによる不況で低迷。社内の運営にもひずみが生まれていました。

いかにしてモノづくりの老舗を立て直し、社内の意識改革を進めたのか。5代目が実行したリバイバルプランを聞きました(全4回)。

特集企画「だから『老舗』は生き残る」:戦争、災害、不況、疫病…日本の老舗は数々の危機をどう乗り越えてきたか。これからの時代「守るべきもの」「変えるべきもの」は何か。伝統企業のトップやキーパーソンに聞きます。

「会社の良くないところ」を良くするために……。

黒田英邦(くろだ・ひでくに):1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父はコクヨ創業者の黒田善太郎氏。

黒田英邦(くろだ・ひでくに):1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父はコクヨ創業者の黒田善太郎氏。

撮影:小林優多郎

──黒田さんは2015年に39歳でコクヨの社長に就任されました。創業家出身の社長として伝統あるメーカーを率いる中で、どんな取り組みを進めてきましたか。

「会社の良くないところを良くする」という仕事をやってきた7年間だったと思います。

私は2001年に入社なのですが、入社から4年が経った2005年にコクヨは創業100周年を迎えました。当時のコクヨは新しい経営モデルとして会社をいくつかの事業会社に分ける経営に舵を切っていたんです。

ただ、その後にリーマンショック(2008年)が起こり、これが経営に大きなインパクトを与えました。

事業環境が悪化した局面に会社を分けていたことで、グループ全体の意思疎通など、社内の運営があまりうまくいかなかったように思います。売り上げも下がっていましたから。

それぞれの事業会社は独立しており、従業員の給与やボーナスも自分たちの利益の中から出していた。悪く言えば、それらを確保するためお客さまからいただく利益を取り合っていたんです。

市場が厳しい中、会社が小さく分かれていたことで、より内向きになってしまった。

──会社として、厳しい状況だった。

事業会社が細かく分かれていると、それぞれが描ける「未来」という絵も小さくなってしまう。

そこで私が社長になった2015年、分かれていた事業会社をもう一度ひとつにしました。

コクヨにはこれまでつくりあげてきたさまざまなアセット(資産・資源)があります。これをみんなで活用しながら、新しい成長の絵を描きたいなと考えたんですね。

目指すのは、コクヨにしか生み出せない「付加価値」だ。

コクヨはオフィス家具、文具事務用品、オフィス通販、インテリアリテール事業を営む。

コクヨはオフィス家具、文具事務用品、オフィス通販、インテリアリテール事業を営む。

小林優多郎、コクヨ「カウネット」

──「新しい成長の絵」のために7年間でどんな動きがありましたか。

まずは会社をもう一度ひとつにして、扱っている商材ごとに4つの事業部をつくりました。この4つの掛け合わせで、より付加価値を上げていくことを大きな方向としてまず決めました。

細かいところでは、複数の部門で重複している顧客であれば事業部の枠を超えて一緒にご提案をしたり。本当に、こういった基本的なことからです。

リーマンショック後、文具やオフィス家具は「質より量」の価格競争に入ってしまいましたが、私たちとしてはコクヨにしかできない「付加価値が高い商品やビジネスをつくろう」と。それがコクヨが生き残るために必要だと考えました。

昔は「たくさんつくって、安く、早く届ける」が第一とされた時代もありました。でも、私たちは「お客さまにとって価値あるものは何か」を第一にしたい。

オフィス家具なら頑丈さやデザイン性は大前提ですが、それぞれの会社さんにとって「よい働き方とは何か」を一緒に考え、そこからご提案できる家具をつくりたい。

文具であれば学び方や勉強のやり方など。いずれもコクヨの商品を使っていただいたことで得られる体験に価値を提供できるような商品サービス・事業にしようと考えています。

もちろん昔からご愛顧いただいている汎用的な商品を捨てることはありません。

新しくつくっていくもの、今あるものに付加価値を付けることで、お客さまの課題解決やワークスタイルに良い影響が出せるようにチャレンジすることを目指しています。

顧客に認められた“付加価値”で「史上最高の総利益率」を実現

コクヨの2021年12月期通期業績(対前年)※赤枠は編集部による。

コクヨの2021年12月期通期業績(対前年)※赤枠は編集部による。

出典:2021年12月期通期決算説明資料

──「付加価値が高いもの」が受け入れられているか、どうやって見ていますか。

指標の一つとしては事業の「総利益率」を見ています。

──いわゆる「粗利」ですね。

この値が高ければ、コクヨがご提案・販売している商品の価値を認めていただき、高く買っていただいているということになります。

おかげさまで2021年度はコクヨとして史上最高の総利益率を出すことができました。

「安くつくって、たくさん売る」ではなく「付加価値が高く、お客さまに価値を認めてもらえるもの」にチャレンジした7年間の成果が見えてきたなと思います。

ただ、高付加価値な商品はニッチなものになりがちです。

コクヨではそれをニッチで終らせず、どうすれば多くの方に受け入れて頂けるのかを考えます。そのほうがチャレンジとしてもやりがいがあるよねと社員とも話をしています。

もうひとつ、「総利益率」と同じく大切にしているのが「シェア」という概念です。

シェアと粗利を高くしようというのが私たちのポリシーであり、追及していくものだと考えています。

例えば、新しいノートを開発するとしましょう。当然、誰に買っていただきたいかを考えますが、そこで「全ての学生さんのシェアを取りに行こう」と考えてはニーズの範囲は膨大になってしまう。

なので「このノートはどういった学生さんをターゲットにしていけば良いのか」「ターゲットとなる学生さんの何パーセントぐらいに買っていただけるか」をまず考えます。

顧客が誰かを決め、その顧客の中で評判が得られるような機能、デザインなど付加価値を追求する。

基本的なことですが、そうすることでシェアと粗利率の両方を改善してきました。

自分本位のモノづくりではなく「お客さんが求めているものか」を大切に。

コクヨが初めてIoT文具として発売した「しゅくだいやる気ペン」。2019年7月の発売以来、約2万5000台を販売している。

コクヨが初めてIoT文具として発売した「しゅくだいやる気ペン」。2019年7月の発売以来、約2万5000台を販売している。

撮影:小林優多郎

──売上高が必ずしも大きくなくとも、総利益率とシェアが高ければ、付加価値が顧客に受け入れられている証左になる、と。

まさに。単に安売りしてシェアを高めても、長期的な意味はありません。

モノづくりは、ついつい自分本位になりがちです。「こういう商品がいいと思う」「過去にこれが売れてたから、これも売れるだろう」「競合が売っているから、うちも出すべきだ」というように。

コクヨでも事業によっては品番が数万〜数十万まである。売れてないものを廃番にしたら新しく出さなきゃいけないとか、「とにかく多種多様な商品を提案することが私たちの役割だ」という慣行が根付いていました。

でも、私たちにとって本当に大事な判断材料は「想定するお客さんが求めているものか」です。

具体的な顧客層を決め、そのお客さまのニーズは何か。その層のシェアをどう高めるかをみんなで議論する。

ニーズを解決するために、どんな付加価値が必要なのかを突き詰める。

その上で、買ってもらうためにはどういう営業や販促、プロモーションの手法が良いかをみんなで考えます。

どうすれば想定したお客さまから本当に必要とされる商品がつくれるのか、提案できるのか。

こんな具合に、会社全体として仕事の姿勢が変わってきたと思います。

──想定顧客とそのニーズを把握すること、顧客視点こそがコクヨの強みになっている。

例えば、ある地区でビルの再開発が進んでいれば、そこにどんな企業さんが入居する可能性があるのかを調べます。

具体的な企業名が浮かべば「どんなオフィスなら喜んでもらえるだろうか」「その会社さんの役に立つ文具やデスクって何だろうか」と考え、どんなニーズがあるのか最新の情勢をもとに仮説を膨らませる。

そこから新しい商品やサービスを広げたりつくっています。新しいアイデアや手法を試すことで、それが結果につながってくる。

これは単に売上高だけを見ているとうまくいきません。

新しいことのスタートは小規模ですが、シェアで見ると「狙ったお客さまの50%に買ってもらえました」ということが頻繁にある。これは会社にとって大きな成果です。

今は何でもネット通販で買える時代。メーカーが品揃えを網羅する価値は相対的にどんどん低下しています。やはり「コクヨならでは」の付加価値が求められていると感じます。

「人は何のために物を買うのか、何のために物をつくるのか」

コクヨグループは「2008年版総合カタログ」から商品のライフサイクルの各段階(「つくる時」 「はこぶ時」「つかう時」「すてる時」)において、ひとつでも環境配慮が十分でない自社商品に「エコバツマーク」を表記。「2011年版総合カタログ」で「エコバツゼロ」を達成した。

コクヨグループは「2008年版総合カタログ」から商品のライフサイクルの各段階(「つくる時」 「はこぶ時」「つかう時」「すてる時」)において、ひとつでも環境配慮が十分でない自社商品に「エコバツマーク」を表記。「2011年版総合カタログ」で「エコバツゼロ」を達成した。

コクヨ公式サイト

──環境への配慮も求められる時代。コクヨでは環境配慮が十分でない商品に「エコバツマーク」をつけ、現在はサステナブルに配慮した商品にシフトしました。

人は何のために物を買うのか、何のために物をつくるのか。自問自答しているのが今の時代です。

お客さまの価値、ワークスタイル、ライフスタイルに対して、何か新しいものを提供できたり、課題を解決する助けになれるか。

コクヨは一般的なモノづくりの会社から、モノを通じて顧客の働き方、勉強のやり方に新しい価値を提供する「コト」をつくる会社になりたいんですね。

コクヨの存在意義も少しずつ変わっています。これまでは幅広いラインナップで販売店さんの信頼を得ながら、品質が良く、価格もこなれているものをお届けしてるブランドでした。

でも最近では、コクヨのサービスや商品を使うと「なんかいいよね」「新しい体験が得られるよね」という感想をいただくようになりました。

売上高だけを見たり、とにかく漠然とモノをつくるよりも、お客さんの顔をちゃんと見て、何を求めてるかをしっかりと考えることが効果的なのだと思います。

【▼続きはこちら▼】

(取材・文:吉川慧

黒田英邦(くろだ・ひでくに):1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父は創業者の黒田善太郎氏。

コクヨ:1905年、当時26歳の黒田善太郎氏が創業した和式帳簿の表紙製造業「黒田表紙店」がルーツ。1917年に社名を「国誉(こくよ)」に変更。「国」は善太郎氏の故郷の富山を意味し、善太郎氏の「国の光、誉れになる」という初心が社名の由来。代表的商品「キャンパスノート」は1975年発売開始。これまでにシリーズ累計で約34億冊を販売。2021年度12月期の連結決算は売上高3201億円、純利益137億円、営業利益200億円。連結従業員は6825名(2021年12月末時点)。
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